Episode.ACCESS 前編

Episode.ACCESS 前編

ながれ


『……Into the ANIMANS! ようこそ、決闘の集会場へ!』

『皆もルールを守って、遊戯王を楽しんでいって欲しいゲー!』




人の意思が交錯し、日々繋がっていく電脳世界。その片隅にそこは在った。

『ANIMANS』。世界的な人気を誇るカードゲームを楽しむ為に作られた、決闘者による、決闘者の為の空間。

そこに存在している者は、日夜自らの腕を研磨し、各々の自論を語り合い、そして決闘でぶつかり合う

ただ戦いを求める者、戦いを通じて自らを示したい者、そしてカードに導かれた者。


ここは誰も拒まない。だが、誰も助けない。

答えへと導く者はあれど、完全な解答を導き出せる者はいない。

その答えは、デュエルの中で見つけるしかない……。幸い、ここにいる決闘者は誰もが戦いに飢えているのだから。


決闘者の戦いの日々に終わりはない。

今日もまた、何処かで決闘の幕が上がる……。


 ◆


数多くの決闘が飛び交うANIMANSの街で、一人の決闘者が歩いていた。

初期スキンである紺色の制服のような服装に、これまた初期設定のままの短髪を雑にまとめている。一目で素人とわかる出で立ちだ。

青年の手に握られているのはデッキだ。これだけは彼の好みなのか、青のケースに仕舞われている。


決闘者であるの名前……いや、ANIMANSにおけるアカウントネームは『流水ながれ』。

彼もまた、戦いを求めて辺境の地、ANIMANSに流れ着いた決闘者の一人であった。



「……三勝三敗、ランクに変動ナシ。かぁ」

『結局は最初のまま。これでは何時になれば頂点に行けるか、わかったものではないですね』

「うるさい。今日が駄目でも明日には勝つ、俺には俺の流れがあるんだよ」

『では、その流れは何時になれば起きるんですか?  あまり失望させないでください』

「わかってるよ。……はぁ。気合い、いれないとな」


どこからか凛とした、それでいて無機的な女性の声が響き、ながれへ厳しい言葉を投げかける。

傍目には独り言のようにしか見えないが、周囲の人間は誰も彼の様子に興味を示さない。

この程度の寄行では誰も驚いたりしない。決闘者達は基本的に他人への関心があまり無いのだ。

そして、彼も周囲の目は気にしていない。ここでは決闘をするかどうかしか興味が無いと知っているのだから。


『その心意気は認めます。ですが、どうするのです? またランク戦に挑むのですか?』

「いや、次はルーム戦に行こうと思う。試運転にもなるし…」


『負けてもリスクが無くて気楽だから。でしょう?』

「そうです……ごめんなさい……」


 ◆


ルーム。というのは決闘者達が個別にデュエルを挑める空間の事だ。

別にそんなことをしなくても、デュエルしたければいつでも、誰でも相手してくれるのだが……。


「ん? 今俺と目が合ったな! 勝負勝負!!!」

「うへへ。いいですよ」

「う わ ぁ ぁ ぁ ぁ つ……辻決闘者が街を練り歩いている」

「さぁさぁさぁ! デュエル開始の宣言をしろ!」


『貴方は戦わなくていいのですか?』

「嫌だよ。あいつ無茶苦茶強いんだから……」


ここでは決闘が全てにおいて優先される。こちらの気分や予定などは二の次、三の次。

あの様に強引に決闘に持ち込むような輩も一定の数存在し、そしてそういう決闘者は異様に強いのだ。

暇な時はともかくとして、本来の相手との決闘の前や調整中の時に来られてしまっては迷惑千万。


そこで利用されるのが、ルームと呼ばれる機能である。特定のパスワード番号を入力する事で許可が降り、入室が可能となる。

この内部では、同じく中にいる決闘者との決闘が楽しめる。男女のプライベートな決闘を行う場としても使用されているそうだ。

とはいえ、彼が今日ルームに来たのはそんな甘い理由ではない。


時折、誰でも入室出来るように設定されているルームが掲示板に張り出されている事がある。

そのルームでは、勝ち負けを気にせずに好きなように戦える……謂わば、息抜きのような場所なのだ。


「ん。……やっぱり、それなりにいるな」


ルームの中は、既に複数の決闘者で賑わっていた。

彼が来る以前から先に決闘をしていたのだろう。掲示板には幾つかのマルやバツが名前と共に記されている。

決闘者がいるなら、やるべき事は一つだけ。デッキを手に取り、空きが来るのを待っていた。



「すみません。もしかしてさっき来た人ですか?」

「ん、そうですけど……貴方は?」

「はい! 私、『海釣りに行きたい人』です!」


目の前の、程よく日に焼けた肌の女の子は、勢いよくそう名乗った。

なんともストレートなネーミングだ。あまりにも直球すぎて、こちらのユーザーネームが逆に恥ずかしくなってくる。

しかし活動的なそのスタイルは動きやすそうで、名前にもある釣りが好きなのも本当かもしれない。


「実はこのルームは私が建てたんです! 皆とデュエルをするのが大好きなんです」

「こうして楽しくデュエルをしたい人が来てくれれば、ここももっと盛り上がると思うので!」


にこにこと楽しげに話す彼女に引き込まれる様に、ながれはうんうんと頷き続ける。

ハキハキ喋るその流れに身を任せながら、彼女の話したい事を聞いていた。


「……それでですが、私と決闘しませんか?」

「はい、はい……。……ん?」


「デュエル? 俺が、貴女とですか?」

「はい! あれ、デュエルする為にこのルームに来たんですよね」

「それは……そうなんですが……」


決闘をする為に来た。というのはそうなのだが、幾らなんでもいきなり過ぎる。

これでは先程の妖怪辻決闘者のそれと、何が違うというのだろうか。


「うーん、その……今は……」

『戦いなさい。これは貴方が望んだ決闘。 決闘者ならば私を上手く扱い、勝利を掴むのです』

『勝てないからと弱気にならず、この決闘で貴方の流れを変えてみせなさい!』


口ごもるながれを、デッキの中から強い口調で叱咤する。

流れを変えろ。そう告げられたならば後には引けない。この決闘を、自分の夢を叶える一歩にしてみせる。


「……わかったよ、言われなくても! 海釣りさん。その決闘、お受けします!」

「ありがとうございます! それでは、対戦よろしくお願いしますね!」


一礼して、向かい合う。互いのデッキを腕に嵌めたディスクにセットする。

ディスプレイには『DUEL』と表示され、フィールドと共に相手や自らのライフポイントが刻まれた。

彼女……海釣りさんも準備は整ったのだろう。それを確認すると、双方は同時に火蓋を切った。




「「決闘(デュエル)!!」」











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