Death&Girl/中編
「ソレヲ...渡セ。小娘」
少女は内心で小首を傾げる。
--それって、どれのことだろう。まさか弟(たぶん)のこと?
「ダメだよ、メッ!」
「用ガアルノハ赤子ノ方ダ。今ナラ見逃シテヤッテモイイゾ?ククククク……」
何故か親切に忠告してくる虚。村落をここまで徹底的に破壊した存在が親切に忠告などするのか?と疑問を浮かべる少女。
「ククククク……」
「……真似ヲスルナ小娘」
「にてる?」
「アマリ舐メルナヨ、殺サレタイノカ」
虚が頭に血を昇らせている間、少女の精神は異様な成長を続けていた。気がつけば精神を蝕んでいた感覚も消え失せ、代わりにとても温かな感覚が身体を覆っていた。
「ドノ道、逃ゲ場ナドナイノダ。大人シク渡スガイイ」
「やだ」
「ソレハ死ニタイトイウ事カ?」
「……どうして?
----力づくで奪えばいいのに」
おもむろに立ち上がった少女に虚がたじろぐ。推測が確信を得、少女は一歩、二歩と地を踏みしめた。それだけで虚の集団が津波のように引いていく。
謎の感覚の源は少女に大人しく抱かれる弟。その弟から放たれる"力の奔流"とでも呼ぶべきそれが、周囲にまで波及し虚達の足を止めていた。
「できないよね。近づくことすら。だから私にこの子を手放させようとした。赤子に触れることのできる小娘の魂を取り込めば、自分も赤子に触れるから。でもそれ勘違いだよ? 私を食べてもこの子、より力を解放して君達を寄せ付けなくなるだけだもん」
少女が小首を傾げる。穴が空いたような黒目が虚の頭目を見つめた。
「当てが外れたね?」
「……オ、オノレ…!覚エテロ小娘!必ズダ!ヨリ多クノ魂ヲ取リ込ミ、必ズ貴様等ヲ食イ殺ス!帰ルゾ!オマエタチ!」
頭目の命令で遠巻きに見ていた虚達が立ち去ろうとする。
少女が赤子を抱え直す。そして立ち去る虚達に右手を翳し、朧げな記憶を掘り起こす。
--虚はハラを空かせて魂を喰らうのではない。
--苦痛から逃れるために魂を喰らうのだ。
「…………亡くした心を埋めようとして」
右手の中に青白い粒子が集まっていく。
「………ごめん。こんな事しか出来なくて」

虚の頭目は突如魂魄の消失した配下の一体を追い、背後を振り返った。
「……ナ、ナンダ…!?キエタ!?」
この世のありとあらゆる魂魄達は例えその肉体を粉微塵に破壊されたとしても、他の魂魄に取り込まれない限りは時間かけて再生することが可能だった。だが、その消える筈のない魂魄が消失した。
「バカナ!? 一体ナニガ……!」
少女の手の中に、青白い光の球体が複数個収束していた。
光が少女の手から離れ、真っ直ぐに次の犠牲者の元へと飛翔する。
爆発はしない。青白い光に僅かでも触れた虚達は悲鳴をあげることなく塵となって消滅した。
「ナン…ダト!?」
瞬時に事態を把握した虚の頭目は、生き残った配下を置き去りに逃走を選ぶ。
再び、少女の右手に光が収束していく。
「……追え『滅矢』」
放たれた光が今度は意思を持って弧を描き、逃げ惑う虚の群れへと襲いかかった。