Black Pudding.
#秤アツコ #錠前サオリ #戒野ミサキ #槌永ヒヨリ一人目。手首に傷のある少女が清潔ながら狭い部屋に放棄される。
二人目。一人目の隣に緑髪の少女が寝かされる。
三人目。二人目の隣に黒髪で長髪の少女が廃棄される。
少女たちの頭上に浮かんでいた十字の輝きは見るも無惨に砕かれ、そのほとんどを奪われてしまっていた。全員目は虚で口が開き浅い呼吸だけを繰り返す。信じ難いことに、まだ生きてはいる。
死ねば肉体という頸木から魂が解放されると謳った少女は、生きたまま魂だけを壊された。苦しみの中に揺蕩う少女は、苦しみを正しく認識することすらできなくなった。全ては虚しいと唱える癖に自分以外の仲間は助けてくれと願った少女は、三番目に処理された。
四人目。玉座に腰掛けたガスマスクを着ける少女の静脈に、注射針だけが突き刺さる。
生きようとする心臓の鼓動に合わせて、活力である血液がアーチを描いて体外に排出される。
一言も発さない少女だが、血を抜かれ続ければタダでは済まない。
「はっ……はっ……!」
どんなに虚無を刷り込まれようと身体は勝手に生きようとする。酸素を運ぶ血液が減り、呼吸は無意識のうちに荒くなる。血液ごと体温が外に逃げ、寒さに身体が震えだす。
足りない酸素を補うため、四肢の末端に体温を行き渡らせるため、鼓動は早まり、一層血液が溢れ出す。生きようとする仕組みが死に近づける。
トクトクと赤黒い血液は流れ続ける。姫と呼ばれた少女の指先が痺れ、元から白かった肌が病的に白くなり、冷汗が滲んできた頃、ようやく注射針が抜かれる。
大型のボウル並々一杯分。約1.5リットルの血液を抜き取られた少女はヘイローに一切干渉されていないにも関わらず、他の三人と同程度に憔悴してしまっている。
屠殺人の少女は一つため息をついてから止血の処置とリンゲル液の点滴を済ませると、今宵の食材である少女たちに祈りを捧げ感謝を述べてヘイローの破片と大量の血液を持って屠畜場を後にした。
「みんなー!血取れたよ!!」
調理室に響くやたらに明るい声。
その声にエプロンをつけた少女たちは和かに振り返り、ボウルを抱えてドアの外に立つ少女に歩み寄る。
「わーすごい!いっぱい取れたねえ!」
「おいしそう!」
「ヘイローもキラキラしてて綺麗!!」
「あっ、お湯の準備は大丈夫?ハーブは?小麦粉とオートミールの準備はOK?」
「バッチリ終わらせてるよ」
目を輝かせこの後の晩餐に想いを馳せる少女たちは“食材”を受け取り調理台へ向かう。
「料理終わったら教えてね!」
「はーい!」
「よし、血は鮮度が命。早く始めちゃおう!」
「血は小分けにして〜」
「もうちょっとちょうだい」
「はいよ〜……これなに?」
「未使用の薄層クロマトグラフィー容器。いらないって」
「へぇ……」
興味なさそうな生返事の後に、縦長のガラス製の容器へ次々と血液が注がれる。そこに水と塩を少し混ぜて放っておく。血が固まったら人血の完成だ。
その反対側では血のソーセージ作りが始まる。
「小麦粉、オートミール、ハーブを諸々、軽く混ぜて……」
「ラードを追加」
「人肌で溶かしながら混ぜたら……」
「細かく砕いたヘイローをトッピング」
「混ぜる、丹念に丹念に……」
ぐちゃぐちゃと捏ね回されるヘイロー。くすんだ赤、明るい青、青緑。ムラができないように、しかし煌めきが失われないように手早く。
尊厳なくただ美味しく食べられるために混ざっていく。一つにされる。
「混ざった」
「そしたら仕上げにロイヤルなブラッドを」
「混ぜる」
「んふ、高貴な血に包まれて幸せそう」
「手が血まみれだ」
具材が全て赤に染まる。
色も形も失われて一つになる。
「……よし、タネは終わり。何に詰めるの?」
「ふふん、今日はこれ」
戸棚から取り出されたのは星型のヘイロー。
それを水面に浮かんだ油のような、汚い虹色をしたナイフで断ち切り真っ直ぐに伸ばす。両端から引っ張って都合のいい形に整形する。
伸び切ったヘイローの端を結び、もう一端に息を吹きかける。すると、ヘイローが筒状に膨らんだ。
「なるほど、ここにか」
納得した様子でソーセージスタッファーに具材を流し入れ、金口に筒状にしたヘイローをセットする。
血で汚さないように肘で装置の電源を入れると駆動音と共にヘイローに具材が詰め込まれる。張り裂ける限界の太さまで具材を詰められたヘイローは中身が透けて見えるほどに伸びている。
トリニティの星型ヘイローが、砕けた十字のヘイローと文字通りロイヤルブラッドに満ちる。
「お手手洗ってきなさい」
「ん」
「お湯ー!」
「こっちだよ!」
「ボイルー!」
沸騰しきらない低温のお湯でソーセージが茹でられる。熱された血液が真っ黒に色づく。
そうして、鍋の蒸気に芳しい香草の香りが混ざり始めたら完成である。
「ワインできたー?」
「あるよ」
「早いねー!」
「樽に詰めるだけだからね」
食卓に茹で上がったソーセージと赤ワイン、人血が沈んだスープが並べられる。
「あ、あの子呼んだ?」
「もうそろそろ来ると思うよ」
「ふいー、お、美味しそうな匂い」
作業着を脱ぎ後処理から帰った屠殺人の少女は「座っていい?」と食卓に腰掛ける。
「どうだった?」
「後処理?うーん、コネコネしてるときめっちゃ暴れて大変だったかなぁ。頑張ってベルトで拘束したから怪我はしてないと思う」
「お姫様の方は?」
「点滴して、注射痕も腫れてないし、多分大丈夫」
「それはよかった。また食べられるね」
「ワインはあるし、次はパンだね」
次の食事のことを考えながらくすくすと笑っていると食事の準備が完了した。
「それでは皆さまお祈りを」
【姫よ、貴女の慈しみに感謝し祝福された食事に感謝します】
パリッとソーセージが裂ける音。スープを口に流し込み、チンとワイングラスがぶつかる音。
生きるための生命の営み。食事という享楽の音が愉快に響いた。
『……おいしい!!!』