Don't Stop Me Now

Don't Stop Me Now

Name?

ゴードン。

 

なんだい、ウタ。

 

それじゃあ……、行ってきます!

 

……ああ、気を付けて行っておいで。無茶をするんじゃ、ないぞ。

 

あっはっは! それは無理だよ。だって、わたしは──。

───── 

 



時は飛び、シャボンディ諸島──。

 “偉大なる航路”の折り返し地点であり、聖地マリージョアのひざ元でもあるこの島──。

「おい、もうチケットは残ってないのかよ!?」

「あの“歌姫”と“魂王”の“ワールドツアー”、そのファイナルライブだぞ! 発売と同時にもう完売だよ!」

「キャンセル待ちはもう数万人目だよ! 諦めてモニターで見るんだな!」

「今回のツアー、“|音父《ゼバスティアン》”は不在だってな。おれファンなのに残念だ……」

「なんでも国の復興に忙しいみたいだし、仕方ないんじゃない? あとあの人、結構歳だろうし」

「なあ、このチラシ、本当か? “麦わら”は死んだんじゃ……」

「生きていた、ってことだろ。……鬼のように凶暴な男だって聞くから、できれば関わりたくないもんだ」

「見た者全てを殴り飛ばすほど凶暴な大男なんだってな。頼まれたって見たくもないね」

「完全に死亡説が信じられていた男が、今更仲間を集めるとは……。これはデカいうねりになりそうだ」

 現在、シャボンディ諸島では、二つの大きな話題が飛び交っていた。

 まずは、ブルック、ウタによるワールドツアーのファイナルライブがシャボンディ諸島で行われるということ。

 ここ一年の間、TDセールスランキングでその名前を見ない日はないほどの人気を誇る二人のライブには、諸島内外から多くのファンが詰めかけていた。

 そのライブの様子は映像電伝虫によって、かつて“頂上戦争”を映した大スクリーンで放映される手筈になっていた。

 それでも、電伝虫越しではなく、生のライブを見たい者は後を絶たない。

 グッズも飛ぶように売れ、まだライブは始まっていないというのに、既に祭りのような熱気が、島に満ち溢れていた。

 その影で飛び交う噂は、“麦わらの一味”がそれに乗じて再起を図ろうとしているというものだった。

 ガラの悪い酒場に貼られたり、無造作に配られたりしたチラシに書かれるのは、

『仲間募集』

 の文字。“麦わら”の海賊旗入りのそのチラシを見た海賊たちは、かの“最悪の世代”に数えられる無法者の下へと集まっているらしい……。

「……ねえ、ブルック、このチラシ何?」

 “歌姫”はライブ会場“シャボンドーム”の楽屋にて椅子に座りながら、頭だけ後ろに傾けて後方にいるブルックに声をかける。

 ウタのその手には、どこかから紛れ込んだであろう、“麦わらの一味”の船員募集のチラシが握られている。

 ギターの弦を手入れしながら、“魂王”がそれに応えた。

「たまたま出回った詐欺広告だと見るのが自然かと。ルフィさんが懸賞金を気にするのも妙ですし、らしくない」

「だよね。ルフィがデザインなんてできるハズないし」

「いや、そこは他の人に頼めば何とかなるかと思いますが……」

「あ、そっか」

 そんな会話をして、ウタは手元のチラシをくしゃくしゃと丸めてゴミ箱へと放り投げた。

 過たず、かしゃん、と軽い音がしてゴミはゴミ箱へ。

 ウタは「んーっ」と腕を伸ばして伸びをしてから、全身を脱力させる。

「いやー、それにしても楽しみだなあ」

 ウタの頬が緩んでいる理由は、待ち構えている大きなライブだけが理由ではなかった。

 その理由を知るブルックは、そんなウタの様子を微笑ましく眺めて、それから確認をするように尋ねた。

「……ウタさん、後戻りできなくなりますが、本当に良かったんですね?」

「もちろん!」

 ニカッと歯を見せて、ウタは勝気に笑う。

「ファンを裏切るわけにはいかないからさ」

────

 

 

 

 ブルックたちのライブが始まって一時間が経った頃。

 場所は変わって、シャボンディ諸島一七番マングローブ。

「サニー号……」

 これまでの航海を支えてくれて、そして二年もの間放置してしまったその船を見て、黒く艶のある髪にサングラスを引っ掛けた女性が、仲間との再会を喜ぶようにしみじみと呟いた。

「二年間も……、待たせちゃったわね……無事でよかった」

 彼女が感慨にふけっているとかけられる、明るく大きな声。

「アーウ!! そこにいるい~い女は……! 我が一味のスーパー考古学者!!」

 坊主頭にアロハを纏った男──その機械仕掛けに見える男をただ男として呼んでいいかは甚だ疑問ではあるが──が、頭上で機械の手の甲を合わせ斜めに傾けて言う。

「ロビンじゃねェかよォー!!!」

 感動の場面をぶち壊しにされたからか、数秒の間、ロビンは黙ってその男を見てから、ようやく笑顔を作った。

「変わらないわね、フランキー」

 それに対して、フランキーはその人造人間である箇所をどう改造したか、そしてロマンについて熱く語る。

「────、もはやおれは……人智を越えた!!」

「──そうね、もう人として接することはできなそう」

 一方のロビンは相変わらずのクールさで、辛辣とも取れる言葉を返す。

 それも“麦わらの一味”にとってはいつものやり取り。今更その程度で関係が崩れたりはしない。

 ところで、とロビンが持っていたチラシをフランキーに見せた。

『“S.K BROOK”&“Princess U.T.A” ワールドツアーファイナルライブinシャボンディ諸島』

 という文言が書かれたライブの宣伝広告だった。

「あなた、これご存じ?」

 ロビンの問いに、フランキーは少し考えるように上を向いて、それから答えた。

「──ブルックのことは知っているさ。おれのいた島にもあいつのTDは出回ってたからな。今や世界的“歌姫”の相方、世界の“魂王”……。あいつは今輝いてんのよ! 暗い静かな霧の海から、歓声の止まない光のステージへと上って行った」

 しみじみとした口調で言いながら、フランキーはコーラを掲げて、その瓶の底に反射する光と泡のコントラストを眺めて言う。

「もしかしたら、あいつはもう……」

 寂しそうな口調で、フランキーが言う。

「相方を置いてまで、海賊なんかにゃあ……戻らねェかもしれねェな……」

 その言葉に、ロビンは肯定も否定もせず、静かにライブハウスのある方角へと、その青みがかった瞳を向けるのだった。

────

 

 

 場所と時間は戻って、シャボンディ諸島は三三番グローブ、“シャボンドーム”。

 真っ暗になった客席とは反対に、ステージがライトに照らされる。

 パンパンという火薬の弾ける音とともに煙が舞い上がり、そしてライトが交錯する。

 スポットライトに照らされるのは、二人の男女。

 一人は、王冠を模した帽子をかぶった骸骨。黒を基調とした衣装を身に纏い、ギターを抱える堂々とした佇まいは、彼が骸骨であることを忘れさせるほどに様になっている。

 もう一人は、フードを目深に被った女性。ピンクと赤を基調としたそのパーカーは、かなりのオーバーサイズであり、それが彼女の愛らしさを増しているように見えた。

 フードを被った女性がその右手を振るうと、そこから棒が伸びてマイクスタンドになる。

「やあみんな! やっと会えたね! ウタだよ!!」

 ウタがマイクに向かって言う。

「“魂王”だぜ、BABY!!」

 ブルックが、用意したマイクに向かって言う。

 観客は沸き立ち、思い思いに歓声を上げる。

 まだ曲が始まっていないのに、泣き出す客すら、いる。

「今日は! 最ッ高の!! アニヴァーサリーにしようぜ!!!」

 ブルックの煽りに乗って、観客が拳を突き出して応える。

 ウタもブルックも、確信していた。

 このライブが、伝説のライブになるであろうことを。

「じゃあ、最初から飛ばしていくよ!! さあ喰らえ! 『新時代』!!!」

 ウタの宣言と共に、ギターがうなるような音を上げる。

 ウタがマイクから聞こえるほど大きく息を吸い。

 ファイナルライブが幕を開いた。

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