FRIEND ANOTHER ROUTE

FRIEND ANOTHER ROUTE


熱い。

息をするだけで喉が焼ける。

己の肉が焦げる匂いが漂っている。

この千年間忘れたことのない記憶。炎に包まれた城の光景が、眼前で燃え上がる白亜の街並みと重なった。

それでも足は止めない。全てを奪ったユーハバッハを、奴を守る星十字騎士団を、邪魔な死神を燃やし尽くすまでバザード・ブラックは決して止まらない。


『──友達を守るのに理由がいるのか、バズ』


それが、降り注いだ聖別の光から彼を庇った幼馴染の最後の言葉だった。

頑なに口にしなかった昔の名をあっさりと呼んで、満足そうに微笑みさえ浮かべてユーグラム・ハッシュヴァルトは息絶えた。ただ眠りに着いただけかのような穏やかな死に顔を呆然と眺めていたせいで……己の霊圧が異常な程に跳ね上がっていると気付いたのは、暫く時が経ってからのことだった。


「月牙…天衝ッ!!!」


猛スピードで飛来した黒い斬撃を、巨大な炎の壁で相殺する。今のバザード・ブラックは──この世に2人だけの『与える滅却師』からその命ごと全ての力を受け取った彼の炎は、かつての帝国を焼き滅ぼした尸魂界最強の卍解にも匹敵していた。

だが、急激な力の上昇に肉体の強度が追いついていない。炎を放つたびに指先が僅かに灰になっていく。であるならば、己が燃え尽きるより先に全てを焼いてしまえばいいだけだ。


「…だからテメェの相手をしてる暇はねぇんだよ、黒崎一護…!」


立ち塞がった黒衣の死神、特記戦力の一人に対し憎悪をこめて叫ぶ。あぁ、本当に気に食わない。自分を裏切りユーハバッハに下った友を信じて見せた様も、酷く辛そうな顔でこちらに刀を向ける様も、何もかもが認められない。


「──バーナーフィンガー、6」


手にした大剣に深紅の炎を纏わせる。ハッシュヴァルトのもので残っているのはこの剣だけだ。それ以外は髪の一本、爪の一欠片に至るまで、全てこの手で燃やした。聖別を受けた滅却師の肉体がユーハバッハの力の糧にされるかと思うと灰すらも遺したくはなかった。

けれど、この剣だけは燃やせずにいる。柄を握り締める掌に感じる丸い感触。目にするまで忘れ去っていたような、遠い昔のつまらないガラクタ。

そんなものを後生大事にしていた彼はこちらが思っていたより馬鹿な男で、きっと出会った頃の弱虫で不器用な少年から変わっていなかった。それにもっと早く気付いていれば何か違ったのだろうか。もう二度と確かめる術は無い。


「邪魔するなら死んでくれや。バザード・ブラックを覚えておけ、テメェの全てを焼き尽くす滅却師の名だ…!!」


世界を、家族を、友を護らんとする青年に、炎の剣を振り下ろす。自分を『バズ』と呼ぶ声が永遠に喪われた事実を振り払うように。

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