FILM:PINK コビー救出√

FILM:PINK コビー救出√



「もう僕はダメなんです。身も心も……何もかも……僕はティーチの……黒ひげ海賊団のものにされてしまった……」

「でも、それが今の僕にとっての幸せなんです。女として……雌として……愛される幸せ……。もうそれがないと、生きていけないんです……」

だから、ごめんなさいと続けてコビーの姿が消える。

“剃”を使い急速に距離を詰めて蹴りかかってきたコビーを、ルフィは難なくいなした。

しかしそこで攻撃は止まらない。

続けざまに……先鋭化した見聞色の覇気をも使いこなし、幾度となくルフィに襲い掛かるコビー。

けん制と呼ぶには強く、しかし殺す気かと言えば弱いその攻撃に、ルフィはじっと何かを考えるような面持ちで見つめていた。

「お前、こんなに弱かったのか」

「……!」

ひとしきり攻勢が終わったその瞬間、ルフィが口を開く。

確かに、あれほどの勢いでの連撃が終わった後でもルフィにはこれと言ったダメージを与えられていないのだ。

「今度はこっちから行くぞ!」

ぞく、とコビーの背中に怖気が走る。

それは久しく感じていなかった、圧倒的強者と相対する時の感覚……。死の気配だった。

「ギア3!」

親指の先を噛み、息を吹き込めばそのままルフィの腕が巨大化する。

巨人族の腕と見まごうサイズのそれを大きく引き絞り、ルフィはコビーめがけて一切の迷いなく技を放った。

「ゴムゴムの……!象銃(エレファントガン)!!」

超巨大な質量のそれが目にもとまらぬ速さで迫り、コビーは直撃を覚悟して目を閉じる。

けれども、その拳が彼に届くことはなかった。

「闇水!!」

すんでの所で黒ひげが技を発動し、コビーを庇ったのだ。

「ゼハハハハハ!そうはさせねぇよ麦わら!コビーは大事なウチの“お姫様”さ!壊されちまったらたまったもんじゃねぇ!」

今まで後方で沈黙を保っていた黒ひげが、今度は恭しい手つきでコビーの腰元を抱いて言う。

それに一瞬で淫欲に塗れた日々の事を思い出させられて、コビーは無意識の内に黒ひげにしなだれかかった。

ああ、そうだ。自分はこの人に、彼らに貪られて、愛されて、それで“幸せ”なのだから。

この手に身を委ねてさえいればいい。彼らならば、きっと目の前にいる恩人たちを追い返すことなどわけないだろう。

「……ごめんなさい。ルフィさん。僕は貴方たちも、この人たちにも、傷ついてほしくない……。戦ってほしくないんです。だから、お願いです。僕のことは放っておいて、帰ってください……」

そんな風に言えば、黒ひげは機嫌をよくしたのかコビーの身体をすくい上げる。

「んっ!んんぅ……っふ……♡」

唇を合わせると分厚い舌が入り込んで蹂躙し、腰がびくびくといやらしく跳ねるのを止められなかった。

しばらくの間、見せつけるような水音が響く。

そうして解放された時にはもうどろどろに溶けてしまっていて、呆けた顔のコビーを抱きながら黒ひげは楽しそうに笑った。

「見たか麦わら?もうコイツはお前らの知ってるコイツじゃねえ。身も心もおれ達に捧げたただの女さ!」

散々いじくられた大きな手のざらついた感触が、コビーに得も言われぬ陶酔をもたらす。

「そう、なん、です。ルフィ……さん……。僕は……もう……」

ここまですれば流石に諦めることだろう。

こんな、淫蕩に笑う女じみたヤツのことなんか、放って帰る方が身の為なのだから。

きっと軽蔑するに決まっている。だって、彼は、ルフィさんは。自分なんかと違う。夢に向かって進み続ける高潔な人だから──。

「コビー!おめぇ何言ってんだ?」

ルフィから発せられたその言葉に、これから非難の言葉が続くのだろうなと思った。

しかし。

「えろい事が好きとかそーいうのはお前の勝手だけどよ!その“幸せ”ってのは……お前の“夢”より大事なのか?」

投げかけられた言葉はあくまでコビーに対して問いかけるものであった。

「ゆ……め……?」

「思い出せ!コビー!お前おれになんて言ったんだ!何になるって言ったんだ!」

瞬間。コビーの脳裏に駆け巡る過去の情景。

 

『ぼくでも…海軍に入れるでしょうか…!!!』

 

『ルフィさんとは敵ですけど!!海軍に入ってえらくなって悪いやつを取りしまるのがぼくの夢なんです!!小さい頃からの!!!!』

 

『ぼくは!!!海軍将校になる男です!!!』

 

『ルフィさん!!僕らきっとまたそこで会いましょう!!!今度は僕はあなたを捕まえる!!!もっともっと強くなって!!』

 

「ぼ……僕は……!僕の夢は……!」

“幸せ”に塗りつぶされた心に、ヒビが入る。

そしてそれを見逃さないかのようにルフィの攻撃が黒ひげに入り、コビーの身体はするりとその手から抜け出た。

「海軍大将になって……!ルフィさんを必ず捕まえるって……!!」

「だったらよ!お前のいる場所はそこじゃねぇ!!」

(僕の……居場所……!)

何かをルフィが投げてよこしたかと思えば、バシッとそれを受け止める。

それは薄汚れた白いコートで、背中には「正義」の文字が入れられていた。

(僕は……!バカだ!強くなったと思っていたくせに……!また、あの頃の弱い自分に戻っていた!!)

見上げれば、そこにはあの頃と変わらぬ姿のルフィがいた。

いつまでもいつまでも、自分の先を走り続ける。

輝ける太陽の如きその雄姿が、ただそこにあった。

(この人はずっと……!僕なんかよりも、僕の“夢”を信じてくれていたのに!!)

心に覆いかぶさり支配していた“幸せ”は、いつの間にか遠く小さくなっていた。

そして黒ひげに向き直り、毅然とした態度で宣言する。

「僕は海軍大佐コビー!“正義”の名のもとに……!あなた達を捕まえます!黒ひげ海賊団!」

ドン!!と、宣言をする。

それはまさに、黒ひげ海賊団の女であるコビーから、海軍大佐のコビーに戻った瞬間であった。

「ゼハハハ!寝てもねえのに寝取られちまった!」

黒ひげの笑い声が響く。

今度こそはもう、道を迷わない。何故なら、誰よりも信じてくれる人がここにいるから!

「コビー!いくぞ!」

「はい!ルフィさん!!」

 

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