C&C-BBバニー
青年は、シンプルな個室でソファに座って待っていた。ソファ、テーブル、冷蔵庫、テレビ、本棚、そして大き目のベッド。
とてもシンプルだ。しかし一つ一つの調度品が並々ならぬこだわりの下に作られている気がする。
空気に飲まれたからなのか、それとも本当にそうなのかは分からないが。
「失礼するよ」
コンコン、と戸を叩く音。どうぞ、と青年が言うとカチャリとドアが開いた。
するりと入ってきたのは、確かにあの写真で見た通りの姿をした人物だった。
黒い肌に、黒い執事服、黒い手袋。一見すると真逆の色合いであるライティーヌのような男装のようで、その視線を下に向けると、
エグイ角度のハイレグに網タイツという艶めかしい装い。
そして何より雄弁に語る胸の大きさが、「彼女」という性別を強く主張していた。
「C&C-BBバニー。キャストとしてはそう名乗らせて貰っているよ」
バニーと呼んでくれたまえ?と、仰々しく、芝居がかった仕草で彼女は一礼をした。
その頭で二本の耳がぴぴん、と揺れる。恰好は確かにバニーガールと言った風体だが、頭のソレは自前のものであるらしい。
それにしても……
「ふふふ、大きすぎると思うかい?」
ずい、と顔を寄せた彼女は、大きく腰を曲げていた。そう、彼女はデカい。
胸も尻もデカいが、何よりその背丈がデカい。目測ではあるが、恐らく190以上はあるだろう。
自前の耳も合わせれば、2mには優に届くだろう。
「なに、私ぐらいのは個性の範疇さ。その気になればプール一杯に広がる事も出来る人も居る」
ふふふ、とバニーは笑う。そして青年の隣を指さして、
「隣、失礼しても?」
慌てて横に詰めようとする青年を引き留め、ぎしりとその横に座る。
……デカいが、低い。並のモデルでは太刀打ちできないレベルで彼女の足が長いのだ。
故に座高は低くなる。座ってしまえば、身長の差は殆ど感じられない。
「よし、それではまずは……乾杯といこうか」
パンパン、と手を叩くと、似たような顔をしたメイド姿の女たちが一礼と共に扉を開けた。その服装自体は様々だ。
スカートがやたら短いのも居れば、クラシックなメイド服のような者もいるし、衣服が意味を成していなさそうな者も居る。
彼女らは手際よく酒とグラス、そしてつまみを配膳し、また一礼と共に去っていく。
「彼女らはルーピーズ。この店の優秀なスタッフだよ」
ぽかんとしてメイドたちを見送った青年に、バニーがカチンとグラスを鳴らしながら手渡した。
グラスを受け取った青年に、慣れた動作で酒を注ぐ。こういうものが芳醇な香り、というのだろうか。
キツ過ぎないアルコールの香りと恐らく何らかの果物の香りがふわっと広がる。
「貴腐ワインだ。口当たりも柔らかくて飲みやすいし、何より美味い」
スッと手渡された瓶を慌てて受け取り、バニーの差し出したグラスに注ぐ。
「うん、ありがとう。さて、それじゃあ……」
乾杯、の言葉と共にカチンとグラス同士がかち合う。
香りを楽しむように液をくゆらせてから喉に通すバニーの姿を見つつ、真似事のように動きを倣う。
数度ワインをグラスの中で揺らし、においを嗅いでみて、グッと口に含む。
……美味い。確かにアルコールを感じるが、甘味が強い。少しとろりとしていて、シロップのようだ。
「カプレーゼもあるよ。コレとよく合う、食べてみてくれ」
串に刺さったトマトとチーズ、そして恐らくオリーブオイルと香辛料の類で作られたソース。差し出されたそれを、
青年がぱくりと口に入れるとバニーは串を引き抜いた。
もぎゅ。じゅぱ。もにゅ。
数度咀嚼。その度に濃厚なチーズの風味とトマトの酸味、そしてオリーブオイルと香辛料のアクセントが口いっぱいに広がる。
美味い……うん、これは美味い。無言で咀嚼するほど、トマトの果肉から果汁が溢れ出す。
しっかりと味わって喉を鳴らし、飲み込む。
手元のワインを見る。くい、とグラスを傾けて一口。
舌で転がし、飲み込む。深い甘みとアルコールの風味が口に広がり、鼻息と共に出ていく。
「はい」
飲み干して僅かに残る甘味。バニーに差し出されたカプレーゼを一口。チーズの風味とトマトの酸味、オリーブオイル、香辛料。
甘味をさらりと洗い流す濃厚ながらもさっぱりとした味わい。そして、僅かに香辛料のピリリとした辛みが残る。
また、手元のグラスを見る。
「ふふふ、お気に召してくれたようで結構。中々人気の組み合わせでね」
言われてハッとすると、楽しそうに目を細めてバニーがグラスを傾けていた。
そして改めて思い返すとこの酒も中々に高いものなのでは、という焦りが生まれる。
そんな青年の心を見透かすように、またバニーが目を細めてくすくすと笑いを漏らした。
「なに、この程度はサービスの一環だよ。お金は気にしなくていい、私との逢瀬を楽しんでおくれ」
モノクルに光を反射させて少し首を傾げる彼女の姿は、それだけで絵になっていた。
女性からも人気がある、という話であったが成程確かに、彼女のルックスは「カッコいい」という形容も出来るだろう。
「この店の高い酒は本当に金持ちぐらいしか頼まないよ。味が繊細過ぎて舌の肥えた人でもないんだ」
「聞いたことは無いかな?味は一定以上になると差異が極僅かにしか現れないというやつだよ」
その段階はもう、趣味の世界さ。と語りながらグラスを傾けるバニーの姿は、実に様になっていた。
「ふふふ、ちなみに私は味が分かる方だと思うかい?」
問いに、どう答えたものかと思案する。見た目はそう言った違いをズバッと当てそうな気配があるが、
わざわざあんな事を言ったのなら彼女もあまり高い酒の違いが分からない方なのか……。
考え込む青年に、バニーは再び笑みを向けた。
「考え込む必要は無いよ、当てずっぽうで良いのさ。私と君は、まだ会ったばかりだからね」
「君はゲスト、私はキャスト。持て成される側と、持て成す側。無体さえ働かぬなら君が遠慮する必要は無い」
「お互いに知らぬ間柄なんだ、どんどん話して知っていこうじゃないか」
彼女はそう言って、再びグラス同士をぶつけた。チンッ、という音と共に。
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「——ふふふっ……そうかそうか、君も苦労しているわけだね」
知らぬ間に青年は、心の奥底まで吐き出していた。人間関係の面倒臭さ、会社の業績低迷への不安、𠮟咤激励しか言わぬ上、
それに疲れ果てて辞めていく同期たち……。
飲みやすい酒をぐいぐいと飲み進め、バニーの聞き上手に箍は外れ、隠すべき言葉もボロボロと零れ出した。
「うんうん……そうか、そうか」
酔いも回り、おおお、と呻くばかりの青年の背をポンポンと叩くバニー。
一先ず水を飲んで落ち着こう、と差し出された水を、ぐいと青年は飲み干した。
冷たいものが喉を通り、臓腑に到着する。その冷たさは、酔いと興奮を事実として和らげる効果があった。
「……ん、大丈夫そうだね」
からんと氷の音を立てながらポットが置かれる。あの水も、もしかしたら不思議な力のある水かもしれない。
冷静になって改めてみてみると、机の上のツマミは既に無く、宴もたけなわと言ったところ。
良い時間だった、と思い立ち上がろうとする青年を、しかしバニーは羽交い絞めにした。
「おやおや、お客様。どうされたのですか?此処からが、本番ですよ?」
ぢゅるり、と青年の耳にバニーの舌が侵入した。びくんと震えて振りほどこうとする青年だったが、力が強い。
その長い手足を絡みつかせるバニーの拘束を振り解けない。じゅるじゅる、ぢゅむぢゅむ、舌が踊り、水音が響く。
するすると身体を這って手が伸び、その指が青年の股座へと到達する。
緩く力を籠めると、硬くなり始めていた青年のモノが手を押し返した。その感触に、バニーは熱っぽい吐息を吐いた。
「ふぅ……ん……ふふ……❤かたぁく、なっているじゃぁないか……❤」
しゅり、しゅり、しゅる。衣服の上からゆっくりとした動きで扱き上げられるモノは、次第に固く、熱くなる。
その上から更にカリカリと指で引っ掻き、焦らしていく。
「かり、かり、かり……❤ふふ、布越しでも気持ちが良いかい❤」
では、もっと先に進んでみようか❤
彼女の指が青年のジッパーを引き下ろす。トランクスの孔からずるりとモノを引き出し、喜色を露にする。
「あ、は……❤❤」
突如、青年の視界がぐんと上がった。バニーが、青年の腰を掴んで引き上げたのだ。
「……ほらっ❤何をしているんだいっ❤肩に足を引っかけてくれっ❤」
段々と息を荒くし始めたバニーの言葉に、青年は一度息を飲みながらも従った。先に訪れるだろう快楽を期待して。
青年がバニーの肩に足を引っかける。丁度、肩車を真正面から行ったような姿勢だ。
「下ろすよ……❤」
ピンと張り出したバニーの舌の上に、ゆっくりと青年の睾丸が乗せられる。それだけでも気持ち良さに呻く青年に目を細め、
しかしバニーは更に青年の身体を下げていく。ヌルついた舌の上で睾丸が滑り、舌はそのまま裏筋へと辿り着き、辿り、
亀頭にまで到達する。そのままゆっくりと、喉の奥まで男のモノを導いてく。
「ん゛も……ご……❤❤」
青年は、快楽に耐える様にバニーの頭に抱き着くような姿勢を取った。バニーの眼が、にんまりと細まる。
青年の腰を掴んだまま、腕と頭によって口への挿入を補助する。
「んぼっ❤ぶふっ❤ぢゅもっ❤んぶぶぶ……っ❤」
ずちゅ、ぬちゅ、ぶぼ。卑猥な水音を立てて、モノが抜き差しされる。
出る。あまりにもあっさりと脳裏をよぎるその予感に青年は耐えようとするが、踏ん張る足場が無い。
結局バニーの頭を抱きかかえ、縋りつくかのような姿勢になり、
「んぶっ❤❤」
あっさりとその精を彼女の口内へ解き放った。根っこから引き抜かれるかのような射精の快楽に、口の端から涎が垂れる。
どぷ、どぷ、と注ぎ込まれる精液をバニーが嚥下する度、喉が蠢き快楽に陰嚢が震える。
どれほどの間そうしていたのか、ゆっくりとバニーがモノを引き抜き、その口との間に唾液の橋が架かる。
「ぷっふ……❤ごちそぉさま❤ん、新鮮で健康な精液だね❤優秀優秀❤❤」
ぺろりと口の周りを嘗め取り、ニッと笑うバニーの笑顔はこれまでの妖艶な雰囲気とは違い、何処か子供っぽかった。
すとん、と青年を下ろしたバニーはつかつかとベッドへと歩みより、慣れた動作で上着を脱いでいく。
壁のハンガーに衣服を引っかけ、ベッドの上に横になる。どういった仕組か、彼女の胸を隠していたバニー服がぺろりと捲れた。
体躯に見合う、或いはそれでも大きく感じる乳房。黒い肌に反して乳輪は淡い桜色をしている。
「さて、お客様」
バニーの赤い瞳が、青年を見据える。それはにんまりと弓なりになり、欲情を隠すつもりも無いとばかりに言い放つ。
「兎は寂しがりでね❤そして性欲も強いんだ❤一人寝寂しい夜には、お相手が欲しいのさ❤❤」
股の布をずらした奥にある彼女の女陰は、ねっとりとした糸を引き、湯気を立てる程に温まっていた。
「お相手、して頂けるかな?」
青年は、遮二無二彼女に飛びかかった。最高に気持ち良く負けてしまうのだろう未来を思いながら。