Blessing

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真希真依(真人)母

DV








「お前は何を産んだのだ!」

頬を打たれ、私は床に叩き伏せられた。口の中に鉄の味が広がる。打たれたことで傷がつき、血が出ているのだ。

「お前は一体……何を産んだんだ」

私は倒れた上体を起き上がらせて、夫と呼ぶべき男を見上げた。

夫の体は震えている。それは怒りからだ。そしてその怒りを発散する術を、夫は何かに当たることでしかできなかった。その何かとは自分より立場が下の者――躯倶留隊の誰かであり、また大抵は私であった。

「申し訳ありません」

私すぐさま夫に頭を下げた。畳の目で擦った頬は微かに痛みを発し、髪紐が解けたため髪の毛が床についた。

夫は謝罪の言葉が欲しいのではなかった。しかし私にできることはこれしかなかった。これがこの家で生きていく方法なのだと、少なくない年月で私は悟った。だから私は夫の気をこれ以上荒立たすことがないよう、そして気が済むようにひたすら頭を下げて謝罪の言葉を述べた。

「申し訳ありません」

ここの部屋ではない遠くから、赤ん坊の声が聞こえる。

泣いている。眠いのだろうか、お腹が空いているのだろうか。それとも……母親を求めているのだろうか。あの子達は今、女中達によって世話を受けているはずだ。だから私がそこへ向かわなくても問題はない。

「お前はとんでもないものを産んだ。……娘二人を産んだことは今は置いておこう。だが――――アレはなんだ」

泣いている赤ん坊は真希だろうか、真依だろうか。それとも二人とも揃って泣いている。

私の子供。この男の血を継いだ子供。呪術師の家に産まれてしまった娘。

「お前は何と交わった? 何を孕んだ? 答えろ!」

「申し訳ありません」

夫の足袋が畳を擦る音が聞こえた。夫の求める答えではないことに気づいている。しかしこれ以外に出す言葉が私の中にはなかった。夫の求める答えを私は知らなかった。

苛立つ夫を宥める言葉はただ謝罪するだけだ。

赤ん坊が泣いている。泣いている子は誰だろうか。真希だろうか、真依だろうか。

あの子ではない。あの子は泣かない子供だから。産まれたとき、産声だって上げなかった。

私が産んだ二人の娘と、そして夫が恐れる一人の子。

夫とも私とも、二人の娘とも違う髪色を持った子。ツギハギのような体を産まれたときから持ちえた子。男とも女とも言えない体を持った半陰陽の子。

そして――呪いを身に宿し呪いに侵されている子。

私が産んだのは人間ではなかった。

私が産んだ子は生きてはなかった。

私が産んだのは呪霊の子であった!

御三家の一つである禪院家から、夫である特別一級術師禪院扇から、私は――祓うべきである呪霊を産んでしまった。

「答えろと言っているのだ。私という夫がいながら何と交わったのだと」

「申し訳ありません」

答えることはできない。答えを知らないのだから。

私が知りたかった、聞きたかった。大きく声を上げて問いたかった。私は何を産んだのだ、なんで私なんだ。

私は、私は何もしていないのに!

子供が泣いている。遠くから泣いている。なのに頭に響くように聞こえてくる。苦しい、痛い。頭は割れそうで、心臓は締め付けられている。

同じことしか述べない私に、やがて夫は呆れ果てて去っていった。私だけが部屋に残された。髪を直すことも傷の手当もしないで、私はしばらく呆然と座り込んでいた。

泣いている赤ん坊の声は聞こえなくなっていた。泣き疲れて眠ったのだろうか。

あの子は一体なんなのだろうか。私は一体何を産んだのだろうか。夫にわからないものが、呪術師ではない私がわかるわけがない。

座り込んでいた体を立ち上がらせて身なりを整えた。禪院の女としてやるべきことがたくさんあった。休む暇などなかった。

その前に、子供の顔を見ようと思った。眠っているとしても、一目だけでも見ていこうと。

私の子供の真希と真依、そして――真人。



夫はこの子に枷を嵌めた。

人間であれと当て嵌めた。

よってこの子の名は真人。

呪霊であり人である子だ。

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