FURIKO - PINZORO

FURIKO - PINZORO


 

 大昔ワの国から様々な職業の職人たちを乗せた船がひっそりと出航した。

 霜月家のフリコは女とはこうあるべきと教育されるのが窮屈で、唯一覚えのある薙刀ひとつを携えてこの非公式に国を出る船に潜り込んだ。

 しかし当然のごとく密航がばれて大名の姫様が乗っていると大騒ぎになるが船はもう戻れない。

 フリコは身分など関係ない下働きでも何でもするから連れて行ってくれと懇願しクルーの一員となる。

 

 そして長い航海の末、人も船もぼろぼろになりながらたどり着いた異国の地。そこには初めて見る類の人々や町並みや生活があった。

 土地の人々は独特の風貌と文化を持つ漂着者たちを遠いところからよく来たものだと労ってはくれた。しかし多人数の一行を受け入れられるほど町は大きくなかった。

 一行は町のある狭い平地を避け山を開拓してそこに小さな村を作った。

 

 その後一行と町の人々は友好的な交流を続けていたがある日事件が起こる。フリコが誤って町の青年に手傷を負わせてしまったのだ。

 手に職は無いが腕にそれなりの自信があったフリコは村の守衛をしていた。

 月のない夜に森の中で人影を認め武器を持っているのを見て思わず闇討ちのような形で斬りかかったのだ。

 その青年の名はロロノア・ピンゾロ。流浪の剣士だったが居心地の良い町に用心棒として請われ住み着いていた。

 手練れであったが襲ってきた相手が女だと見抜き軽くあしらおうとしたところ、フリコが想像以上に強く思わず油断した結果傷を負ってしまったのだった。

 

 普段は平和な界隈に起こった流血沙汰は町にも村にも知れ渡ってしまった。

 後日当事者各々から説明がありすぐに誤解は解けたものの、フリコは怪我をさせてしまった負い目がありピンゾロは油断した己の未熟さへの憤りがあり、さらに意地を張ったフリコと口の悪いピンゾロはお互いにだけは素直に謝罪を交わすことができずその後しばらくは顔を合わせるたびに口喧嘩の応酬を続けることとなった。

 

 事件の日以降モヤモヤした気持ちが晴れないピンゾロはある日フリコに手合わせを申し込む。

 あの日怪我を負ったのはあくまでも油断していた自分の落ち度でありいいわけではあるが本来の実力ではなかったことを証明したいと説明した。

 フリコはそれを受け町のはずれの広場で勝負は始まった。

 真っ向からのぶつかり合いとなるとさすがにピンゾロの腕の方が明らかに勝っていたが、野生動物並みの勘の良さとどこから湧き出てくるのか無尽蔵と思われる体力で喰らいついてくるフリコを相手に昼過ぎから始まった勝負は夕暮れ時になっても決着がつかなかった。

 ピンゾロは暗くなってきたのでまた日を改めようと息が上がっているのを覚られないようにフリコに告げた。

 では明日同じ時刻でと言うフリコにイヤ明日はちょっと、とピンゾロは言葉を濁しまた連絡すると告げてその日は別れた。ピンゾロは久方ぶりに体力を使い果たしその日は帰宅するなり一瞬で眠りに落ちた。

 それから二人は時間があれば勝負とも鍛錬ともつかない打ち合いを数えきれないほどこなし、いつしかお互いの強さを認め合うようになる。

 

 月日が過ぎ、二人の間にあったわだかまりも消え軽口をたたき合う間柄になった頃、突然ピンゾロの剣の腕が狂いだす。体の具合が悪いわけでも悩み事があるわけでもなく、全く理由がわからないまま不調が続く。

 剣を交えるフリコもすぐに異変に気付き何かと声をかけ、もし剣の不具合ならばコウ三郎に相談してはどうかと言った。ピンゾロは何故か面映ゆい気持ちを感じながらもその提案に乗る。

 コウ三郎は腕の良い刀鍛冶でピンゾロもここ最近は村を訪れ剣の手入れをしてもらっていた。国は違えど刀談義で盛り上がり年が近いこともあり初めて会った時から二人はすぐに打ち解けた。

 

 ピンゾロがコウ三郎の家を訪ねると、ほぼ毎回フリコがいた。気安い雰囲気でコウ三郎と話している時もあれば土間で食事の支度をしている時もある。

 

 この後ピンゾロはフリコがコウ三郎の許嫁だと勘違いし、そのせいで昨今の不調の原因が判り頭を抱えることとなる。

 じわじわとピンゾロの心身を蝕んでいたその名は恋の病、というものだった。

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