BadEnd2「狂気」
「それじゃあ⬛︎⬛︎⬛︎、もう十分満足しただろう?私の巫女に戻っておいでよ」
「……はい」
時として、焦りというのは大きく判断を間違えさせる。
視野が狭まり楽観的で短絡的な思考が頭をよぎり、落とし穴にはまる。
はまってしまったことを当人が認識できるかできないかは、人次第だろうが。
マスティハは、ディオニュソスの圧に負けて「頼むから早くこの時間が終わってほしい」という短絡的な気持ちから問いに肯定的な返事を返してしまった。
頭の中に警鐘が鳴り響くというのに、ただのがれたい一心で軽率に答えを出してしまった。
なにか、致命的な答えをしてしまったような焦燥感はあるのだがマスティハにはどうすればいいのかがわからない。
これで念話が通じてさえいればカルナに全力で助けを求めていただろうが、さりとてその繋がりはディオニュソスに断たれている。
「そうだよね!⬛︎⬛︎⬛︎は私の巫女だものね。そう言うのは、分かってたよ」
狂いながらも甘やかに笑うが、マスティハはそれを直視する勇気も無い。
己はディオニュソスの探し求めていた⬛︎⬛︎⬛︎では無い、しかし今この場で突きつければどんな惨状が起きるのかはわからない。
「ようやく私のこと、本当に分かってくれたんだね……」
抱きしめられ、マスティハの心臓が煩いぐらいに脈動する。それは決してトキメキなどではなく、生存本能からだ。
薄暗いワインセラーの中、酒気のほのかに香る密室の中、誰でもいいから助けて欲しいと願った。
それは叶えられた。ワインセラーの外から轟音が聞こえる、爆ぜるような焼けるような、そんな音が。
カルナだ!と察し、マスティハの青ざめかけた頬に僅かに期待をもたらす赤色が指す。
おそらくワインセラーのドアを開けようとしてるのだろう、結界や魔術防壁などで強化されたワインセラーの入り口を力で突破しようとしているのだカルナは。
マスティハは全力で願う、カルナ助けてくれ!早く来てくれ頼む!と。
例え多少の時間がかかろうと、カルナが本気になればそれは難しい話では無い。
だが、多少であれディオニュソスに時間を与えるのは理不尽なことを起こすには十分な時間だった。
「マスティハ!」
突入したカルナが見た光景は、カルナが想像した最悪のものではなかった。
すなわち、ディオニュソスによるマスティハの殺害というような赤の乱舞する景色では無い。
「帰るぞ」
未だ体に残る酒気と酩酊を押さえつけながら、カルナは言葉を絞り出す。
魔力の供給を減らされてるとはいえ、それ意外は盤石万全なディオニュソスがどう出るかはわからないが、それでもここで打って出なければいけない予感がカルナにはあった。
「カルナ……」
「俺は帰らない、ずっとこの方と一緒に居る……」
薄ら笑い、潤んだ目と共に正気を砕かれた言葉がマスティハの口から吐き出された。
顔には狂気じみた恍惚故の赤みがさしていた。
酒神はそれを満足そうに聞いていた、同じく薄く笑いながら。
カルナはそれを、誰も見たことのない瞳で視界に納めた。
BadEnd2「狂気」