FGO×プロセカ 類と高杉邂逅編

FGO×プロセカ 類と高杉邂逅編



神代類は走っていた。

夜のシブヤ、星のない空の下。明かりの落とされた街中を息を切らしながら走り続けていた。

背後からは獣のような呻き声と、こちらと距離を縮めようとする足音。彼は見たこともない異形の怪物に追われていた。

(セカイでぬいぐるみくん達と話したりはするけど、まさか現実であんな生き物に会うとは……いや、ここは本当に現実なのか?)

逼迫した状況と比べて、類の思考は冷静だった。

突然訪れた、誰もが音楽を忘れてしまった世界。平穏に回っているが、明らかに何かが欠落した世界。類自身も先ほどまでは、その世界の一員だった。司が思い出させてくれるまでは。

明らかな異常事態が起きているということをショーの仲間たちと共有し、詳しい話は明日行うはずだったのだ。帰り際、司から夜に現れる異形については聞かされていたが、こんなすぐに見つかるとは。

(夜のシブヤなのに、どの建物も明かりがついていない。これも異変の一つだろうか)

類は必死で走りながらも周囲を観察しながら怪物を撒く手立てを考える。このまま逃げていてもいつかは自分の方がスタミナ切れを起こして襲われてしまうだろう。背後から鳴り響く爪の音をできる限り耳で拾いながら、自分の見知ったこの街を頭に思い浮かべ逃走ルートを計算する。

それが完遂できれば、彼は一人でも逃げられたかもしれない。しかし人には往々にして不運が付き纏うものだ。

「わっ!?」

あと少しで逃げ道を割り出せそうだった彼の思考を、道に落ちていた空き缶が阻んだ。そのまま類は派手に転び、そばにあった店のガラス窓に強く身体を打ち付けてしまう。

「いっ……」

衝撃のあまり身体が動かせない。こうして体験してみると、舞台の安全対策の大事さを改めて思い知る。絶体絶命の状況でもショーのことを考えてしまうのは、彼のショーと仲間に対する想いが強いことの表れだろう。


もっともそれを目の前の異形が知ることもなければ、その必要もない。


動けない類の元に怪物がにじり寄ってくる。グルルと低い呻き声が自分の顔の前に近づいてきている。この怪物は類を狩るべきものと認識している。音楽を知るものを異端として処分する役回りなのかもしれない。未だに類はどこか冷静に相手のことを分析をしていた。

怪物が爪を振り上げる。その様子を見ても、痛みに打ち付けられた身体はうまく動かない。

「っ……、怖いな……」

そこでようやく類は自分が恐怖していることを自覚した。音楽を思い出せたのに。みんなとショーを続けたいのに。ここで死ぬのが終わりであってほしくない。

そんな思いなど関係なく、怪物は雄叫びを上げる。そしてそのまま、鋭い爪を振り下ろした。

自身を死に誘う凶刃を瞳に映しながら、類の脳裏に仲間達の顔が浮かぶ。そして、彼らと過ごした時間も。これが走馬灯というやつだろうか。どうしてそんなもの流すんだろう、僕は諦めたくないのに。

そういえば、彼らと初めてやったショーにも今と似たようなシーンがあったっけ。魔王を倒すために旅に出た勇者がモンスターと対峙するシーン。僕は勇敢に立ち向かうこともできていないから、全然違うと言われればそうなんだけど。他の違いといえば敵のモンスターはドラゴンで、勇者には仲間のロボットがいて──


その時、風が吹き荒れた。


「え……?」

同時に天から光が降る。それは類の怪物との間に立ち、目を開けていられないほどの輝きを放っていた。

思わず目を瞑った類は、知らない誰かの声を聞く。力強く響く、まるで舞台役者のような声だと思った。

「おいおい、随分暗いところじゃないか。本当に21世紀か? まあ、それを今から僕が好きにできるなら中々面白い話だな!」

光が収まり、類は瞼を開く。そして目の前には。

「ロボ、ット……?」

灰色の巨体。無機質な装甲。自身の身長をゆうに超える機体が、そこにはいた。

突然の出来事に理解が追いつかないまま、目線を上に移す。よく見れば頭部と思しき場所に誰かが立っていた。束ねられた赤い髪、はためく白い着物。しゃんと背筋を伸ばして立つその男は振り向いて、こちらを見下ろす。暗い中に輝く紅の瞳が類の視線とかち合った。

「どうやら君が僕のマスターらしいな」

「マスター……? もしかして、司くんの言っていたサーヴァントですか?」

「なんだ、知ってるなら話が早い。ならばさっさと目の前の敵にご退場願おうか」

その言葉と共に男の目線が前方に移る。類も同じ方向に目をやれば、そこには突然の出来事にたじろいだ様子の怪物がいた。

それを見て男はニヤリと笑い、自信に満ち溢れた声で叫ぶ。

「さあ、君を勝利に導くとしよう!」

男が目の前にあるハンドルを握ると、機体は音を立てて動き出した。あまりにも現実離れしていて力強い光景に、類はいつの間にか目を輝かせて立ち上がっていた。


「アーチャー、高杉晋作。面白おかしく行こうじゃないか!」


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