DR最終戦
──あァ、腹が立つ。
シュガーとの因縁を清算した私の胸に去来したのは、純然たる怒りだった。鳥カゴなどというものを発動させ、先ほどまで確かに支配していたはずの市民たちをも巻き込んでルフィを、ローを、ウソップを殺そうとするハリボテの王様──ドンキホーテ・ドフラミンゴ。
この悲劇の元凶にして、ドレスローザ最後の敵。
この男はルフィが倒す。何の根拠もないが和多志は知っている。だから今の私がやることは応援すること。迫り来る死から抗うみんなの心を奮い立たせ、背中を押すこと!
昔は歌うとすぐに眠ってしまった。十年以上おもちゃのままで、練習する時間もないままぶっつけ本番。
それでもできるはずだと言い聞かせる。いったい何年眠ってこなかったと思っているんだ。たかだかあと数十分、眠らないことなど簡単なはずだ!
すう、と息を吸い込んだ。国中に実況されている電伝虫に向かって、歌声を吹き込む。
「【──散々な思い出は、悲しみを穿つほど】」
元オモチャの国民たち。戦っている仲間たち。
立ち上がったすべての戦士たちへ。
「【やるせない恨みはアイツのために置いてきたのさ】」
さあ、みんなで戦うときだ。
暗君を引き摺り下ろすときだ。
「【あんたらわかっちゃいないだろ、本当に痛む孤独を】」
ドンキホーテ・ドフラミンゴ。
私たちの孤独を、怒りを、知るときだ。
「【今だけ箍外してきて!】」
ぶわり、と歌声が背中を押す。鳥カゴを押し返す者たちの手に、足に、体全体に力が漲る。
一瞬、鳥カゴの動きが止まった。
「【怒りよ!今、悪党ぶっ飛ばして!そりゃあ愛ある罰だ】」
ルフィもまた、睨みつける視線が鋭くなる。それと同時に、一発の攻撃にさらなる力が乗る。
「【もう眠くはないや、ないや、ないや、もう悲しくないさ、ないさ】」
これを書いたのは今よりずっと昔、サボがルフィたちの前から消えたときだ。貴族に、天竜人に対する怒りを持って書いたこの歌を、サボと再会して天竜人であるドフラミンゴと戦うドレスローザで歌うことになるとは、どんな因果だろうか。
「【そう、怒りよ!今、悪党蹴り飛ばして!そりゃあ愛への罰だ、もう眠くはないな、ないな、ないな】」
結末まであと少し、ハッピーエンドまであと少し。
決着まで、持ち堪えて!
「【もう寂しくないさ、ないさ】」
ルフィが最後の一撃を構えた。無茶な歌い方をしているせいで喉は今にも張り裂けそうだ。
でも、歌は止めない。最後まで!
「【逆光よ───!!!】」
最後の言葉と同時に、ルフィの一撃がドフラミンゴに決まった。
動き出さないドフラミンゴ。消えゆく鳥カゴ。少し遅れて、ギャッツさんの実況が響いた。
勝者、ルーシー。ルフィが、勝った……勝ったんだ!!!
「ルフィー!」
胸に少しずつ湧いてくる喜びが最大になって、私はルフィに向かって駆け出そうとして、
去来した眠気に抗えず昏倒した。