Enjoy alcohol, but don’t let it ruin you.
朝チュンハニトラ藍染は混乱していた。いつの日か、この勘だけは鋭い女上司を取り除かなくてはならぬと決意していた。藍染は、護廷十三隊五番隊副隊長である。平子の隣で仕事をし、霊術院特別講師として若い死神と戯れて暮らしてきた。けれども霊王を倒すという自分の目的に対しては、人一倍に敏感であった。
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その日の朝は正に素晴らしく晴れやかなものであった。 清々しい朝、そんな日に起きれば気持ち良い目覚めを味わえる筈だ。
しかし藍染惣右介の場合はそうはいかなかった。
何故なら彼の隣には女上司、平子真子が寝ていたのだから。
始めに感じたのは酷い頭痛だった。
昨日の最後の記憶は、平子と二人、居酒屋で飲んでいた所までだ。しかしそこからの記憶が無い。
何か自身のイメージが潰れるような事をしていないだろうかと、ふと隣を見れば、そこにはあられもない姿で寝ている平子の姿が。
藍染は頭を抱えた。
どうしてこうなったのか。全く持って思い出せない。
しかし、目の前の光景が事実である事は確かだった。
藍染の頭脳は、この事態の処理をすべきと冷静に判断していこうとするが、
正常な思考の9割ほどはアルコールによって機能していなかった。
ひとまず自身の死覇装を纏いながら、何故自分がこんな真似をしたかを考える。しかし答えは出ず、この事態をどう処理するべきか考えようとするも、ふわりと漂う平子の体臭と香水が混じった不思議な甘い香りに、一瞬で体が硬くなる。
平子の身体を隠すように敷布団をかけようとするも、その身体に触れていた。
一糸纏わぬ平子の体は、細く、女としての起伏も薄い。しかし、慎ましい二つの膨らみは藍染の手によって女であると主張している。
「何故、こんな事に?」
酔いが体調を悪化させ、藍染も何をしているのか分からずまともな理性などない。
…酒臭い息が不快だったのか、平子は小さく呻き声を上げながらゆっくりと瞼を持ち上げた。
その瞼から覗いた瞳は、まだ半分微睡みの中にある。
そして、視線が合うーー前に、即座に藍染は平子の前で頭を下げた。
「申し訳ありません」
誇り高い藍染が、古今東西最高級の謝罪の形式ーつまり土下座をし、告げた。
自分には何も記憶がありません、と。
しかしそんな藍染の心境を知る筈もなく、女上司は 嫌な相手に俺が体を許すと思うか?
そう言ってのけたのだ。
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平子は困惑していた。いつの日か、この有能だが、何かを企んでいる部下を取り除かなくてはならぬと決意していた。
平子には平子なりの正義がある。平子は、護廷十三隊五番隊隊長である。与えられた仕事をし、気の合う死神達と弛んで暮らしてきた。けれども邪悪を見抜く力は、人一倍に敏感であった。
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朝日が部屋を優しく照らしている。目覚めた平子は、隣で異様な光景を目にした。部下である藍染が膝をつき、深々と頭を下げて土下座しているのだ。何しとんコイツ? とまず考え、次に自分の酒臭さに気がつき。二日酔いである事、そして自身が裸である事に気がついた。
ーーほーん、なるほどな?
何か痛いとこあるし?胸元を見れば、虫刺されのような赤い痕や歯型の痕。
更に下に視線を向けるーー朝チュン以外考えられへん。
平子は目覚めて直ぐに合点がいった。
藍染が土下座している理由に思い当たった平子は、彼に対して告げた。
「惣右介ェ、嫌な男に、俺が体を許すと思うとンか?」
いま何と?と顔を上げた藍染の前には、ニヤついた平子の顔が一気に近づいた。
視界が平子の顔で一杯になったと思ったら、唇に柔らかな感触が訪れる。
ただ触れ合わせるだけの口付け。
唐突に成されたその行為に、藍染は驚愕で目を見開く。酔いの覚め切ってていない藍染の様子が余りにも面白くて平子は暫くの間、触れるだけの口付けをし続けたが、流石に息苦しくなって唇を離した。
呆然としている藍染に、顔が歪みそうになるがそれを我慢し、平子は熱い眼差しを送りながら甘く囁く。
「お前ならいいと思ったから、覚悟決めてんで?」と。
平子には実際昨夜の記憶はない。しかしこれは好機だ。この一夜を使って藍染を嵌めてやろうと考えた。
平子は隊長として、自分にしか出来ない事をしている自負がある。その矜持を藍染に邪魔される事は許せない。それに、この優秀で自分の事を目障りだと思っている男を溺れさせるのはきっと面白いだろうと思ったのだ。
平子は、藍染に好かれてはいないが女として見られている事には気づいており、それを逆手に取っていつか上手く利用してやろうとは思っていた。
この事態をどう処理すべきか、藍染は必死に考えている筈だ。しかし、平子はその時間を与えない。
藍染が口を開く前に平子は告げる。
「なあ、惣右介。風呂入らんか?」
身体ベタベタやねん。一緒に洗おうや。
嗜虐を存分に含んだ視線に、藍染は視線を逸らそうにも逸らせない。
寝起きから怒涛の勢いで脳を働かせる平子に対し、藍染は酔いの抜けぬまま固まっていた。
「な?ええやろ?」
「……はい」
そう問いかけられて、平子からの濃厚な色香に飲み込まれながら藍染は頷く他無かったのだった。
そして、ここから平子真子と藍染惣右介の仁義なき色仕掛け合戦の火蓋が切って落とされた。