FILM BLACK ~ one_scene②

FILM BLACK ~ one_scene②


※こんなシーンあったらいいな、という妄想詰め合わせ。

 捏造地名やモブキャラ、レスから参考した設定諸々ご注意ください。


***

~ローvsハンコック

美しい脚から、舞うようにして繰り出される──当たれば死が確定するであろう威力の蹴り。

それを必死に避けながら、ローは目の前の人物……ハンコックに向かい、必死に声を上げる。

「やめろ、女帝屋! もう時間がない、こんな事をしている暇は……!」

「黙れ! そなたの数々の失態、もはや目を瞑っておくことは叶わぬ! わらわの怒りを受けてここで沈むがいい!」

激昂し、独特な形で手を構えるハンコック。ローの背筋に嫌な悪寒が走る。

「クソッ、メロメロの実の能力か……!」

こんな場所で石化などしていては確実に間に合わない、そもそも"こんな事"に時間を割いている暇など本当にない。

「──"メロメロ甘風"!」

「"ROOM" ──"シャンブルズ"!」

ハンコックの手から放たれるビームを、寸でのところでワープで躱す。

しかしこんな戦い方が"海賊女帝"にいつまでも通用するわけはない。

「っ聞け、女帝屋。……本当に時間がない、このまま夜明けまでに麦わら屋を奪い返せなければ……おれ達の知るあいつは、永遠に戻って来なくなる!」

「っ、……なに?」

ハンコックの攻撃が止まる。

その様子を伺っていたローは安堵から一つ息を吐き、続ける。

「今のあいつは、自分の意識を奪われている。そしてこのまま放っておくと……その自分の意識すら、消えてしまうらしい」

「なんじゃと!?」

「タイムリミットは夜明けまで、それまでになんとかあいつを連れ戻して意識を取り戻させなければ何もかも終わっちまう。……わかったか女帝屋。今は戦っている暇なんてないんだ」

ローのその言葉にハンコックは美しい顔を歪める。

そして少しの間考えた後、攻撃の構えを解いた。

「……よくわかった、"死の外科医"。今はこの矛を収めておこう。じゃが──」

「わかってる。……無事に全て終わったなら、おれは何が起ころうとも"受け入れる"。……そもそも、今回の件はおれが原因だ」

自分がルフィを街に連れ出さなければ、ルフィとの会話に気を取られていなければ、……あの心地いい時間に浸ってさえいなければ。

きっと防げた悲劇だっただろう、とローは俯き強く拳を握りしめた。

「……わかっておるようで結構。全てが終わったその時、改めてわらわの怒りを受けてもらう」

「ああ……」

「よいか、わらわは決してこの怒りの火を絶やさぬ──ルフィに止められる以外はな」

ハンコックの言葉に、ローは思わず顔を上げた。

そこにあったのは少し少女じみた、勝気な微笑みを浮かべる海賊女帝の姿。

「ふん、わらわを見くびってもらっては困る。そもそもルフィが襲撃者へ遅れを取るなどとは思っておらぬ……そなたらが一緒にいたこと、それ自体が様々なものを鈍らせていた事、最初から分かっておるわ」

「? ああ、だから今回の事はおれのせいだと……」

「違うわ愚か者、最後まで聞くがよい」

ハンコックは呆れたように一息吐き、続ける。

「好いた者と共に居られる時間、意識全てを目の前に注いでおきたいのは当然の事じゃ。故に、今回はそれを狙った向こうが一枚上手であった……それだけの事」

決して許せる理由ではないがな、とハンコックは呟きその場から動き出す。

「何をしている、はよう案内せい。……策があるのであろう? それも聞かせよ」



***

~迷子のゾロと探してたベポペンシャチと偶然合流したキッドとキラー


「……一体全体、何でこんな事態になってやがる?」

不機嫌を隠そうとすらしないまま、キッドは目の前のゾロに訊ねる。

「あ? だからさっきも言っただろうがよ。ルフィがドジ踏んで捕まったんで、おれは"ジュリエット"とかいうバカでかいオークション会場に向かってたんだよ」

「だからそれでなぜこんな街の端の酒場にたどり着くんだロロノア」

ファッファッファ、と声を上げて呆れた声音でキラーが重ねて訊ねる。しかし目の前のゾロは「知らねェよ」と素っ気なく返す。

「こいつらの案内が悪かったんじゃねェか?」

あろうことか隣で困惑したように佇むベポを指し示した。

「すみません…」

「謝るなよ! というかそんなワケねェだろ! 何で街の中心部にあるあんなバカでかい建物を見失うんだよ! ファンタジスタか!」

「おれ達が探しに来なかったらお前一生この街で迷子だぞ海賊狩り!」

両サイドのシャチとペンギンが激しく抗議するも、ゾロの耳からは全て抜け落ちていく。

その様子を呆れた様子で眺めながらキラーはため息を吐き、隣にいる相棒を見た。

「どうする、キッド。思ったよりも事態はめちゃくちゃなようだぞ。……キッド?」

しかしキッドは険しい顔で何かを考えるようにして黙りこくっている。少しして口を開いたかと思えば、

「……おい、トラファルガーの野郎は何してる?」

とゾロに投げかけた。

「トラ男なら別行動だ、こんな状況なのに一人で動くなんてどうかしてやがるぜ」

いやそれお前にも言えることだから! ていうかキャプテンを一緒にすんな! と三つ重なったツッコミを意に介さないように、ゾロはにやりと笑う。

「なんだ、あいつらの事が心配か? かわいいところあるじゃねぇか"ギザ男"」

わざとらしく己のキャプテンが呼ぶようにして目の前のキッドを呼び、ゾロは立ち上がった。……キッドの額に青筋が浮かぶ。

「テメェ、」

「さて、こんなところでぼんやりしてる暇はねェな。さっさと動かねェと」

キッドの言葉を遮り、酒場の──裏口に向かってゾロは歩みを進める。それを慌てて三人がかりで静止される。

「せめて入口くらいはしっかり認識してくれ!」

「うるせェな、おれはこんなところでグズグズしてる暇はねェって言ってるだろ」

「おれ達もさっきからそう言ってるし思ってるよ! 今度こそちゃんと後ついて来いよ!?」

「もうベポ抱えてやれよ。それで迷子になるならもう知らねェけど」

「えぇ~~~~!? なんでおれがァ!?」

騒ぎながら改めて酒場の入り口に向かう四人組、──その背中に低い声が投げられた。

「待てよ。……テメェら、一体何をしでかすつもりだ?」

「……決まってるだろ」


「海賊なら、奪われたもんは奪い返す。それだけだ」


そう言ってゾロは笑う。まるで怖いものなど何もないと示すように。

「気になるなら来るか、頭数は多い方がいい」

「……ハッ、なんでおれたちが骨を折る必要がある。くだらねェ」

「怖ェなら別についてこなくたっていいんだぜ、──逃げ出す自分が格下だって言いたいんならな」

挑発するように放たれたゾロの言葉、そしてそれはキッドの短すぎる導線に火を点けるに十分すぎた。

「言いやがったなこの野郎!」

「キッド! よせ、関わって何に──」

「うるせェ! ……やっぱり気にいらねェんだよ! あんなやつらの言いなりになってたバカザルも、勝手に動きやがるトラファルガーも、テメェらも!」

拳を握りしめ、キッドは叫ぶ。

「おれはあんな格下共と張り合ってたつもりはねェんだ! いいぜ、あいつらに文句の一つでも言えるってならテメェらが起こす騒ぎに乗っかってやる!」

「……ならしっかりついて来い。もう時間はねェからな!」

キッドにそう言い放ち、ゾロは酒場から飛び出して駆けだした──目的のオークション会場とは逆の方向へ。

「「「だからそっちは逆なんだよ!!!」」」



***

~ナミ、サンジ、フランキーと接触するカタクリ


「テメェは……!」

巨大オークション会場"ジュリエット"の廊下にて、サンジは目の前に現れた人物に驚きの表情を浮かべる。

そこにいたのは、ビッグ・マム海賊団の最高幹部「スイート3将星」の一人──シャーロット・カタクリだった。

「っ、最悪……なんでこいつまでここに」

「その口ぶりだと、コイツもルフィの魅力にやられた一人ってコトか……。次から次へと、まったくウチの船長はモテモテだぜ!」

ナミはすぐさま警戒心を剥き出しにし、フランキーもそれに倣って拳を構える。

だが、カタクリから返ってきたのは「待て」という静止の言葉だった。

「おれはお前たちと事を構えるつもりはないし、オークションにも参加はしない……『信用できない』とお前達は言うだろうがな」

カタクリの"未来予知"で答えを言い当てられ、ナミは更に険しい表情を浮かべ、サンジはナミを気遣うように一歩前出てカタクリへ訊ねる。

「……それが分かっていながらどうしてわざわざおれ達の前に出て来たんだ? 答えによっちゃ……」

「『容赦はしない』、もちろん分かっている。船長を奪われて、殺気立っているお前達の前に出るリスクはな」

カタクリはそう答えると懐から何かを取り出し、サンジ達に向けて弾き飛ばす。しかしそれはサンジ達に当たることなく、後ろに迫っていた男に直撃した。

「っうそ、こんな場所でも襲撃が……ってアンタ今まさか私達を、」

「その通り、『助けた』。……おれがここに現れた理由は、貴様らに協力する為だ」

はっきりと告げられた言葉、ナミは動揺して言葉を投げる。

「ど、どういう事? まさかアンタもルフィのこと、」

「そうだ、『助けたい』。……俺を負かした女のあんな姿など見ていられねェ。あれを晒しておくくらいなら、貴様らに協力した方がよっぽどいい」

「っそんな話、信じられるわけないでしょ! 今はとにかくルフィを助けに行かなきゃで大変なの、アンタの話なんて鵜呑みにしてる暇は!」

「落ち着けよナミ。そりゃこいつがルフィに心を奪われた要因は一つかもしれねェが、惚れこむ理由自体は決して一つだけじゃねェ。……おれァ信用するぜ、よろしくな」

「ちょ、……フランキー!」

慌てるナミを横目に、フランキーはカタクリへと手を差し出す。カタクリはその手を、

「……無論だ。麦わらを取り戻すまでの間だが、よろしく頼む」

取り、握手に応じた。

その光景を見たナミは少し逡巡した後、……ため息を吐く。

「ああもう、わかったわよ。それで協力するって言う手前、何らかの手段は持ってきてくれたわけよね?」

「勿論。鏡世界にブリュレを待機させている、ここから入って好きに使え」

ブリュレ、その名を聞いた瞬間にナミは再び嫌な顔をする。

「げっ、アイツまで来てるわけ……」

「まーまーナミさん、好きに使っていいって言ってくれてるわけだし……あっ、もしかして移動は鏡世界よりおれが運ぶ方がイイってコト~~?♡」

「行くわよフランキー! さっさとルフィ取り返してこんな島出ていくわよ!」

「アーウ! スーパー任せな!」

「そんなつれないナミさんも好きだーーッ!!」

そんなやりとりをしながら、カタクリが示した鏡へと入っていく一同。

そして最後、サンジが鏡に入ろうとした時「待て」とカタクリの声がかかる。

「"死の外科医"はどうした、姿が見当たらないが」

「トラ男か? あいつなら今別行動だ、……何か用事でも?」

「いや……ただ話がしたかっただけだ。どうやらおれは"死の外科医"と女の趣味が合いそうな気がしてな」

「……へェ、是非聞かせてもらいたいね。四皇幹部の女の趣味ってヤツ」

軽くからかうようなサンジの言葉を受け、カタクリは首に巻いたファーの下で軽く微笑み、答える。


「世界で一番、自由な女だ」



***

~ウソップとチョッパー…と強力な助っ人


「う"ぅ"~~~~……ル"フィ"~~~~!!」

獣型で駆けながらチョッパーは大粒の涙をボロボロとこぼし、必死に鼻水を啜って泣く。

先ほど広場で晒された光景がどうしても頭を離れない、──いつも明るい船長が、焦点の定まらないうつろな目をしていたあの光景が。

そしてそれは背に乗るウソップも同じで、チョッパーのように大きく泣く事はないまでも目に涙を溜め、強く歯を食いしばっている。

「なぁ、トラ男本当に大丈夫かな! ドフラミンゴなんかに付いて行って……!」

「さァな! でも今は信じるしかねェんだチョッパー! 確かにドフラミンゴは信用できねェヤロウだ……でも、あんなルフィの姿を見ちまった今、縋れるならなんにでも縋ってみるしかねェ。きっと、トラ男だって同じ考えの筈だ!」

「ウソップ……」

「でも、だからってこのまま全部アイツ任せにするわけにゃいかねェ! 走れチョッパー! 何としてもおれ達の船長を取り戻すんだ!」

「おう!!!」

そう決意を新たに街を駆け抜ける二人──の前に、特徴のありすぎるシルエットが飛び出し……そのまま撥ねられた。

「チョッパー!!? おい、今誰か撥ねたぞ!」

「えェ~~~~! ゴメーーーーン! 大丈夫か!!?」

チョッパーは慌てて急ブレーキをかけ、撥ねた人影へと駆け寄る。そこにいたのは……。

「ち、チョッパー先輩に撥ねていただけるなんて、……こ、光栄の極みだべぇ~……」

「変態だー!!!」

「! いや違うぞチョッパー、こいつは……おまえ、バルトロメオ!」

そこにいたのはルフィをはじめとした麦わらの一味を狂信的なまでに慕う男、"人喰い"のバルトロメオであった。

「おまえどうしてここに……いや、それよりも治療が先だ! チョッパー!」

「わかった! 医者ァ~~~~!」

「医者はオメーだろ!」

「おれだー!」

そんな漫才をしつつ、チョッパーは大急ぎでバルトロメオの治療にかかる。

幸いにもそう時間はかからず、二人は改めてバルトロメオから事情を聞く事となった。

聞けばオークションのチラシを手に入れてしまい、いてもたってもいられずこの島へと猛スピードで向かってきたのだという。

「……って事は、おれたちと一緒にルフィを助けにいってくれるのか!?」

「はい! 不肖・バルトロメオ! ルフィ先輩の危機に勇んで駆けつけさせていただきましたべ! おこがましいのは承知だけんども、是非とも皆様と一緒にルフィ先輩救出のため、肩並べさせていただきてェべよ!!」

「おまえ……なんていいヤツなんだ~~~~!」

「おう! 一緒に行こう! ルフィを助けよう!!」

思いもよらぬ助っ人にウソップとチョッパーはバルトロメオの肩を叩き大げさに喜ぶ。

その事にバルトロメオは顔をデレデレとさせながら喜んでいたが、ハッと何かを思い出したような顔をすると声を上げた。

「あっ、そだべそだべ! ウソップ先輩、チョッパー先輩! お二人にご紹介したい方がいらっしゃるんだべ! ただあんま人目のあるところだとダメだってんで……」

「紹介? もしかして、そいつも一緒にルフィを助けに行ってくれるのか?」

「もちろんだべ! というより、この人が一番ルフィ先輩を助けに行きたがってるべ! ささ、こちらへ。案内させていただくべ!」

「ルフィを一番助けに……? トラ男以上にってことか……?」

ウソップとチョッパーの頭に疑問符があふれる。果たして一体どんな人物なのだろうか……。


──一方その頃、路地裏にて。

一人の男が表通りの様子を伺っている。帽子を深く被り、顔の傷を隠すようにして佇んでいた。

手には、壊れた……いや、握りつぶされた電伝虫の受話器がひとつ。

「……さて」

「どうしてこうなったのか……詳しく話を聞かせてもらわないとな、ルフィの恋人。……あァ、いや」


「トラファルガー・ロー」

路地裏の男──サボは、険しい顔でそう呟いた。



***

ロビン、ブルック、ジンベエvsヤンデレ達


「──久しぶりだな、ミス・オールサンデー」

「その呼び方、やめてもらえるかしら? ……クロコダイル」

「ああ、失礼。ニコ・ロビン」

巨大オークション会場"ジュリエット"に存在する広間、第二ホールにてロビンはかつての上司であるクロコダイルと対峙していた。

ただロビン一人に対し、クロコダイルは武器を持った大勢の部下を引き連れていた。……さすがにこれは分が悪い、とロビンは顔を険しくする。

「昔は呼ばれても特に何も思わなかったけれど、今はあまりいい気分じゃないわ」

「クハハ、生意気を言う。どうやらそっちの生活がよほど気に入ったようだな」

「ええ、あなたの下に居た時よりずっと居心地がいいわ」

だが臆していることを悟られるわけにはいかない、と目の前の存在に軽口を叩く。だが、

「無理をするな、ニコ・ロビン。お前は頭のいい女だ、……今の状況が不利ってことくらいとっくに理解しているだろう?」

「っ、!」

「そこをどけ。おれはお前と遊んでいる暇はねェんだ」

とっくの昔にロビンの内心を悟っていたクロコダイルは一歩、また一歩とロビンを威圧するようにして近づいて来る。

「……いいえ、ここは通せない。ルフィを狙っているあなたなら尚更のこと」

「クハハ、バレていた……いや、とっくの昔にわかっていたことか。まァいい」

ロビンの言葉にクロコダイルは特に反応する事もなく、軽く笑い飛ばす。

「そうだ、おれの目的はただ一つ。麦わらの小娘だ、……アレを手に入れられるチャンスが巡って来たんだ。黙ってる理由はないと思うが?」

「でしょうね。だからこそ私達は今苦労してる……」

「なら、楽にしてやってもいいんだぜ。何もできないまま、あいつがおれの手中に収まるところを眺めていろ……やれ」

背後の部下にクロコダイルが号令をかける。途端に彼らはロビンを取り囲み武器の切っ先が、銃口がロビンに向けられる。

「残念だが、ここで退場だな……ニコ・ロビン」

クロコダイルは残忍な笑顔を浮かべ、ロビンは思わず身体を強張らせる。

無情にも数々の武器がロビンに襲い掛かろうとした──その時だった。


「魚人空手”五千枚瓦──」

「"革命舞曲──」


「──正拳"!」

「──ボンナバン"!」


突如飛び込んでくる影と影、それらは一瞬にしてロビンを取り囲んでいた雑兵達に接近すると同時に吹き飛ばす。

技の衝撃で砂埃が舞い、戦いが一瞬止まる。そして砂埃が晴れた時、そこには……

「待たせてしまったの、ロビン。無事か!」

「ヨホホホ、遅れてしまってすみませんロビンさん! ジンベエさんから呼吸を合わせろと……私合わせる呼吸ないんですけども!」

「ジンベエ! ブルック!」

麦わらの一味の二人、ジンベエとブルックがロビンの隣に現れていた。

「チッ、ジンベエてめぇ…」

「やはり来ておったか、クロコダイル……悪いが、我らの船長は貴様のような輩には渡せん」

「ええ。今はトラ男さん達による奪還作戦の真っ最中、邪魔はしないでいただきましょう!」

現れた二人の強者に、クロスギルドの雑兵達は一気に怯む。しかしそれを率いていたクロコダイルだけは一歩も引く様子を見せない。

「奪還作戦? ……"死の外科医"か、余計な真似を」

苦々しい顔で呟くクロコダイル。

「ワシらからすれば、余計な真似をしておるのはお前さん達の方じゃ」

「そうよ、ルフィは誰にも渡せない……いいえ、誰にだって手に入れられるものじゃない」

「全く持ってその通り! 自由を体現せし我らが船長に、あなた方の手の中は狭すぎるというものです」

対する三人は、クロコダイル相手に啖呵を切る。

「悪いけれど、ここで退場するのはあなたよ──サー・クロコダイル!」



***

~捕らわれの…


暗い、暗い部屋の中。

妖しげな光と甘ったるい匂いが充満したこの部屋の真ん中で、鳥籠を模した檻に入れられている少女が一人。

目はうつろで、口はだらしなく開いており、心ここにあらずといった様子の"商品"──麦わらのルフィ。

今は誰も部屋に居らず、閉じ込められた少女は孤独に……いや、自分が孤独という事も理解できないまま、檻の中に座り込んでいる。

……ふと、動きのなかったルフィにとある変化が起こる。ゆっくりとして動きで口を動かし、何かを呟いたのだ。

声は小さく、誰にも届かない呟き。しかし彼女ははっきりと。

「とら、お」

そう、呟いたのだった。



***

~ギア5


舞う、舞う。白い少女が。

踊る、踊る。解放の神が。

声高らかに笑いあげ、誰も手の届かない空を自由に飛び回る少女にその場の誰もが目を奪われる。

破れた黒いドレスは真白の神衣へとかわり、ひらひらと揺れていた。

少女──ルフィは自由に、気ままに、楽し気に空を駆け悪漢達を殴り飛ばす。

現実離れした光景に彼女を捕らえていた者たちはぽかんとした間抜け面で眺め、彼女を手に入れようと躍起になっていた者たちは呆然とそれに見惚れている。

彼女を助け、守ろうとした者たちはその姿に歓声と一部文句を上げ、……彼女の自由を愛し尊ぶ男は、目の前の光景に目を細めた。

男……ローはその眩しさに耐えきれなくなったのか、目を伏せ帽子を深く被る。

「……綺麗だよ、麦わら屋」

その呟きは誰に聞かれることもなく、ただ飛び回るルフィにだけは届いていたのだろう。

なぜなら、ほら、その証拠に。

「──トラ男!」

誰のものでもない少女がその瞳を恋に染めて、ただ一人の男を見つめ、その名を呼んでいたから。



***

~後日談であり前日譚


とある島の港町にあるオープンカフェにて一人の男が新聞を読んでいた。

夏島だというのに黒いファーを羽織り、黒いフードを深く被り顔を隠したおかしな男。

悪い意味で目立つその男に、道行く人々は怪訝そうな目を向けては逸らすという事を繰り返している。

男は視線を気にする様子もなく、ただじっと新聞のとある記事を眺めていた。

そこには「麦わらのルフィ、危機一髪! 救い主はかつての同盟相手・死の外科医!」という見出しが躍り、件の二人の写真が大きく張り出されていた。

「……そうか、もうこの時期だったか」

若者のような、老人のような……判別のつかない声で男が呟く。

男は新聞をたたむと、傍らにあった刀を手に取って席を立ち歩き出す。

「……もう、いいかな。お前に会いに行っても」

「なぁ、"ルフィ"」

そう小さく呟いた瞬間、ことんという軽い音と共に男の姿がその場から消える。


そして、後に残ったのは。

……To Be Continued?

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