FILM BLACK ~ one_scene

FILM BLACK ~ one_scene


※こんなシーンあったらいいな、という妄想。

 捏造地名やモブキャラ、レスから参考した設定諸々ご注意ください。


*****

──オークションの都・ドールハート島。

日が落ち、夜が深くなっても賑やかなこの島の中心地。

そこにある高級ホテルの一室にて、二人の男が向き合っている。男達はどちらも"海賊"であった。


一人は元・王下七武海である"死の外科医"トラファルガー・ロー。

そしてもう一人は、同じく元・王下七武海であり、先日インペルダウンにて脱獄騒ぎを起こした──"天夜叉"ドンキホーテ・ドフラミンゴ。

因縁浅からぬ二人であり、部屋は重々しい空気に包まれている。……理由はそれだけではないが。

「……一体どういうつもりだ、ドフラミンゴ」

重苦しい雰囲気の中で、口火を切ったのはローだった。ドフラミンゴを睨みつける視線には敵意や警戒、そして若干の焦りが見える。

しかし対するドフラミンゴはその視線を特に気にする様子もなく、ただ楽し気に口角を上げている。

「ご挨拶じゃねェかロー、せっかくおれが危ない場面を助けてやったっていうのに」

「助けただと!?」

「あぁそうさ、あのままだとおまえは考えもなしに司会者に飛び掛かり、麦わらに駆け寄っていた……違うか?」

途端にローは言葉をつまらせる。

そして彼の脳裏に思い浮かんだのは先ほどまでいたオークションの野外ステージ、司会の煽る声、うつろな目をした少女、……ルフィの姿。

「……麦わら屋がこんな状況になったのは、おれの責任だ」

「知ってるぜ、デート中だったところを急に襲われたらしいな」

「……デートじゃない。……」

「フッフッフッフッ!」

先ほどの威勢が嘘のようにローは項垂れる。

油断していた、気を抜いていた、自分が周囲を警戒さえしていれば……数多の言い訳を並べては、先ほどのルフィの姿が思い浮かび全ての弱音を許さない。

「いい姿だな、ロー。しばらくその姿を眺めて楽しむのも悪くないが……残念だが時間がないんでな。単刀直入に言う」

「、時間が? おい、一体どういう……」


「このままだと麦わらは一生自分の意識を取り戻すことはねェ」


「……は?」

「さっき晒された麦わらの様子じゃ……そうだな、あと……精々数時間ってところか? 明日の夜明けまで保つかどうか……」

「おい待て、一体どういう意味だ! お前は何を知って……!」

突然告げられた話の衝撃にローは取り乱し、ドフラミンゴに掴みかかる。

だがそれを意に介することなく、ドフラミンゴは手でローを制した。

「どうやら相当頭に血が上っていたみてェだな、ロー。……あの司会者の男が能力者だって気づいてないって事は」

「! ……なんだと……?」

「知らねェか? ……"煽り屋"、って異名の男の事を」

ドフラミンゴは更に笑みを深くし、話を続ける。

"煽り屋"──かつてドフラミンゴが経営していた人間屋にて時折ディスコに変わって司会をしていた男。

彼の司会は熱狂を生み、欲望を煽り、人々の狂暴性を高めるという──とある悪魔の実の能力から出力されるものだという。

「とある時期を境に声をかけても一緒に仕事はしてくれなくなっちまったが、まさかこんなところで出会うとはなぁ……フッフッフッ」

「……なにが言いたい」

「おれがアイツから聞き出した能力の一つに、こんなものがある。『対象の意識を塗り替える』ってやつさ」

「意識を……まさか!?」

「ああ、奴が言った煽り文句──『自由に「あなただけ」を愛する』……あれは嘘じゃない。本当に可能なのさ。それに加えてあの麦わらの様子からして、何重にも能力がかけられている。いや能力だけじゃない、他の催眠や……フッ、薬なんかも使われてるかもなァ。……だからこそ、ここでしくじれば間に合わないってワケだ」

その言葉にローは強く拳を握りしめ、顔を青ざめさせた。

「……麦わら屋」

「そんな顔するなロー。言っただろう? 策があると。麦わらを助けたいなら聞くべきだ、と」

ドフラミンゴが笑い、哂う。

まるで悪魔に取引を持ち掛けられている気分になりながらも、ローは観念したように口を開いた。

「……話してみろ」

「! ……フッフッフッフッ! 素直じゃねェかロー、あの時もそれくらい素直だったらおれも楽だった」

「いいから話せ!」

「そう怒るな。……幸いにも、おれはこの島のあちこちにコネがある。まずはそこから取っ掛かりを作る。それともう少しすれば、強力な味方がこの島にたどり着く。そっちはおまえが接触しておけ」

「……味方? インペルダウン帰りのお前に、そんな親切なお友達がいるとは思えねェが……」

「フッフッフッフッ、言うじゃねェかロー。ただまぁ、"おれの友達"じゃないって事だけは合ってるさ」

「……どういうことだ?」

ローは眉を顰めて問いを投げかけ、対照的にドフラミンゴは愉快そうに笑みを深めて答える。

「なァに、おれはただ……とある島に今回のオークションのチラシを一枚、落としてきてやっただけさ。フッフッフッフッ!」

"天夜叉"の笑い声が響くホテルの一室で、男達は作戦を詰めていく。

全ては、一人の少女を海賊らしく奪い返す。その為だけに。


──一方その頃。

一隻の巨大な船がドールハート島に向かっていた、甲板の上には──怒りに顔を歪め、前方を睨んでいようとなお美しい、一人の女の姿があった。

「待っておれルフィ……我が腹心の友、最愛の人よ。こんなくだらぬ余興から、わらわが絶対に救い出してみせる……」

「そして覚悟せよ"死の外科医"……貴様がついておきながらのこの体たらく、許しておけぬ。わらわの怒りを思い知るがいい…!」


海賊女帝の怒りを乗せて、九蛇の船は進む。──夜明けまで、あと数時間。


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