Country Roads
のぶ代「――ギムレット。お前は、waterにも詳しいか……?」
「水(アクア・ウィタエ)か。母なる地球(テラ)より齎されし物。
霊薬(エリクシル)の調合にも欠かせない……故に俺の自我(エゴ)にも深く刻まれている」
「――ならば、頼みがある」
「ほう! 頼みがあると!
ならばワタシは今、永遠の淑女(ベアトリーチェ)となりて煉獄の詩人(ダンテ)を導く標となろう」
「――Thanks。では……」
「ハーハッハッハァ! 行くとしよう! 時は満ちた、決戦の時(ラグナレク)は今だ!」
二人の会話を要約すると「ミネラルウォーター選びに付き合って欲しい」となる。
意気揚々と出かける二人を後目に、通りかかったウマ娘が疑問符を頭に浮かべていたが無理のない話であった。
「――ロブロイにもwaterを貰った事があるのだが……ギムレットの意見も聞きたくなった」
「信頼を勝ち得ているのは喜ばしい事実だな。
戦士(エインヘイヤル)としての直感か?」
「それもあるが……やはり、ギムレットのmocktail、あれは――good taste、だった」
「当然だ。あれこそは我が魂(プシュケー)に刻まれた原初の記憶。存在証明(レゾンデートル)とも言える。
父から継承すべき技術はオリンポスの山々よりも高く険しいが、この試練もいずれ超えて見せよう」
と、話もそこそこに目的地へ到着。
トレセン学園から少し遠くのスーパーマーケット。輸入品を中心に取り扱っていることで有名であり、祖国の品を求めて留学生達がよく訪れている。ここならば取り扱っている品物が多いと見ての遠征であった。
「してクリスエスよ。オマエの所望する神の雫(アクア)はどのような顔を普段覗かせている?」
「――どのような、か。やはり、mineralが多く含まれているものだろうな。硬水、だったか」
ミネラルウォーターは大きく分けて二つに分類される。それが硬水と軟水である。
主に水分中のカルシウムとマグネシウムの量によって分けられるのだが、クリスエスはミネラル含有量の多い硬水を探し求めているようだった。
日本人の多くは飲みやすい軟水を好むが、アメリカ出身の彼女にとっては硬水の方が飲み慣れているのだろう。
「ならばこれはどうだ。ワタシが祝杯を調合するにあたって考慮に入れていた内の一つ……
12の試練を乗り越えし勇者(ヘラクレス)は、この水を恋人(イオリ)と共に飲み喉を潤したと言う」
「――良いだろう」
「この水はアイルランドに起源(ルーツ)を持つ。
翠玉の貴人(ファインモーション)ならば個人で所有している銘柄などあるかもしれんな」
「――覚えておこう」
「海神(ポセイドン)の領域もまた考慮すべき事案の一つと言える。
海底都市(アトランティス)の住民はこの水を常日頃より享受していたのかもしれんな」
「――海洋深層水……」
と、ギムレットの主導であれやこれやとミネラルウォーターを品定めしていく二人。取り敢えずということでカートに入れていった。
籠の中が多種多様の水で満杯になろうとした所で、クリスエスがある事に気づいた。
「――ギムレット。お前の好むwaterは、どれだ」
「俺の好みなど聞いてどうする?
歩調(リズム)をわざわざワタシに合わせる必要など無い。
それとも何か?
デニッシュメアリー“あなたの心が見えない”とでも?」
元来ここにはクリスエスが飲む為のミネラルウォーターを探しに来たはずである。ギムレット自身の嗜好等関係するはずはない訳で。
そう言った考えからか自嘲するようなギムレットをクリスエスが見つめていた。
「――確かに、お前の好みは私とは違うかもしれない。
だからこそ……知っておきたいのだ。
この恩義に報いる時、必ず重要なfactorに――なる」
そうきっぱりと言い切ったクリスエスは薄く笑みを浮かべている。そこには見えづらくとも確実に親愛の念が込められていて。
そうなってはギムレットの返答は一つしか無かった。
「フッ。重要な要素(ファクター)と来られてはな。
良いだろう! 心して聞け! 俺が愛し、ワタシが享受せしその名を! 」
後日、練習中のクリスエスが飲んでいたミネラルウォーター。
普段愛飲しているものとは違う、軟水の天然水。
ギムレットの実家で割り材として使われている銘柄のものであった。