【🥗/CP注意】

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長らく鬼ヶ島本土を上空で支えていた焔雲の消失。同時に新たな焔雲の出現。これにより、鬼ヶ島にいる人々は命を落とさずに済んだ。戦の途中から突如として現れた桃色の龍が現在、鬼ヶ島を天に留めている。そしてそれは長らく戦っていた四皇百獣のカイドウと麦わらのルフィの決着が着いたことを示していた。鬼ヶ島から奈落へと落下していく''ワノ国の皇帝''とは別に、麦わら帽子を被った新時代のルーキーは枯れ果てた大地へと落下していた。そんな''麦わらのルフィ''を抱きとめたのは、今まさに戦っていた相手の娘''ヤマト''である。自身の父が奈落の底へと落ちていったと言うのに、ヤマトと言う娘は麦わらのルフィが父に勝利し、疲れ果てて眠る姿を見て、優しく微笑んだ。

勝者__''カイドウ''改め『ワノ国』天上決戦勝者__''麦わらのルフィ''!!!

ビッグマム、カイドウと、長年この海に君臨した皇帝の2人を討ち取った前代未聞の大事件。そして20年耐え忍んだワノ国の夜明け。真の将軍家である光月モモの助により、長らく続いた決戦はたった今、終結した。


喜びも束の間。

この戦いで数え切れない負傷者が出た。重傷者も多い。皆満身創痍の中、医者たちは立ち上がる。 

「怪我人の手当を急ぐ!重傷者が居たらすぐ医師を呼べ!軽傷者は、悪いが医薬品を運んだり、その他雑務を手伝ってくれよい!」

「軽傷者のみんなは俺の隣にいるトリスタンから色々と説明を聞いてくれ!」

「じゃあ……頼んだよいっ!」

フロアの中心で声を上げるのは不死鳥マルコとわたあめ大好きチョッパーだ。彼らも戦いで傷を負ってはいるが、動けなくなる程では無い。それにマルコに関しては能力によって次第に再生していくため、治療しなくともさほど問題はなかった。チョッパーはマルコの再生の炎で現在進行形で癒し中。背中の刺傷の応急処置はもう既に済んでいる。2人とも無理をしているわけでは無いのだ。

マルコは最も重傷であるだろう麦わらのルフィの元へ、駆けつけようと重心を前へ傾ける。

「……待って。」

そんなマルコの足を止めたのは死の外科医トラファルガー・ローだった。

「私も医者よ。医者としてこのままただ寝てるだけってのは納得いかない。」

全身から血を流し、フラフラとおぼつかない足で立っているローは、誰がどう見ても治療出来る身体ではない。

「駄目だ。」

「私だって医者なんだよっ……!!」

「……トラファルガー。お前は今、治療を受ける側の人間だよい。」

「でもっ!!」

「トナカイ。ここは俺に任せてお前は他の重傷者を見てやれよい。事態は一刻を争う。」

「う、うん!」

それでも尚、食い下がるロー。マルコは言い争っている場合では無いと、ローの訴え振り切り、半ば強引に治療をはじめる。チョッパーはその他重傷者の手当のため、ミヤギの元へと向かった。

「お前何型だよい。」

「答える義務はないわ。」

「お前の体は血を流し過ぎている。早急に輸血が必要だよい。」

「…………。」 

無理矢理治療をはじめたからか、大人しくはしていてくれるものの、協力的では無いその様子にマルコはため息を吐いた。

「そこのシロクマ。お前んとこの船長の血液型は?」

「えっ!えっと……。」

ローは船員のベポをこれでもかと言うほど見詰めている。睨んではいないが『絶対に言うなよ』と意思が籠った瞳に、困ったようなベポは言葉に詰まり、結局何もこたえなかった。埒が明かない。生死に関わる状況下で子供のような態度を取るローに、マルコは次第に眉間に皺が寄ってくる。

「シャチ男!麻酔の準備は出来てるか!」

「はい。出来てますマルコさん!」

「ちょっと!聞いてんの!?不死鳥屋さん!」

ローの訴えは虚しく、問答無用だと言わんばかりの勢いでシャチとペンギンにより注射器で麻酔が投入された。はじめは煩かったローであったが、麻酔の効果が効き始めたようで、次第に瞼を下ろしていく。マルコはようやく静かになった患者を見下ろし、四皇との連戦で、その細い身体に刻まれた傷の処置をはじめた。


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「ねぇ父様!ここの治療法教えてよ。」

「無茶言ってはダメよロー。父様はお仕事で疲れているんだから。」

「いいんだよこれくらい。……どれ、見せて見なさいロー。」

「ありがとう父様!大好き!!」

「姉様だけずるい!ラミにも教えて!」

「ラミはまだわからないだろう?」

「わかるもん!!」

幸せだった頃の記憶。ローの父は国一番の名医で、母は父を支える国一番の看護師だった。そんな両親をローはとても誇りに思っていた。いつか自分もこうなりたいと夢を見ていた。妹のラミと父と母。紛れもないローの宝物であり、大切な人達だった。けれどその幸せの形は突如として崩れる。あれもこれも全て政府が悪い。

ローは世界政府が憎くて仕方なかった。

--アイツらさえいなければ……!!

「おいっ。トラファルガー!大丈夫かよい!?」

ローの故郷''フレバンス''を滅ぼしに来た世界政府及び海軍。あの日の悪夢は薄れゆき、ローの瞳に映る景色は、徐々に真っ白な天井一色になっていった。

「………不死鳥屋さん?」

「お前、魘されてたんだよい。怖い夢でも見たのかい?」

ローの右目からは涙がツーっと頬を伝っていた。その様子を見たマルコはどこから取り出したのか、空色の綺麗なハンカチをローへと差し出す。

「ありがとう。」

ローはハンカチを受け取り、頬の濡れた箇所に当てた。そして辺りを見渡す。真っ白な壁と清潔そうなモスグリーンのフローリング。そこに並ぶのは数十代のベッド達。どうやらここは医務室のようだ、とローは判断した。

「調子はどうだい?」

「……心配ないわ。」

一瞬ローが返答に詰まったことをマルコは見逃さなかったが、それを咎めるつもりもなかった。しかし、マルコの美しい筆跡で書かれた簡易カルテには''あと2日は絶対安静''と記入された。

「何か飲むか?」

「えぇ。」

それを聞いたマルコは手際よく準備をはじめる。「ミネラルウォーターしかないけどいいかい?」という問いにローはコクリと頷く。数秒足らずで渡されたシロクマの可愛いらしいマグカップに注がれたミネラルウォーターに、ローは目を輝かせている。

「美味いかよい。」

「味はしない。」

「それは、そうだろよい!」

クツクツと喉の奥で笑い、当たり前だとでも言いたげなマルコの表情に「もしかして今、私はからかわれている?」と、ローは無意識に眉間に皺が寄る。

「というかこのマグカップ、」

ローは見覚えのあるマグカップに疑問を抱いた。何故なら今飲んでいるこのシロクマのマグカップと同じものを持っていたからだ。それに、この殺風景な医務室に常備されているシンプルな紙コップの中で一人だけ浮いている。

――もしかしたら、このマグカップは自分のかもしれない。

ローはそう考えると「どうしてここに?」と思わずには居られなかった。

「あぁ。ご想像通り、お前のだよい。」

''何故''と問い掛けてくるようなジト目にマルコは言葉を続ける。

「お前のとこの船員が持ってきたんだよい。『キャプテンが目覚めたらこれに飲み物を入れてやってくれ』ってな。」

「アイツらが……。」

「いい船員じゃねぇかよい。慕われてんだねぃ、お前さん。」

「えぇ。全く、世話が焼けるわ。」

ローは少々過保護なクルーを思い、優しく笑う。そんなローの様子にマルコも自然と口角が上がっていた。

「それにしても、お前が起きたら何か言われるもんだと思っていたが……。」

不思議そうな目で見てくるマルコにローは首を傾げる。数秒考え「あぁ、あの時の。」と、自身が治療に駄々を捏ねていた事を思い出した。ローにとっては四皇撃破など様々な要因が重なり、気が動転していた。それ故に恥ずかしい記憶であり、あまり触れて欲しくは無かったが、流石に迷惑をかけたことは自覚していた。

「……あの時は迷惑をかけた。」

バツが悪そうに目線を下に向けるロー。

「お前は血を流し過ぎていた。それに四皇を二人倒したとありゃぁ、気が動転するのも仕方ねぇよい。」

「その……本当にごめんなさい。」

「いいってことよい。それに、お前がこうして目を覚ましてよかった。」

マルコはいつものように人のいい笑顔をローへ向ける。そんなマルコの絆されるような柔らかな笑みに、ローは一瞬、心がドクンと動悸を打つ音が聞こえた気がした。

「あっ、麦わら屋さんはもう目を覚ました?」

ローはそんな感情を誤魔化すかのように、慌ててマルコに言葉を投げかけた。

「いや、まだだ。」

「そう……。」

「そう心配すんな。あと2、3日経てば、麦わらも目が覚めるだろうよい。」

誤魔化すつもりが、逆に気遣われて気まずいローは(もう何も言うまい)と、恥ずかしさを隠すように再び質素なベッドへと潜り込む。

「何も食べねぇのかよい?」

再び眠る気のローへマルコは"意外だ"とでも言うように目線を向けた。

「私は麦わら屋さんと違って大食いじゃない。それに、あんなに食べたら太るわ。」

それに対して"心外だ"とでも言うように、ローは即座に言葉を返す。同期でありライバルでもあり同盟相手でもあるモンキー・D・ルフィの食べっぷりを思い出したローはげんなりした。あの体のどこに大量の食事が入っているのか。その栄養はどこへ行っているのか。ローは前々から不思議でしょうがなかった。

「そうか。まぁ、食べれる時に食べるのが1番だよい。寝るってんなら俺が居ると気が散るだろうよい?ちゃんと別室で作業するから安心して眠れよい。」

男性特有のゴツゴツとした手がローの頭を優しく撫でる。ローはそんな暖かな手に亡き父を思い出し、味気のない白一色の医療用ベッドで、懐かしい記憶に浸っていた。

――いかないで欲しい。

そう言えたらどれだけ楽だろうか。

本心とは裏腹に、ローの口からは「そうするわ。」と無機質な言葉が出ただけだった。

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