Back to the drawing board

Back to the drawing board


一護たちは銀城と合流し、そのまま彼の隠れ家へと向かう。

銀城は継家の姿を捉えた時、露骨に嫌そうな顔をしたが、一護の恩人ということもあって表立ってまた刃を向けるようなことはなかった。

結局、銀城とその仲間たちは互いに位置を知らせるような仕掛けをしていたようで直ぐに見つかり、4人は月島の元へと連れられることになった。

「ねえ、雪緒君と言ったかな?」

「何」

月明かりを頼りに暗い森を進む中、ずっと続いていた沈黙を継家は破った。

「君、ゲームが好きなんだろう? 実は私もそうでね。良かったら貸してあげよう」

「ふうん……?」

一体どこから取り出したのか、継家はゲームのパッケージを雪緒に手渡す。最初は興味深そうにしていたが、パッケージに描かれているゲームを見て雪緒は思い切り顔を顰めた。

「これ、世間でも噂のクソゲーじゃないか……」

「そうだね。滅茶苦茶つまらなかったよ」

「だから僕に押し付けようとしてるの?」

「いや、これは布教用だからあと2本ある」

「は?」

雪緒も実際にやったことはないが、そのゲームに関する悪評はよく耳にする。そんなものをなぜこの男は3本も持っているのか。

雪緒は思わず狂人を見るような目で継家を見てしまった。

「私はこういった所謂『クソゲー』と呼ばれるものが好きでね……こんなにもつまらない物を作れるなんて、もはや惚れ惚れするよ」

「アンタ、頭おかしいよ……」

完全にドン引きしている雪緒にこれ以上勧めるのも酷かと思い、継家はゲームをしまう。ちなみに彼のコレクションはこれだけでなく、ダンボール数個分程はある。

2人がくだらないやりとりをしている間にどうやら目的に着いたようだ。

古びた洋館から、月島は堂々と姿を現す。

殺意が滲む一護を銀城は窘め、織姫は目を伏せる。

「さ、入って入って」

雪緒に勧められるまま、一行が屋敷へと入ると、クラッカーの破裂する音で出迎えられた。

『おかえりーー!』

一護の家族、級友、バイト先の店長が勢揃いしており、唖然とする一護と織姫の手を引く。

「なにボーッとしてんの!ホラ早くこっちおいで!」

「織姫!連絡つかないから心配したんだよ!」

「た、たつきちゃん……」

「ほら、織姫もこっちこっち!」

なんだ、別に平和そうじゃないかと継家が呆気にとられていると、水色が彼に声を掛ける。

「継家さんも来てたんですね」

「うん、残念ながら月島君には呼ばれなかったけどね」

「大丈夫ですよ、あの人優しいですから受け入れてくれますって」

「それなら彼の厚意に甘えようか」

一護の身内への情を利用して精神を摩耗させるような輩の何が優しいのか、継家は思わず鼻で笑ってしまった。

賑やかな雰囲気であったものの、月島の話題が出ると皆貼り付いたような笑みを浮かべて一護を呼び、月島への謝罪を要求する。

「謝れ」

「謝れ」

「謝れ」

いくら記憶を改竄したせいだと理解していても、身近な存在に責め立てられ、一護に殺意と焦燥感が溢れ出す。

一刻も早く月島を斬りたいが、彼らを巻き添えにする訳にもいかないと一護は2階の階段を駆け上がった。

「黒崎くん!」

「待って一護君……階段はしんどい……」

その後を織姫と、ヘロヘロになりながらも継家は追う。

息を切らしながらも継家が扉を開けると、完現術者たちが集結しており、一護は既に囲まれていた。

継家たちの後ろから、銀城も当然階段を登ってきており、自らが2階まで上がり切った後、その階段を大剣で思い切り破壊した。

下の人間たちは無事なんだろうかと土煙の上がる階段を見ながら継家がぼんやりしていると、一護は壁を蹴って月島の腕を切り落とそうと刃を振るった。

「月島さん……!!」

「チャド!!」

しかしその刃は彼の親友によって遮られる。一護は茶渡の姿に思わず刀の軌道をずらそうとするが、勢い良く飛び出した身体は急に止まることも、方向転換することも出来ない。

鮮血と共に、茶渡の腕が放物線を描いて飛んでいく。

「おっと」

「さ、茶渡くん……!今、今治すから!」

飛んできた腕を継家は掴む。断面は美しく、余程長い時間が経たなければ後遺症もなく無事接着されるだろう。そもそも織姫がいればすぐに治る傷だが。

「やっぱり……お前も同じなのかよ……?」

「……『同じ』の意味がわからない――俺はむしろ『違う』から戸惑ってる……」

茶渡は織姫の治療を拒否し、尚も月島を庇うように前に出る。彼は完現術も発動しており、臨戦態勢なのは一目瞭然だ。

「一護……井上……継家さん……お前たちはどうしてこんなことをしてるんだ……! 朽木を助けられたのも……藍染を倒すことができたのも……全部」

「月島さんが居たからじゃないか……!」

咄嗟に継家は口を手で抑える。口角は歪み切っており、抑えなければ笑い声が漏れてしまいそうだった。

この状態の茶渡に自分の保有している映像を見せたらどうなってしまうのか、思わず好奇心が疼く。現実と記憶の整合性が取れずに壊れてしまうのか、それともこんなものは偽物だと映像機器を叩き壊すのか、真実に気づいて一護に拳を向けるのをやめるのか……どう転んでも継家にとっては愉快だ。

くだらない妄想に耽って悦に入っていると、織姫が戦線に飛び出そうとしており、急いでその手を掴む。

「危ないよ?」

「そんな!だって、茶渡くんの腕が……黒崎くんも!」

「治療は後からだって出来る。君ほどの技量の持ち主なら尚更だ。ここで一番マズイのは君が月島君に挟まれて回復薬代わりにされることなんだけど」

「わ、私だって盾舜六花の修行をしました!」

「君の精神性が戦いに不向きなんだ。以前月島君がマンションに来た時もどうするか戸惑ってしまっただろう?」

「う、うう……」

「というわけだからこっちは任せてね!一護くーん!」

「アンタなあ……!」

茶渡の攻撃をいなし、壁をブチ抜いて月島へと攻撃する一護は視界の片隅に軽く手を振る継家を見て最早呆れの声しか出ない。

だがそんなやりとりすらも極限状態だった彼の精神の癒しとなる。あの人に任せておけば井上も無事だろう。今までの継家の行動でそれは証明されており、一護にとって疑う余地もない。

精神状態は先程より良くなったとしても、月島への殺意が消えるわけではない。あろうことか茶渡を肉盾にするような月島の卑怯な戦いぶりに、一護は怒りを露わにする。

「月島ァ!俺の仲間の後ろに隠れてんじゃねえ!出てきててめえが戦えよ!!」

その言葉通り、月島は茶渡の後ろに控えるのやめた。

完現術の魂を使役する力を活用し、一護の背後へと一瞬で回り込み、鈍く光る刃を向けた。

「…………くそっ……」

「銀城!!」

しかし、すんでのところで銀城が割り込み、一護の代わりにその刃を受ける。

今までずっと味方だった銀城も、月島に挟まれて彼を味方だと思ってしまうではないのか、憔悴した様子で一護は倒れ伏した銀城へ必死に声をかける。

しかし彼の様子はなんら変わりない。安心したところに、新しい来訪者が降りてくる。

「――――黒崎」

「…………石田……!」

一護には分からない。既に月島の襲撃に遭っているはずの石田は自分の味方なのか、それとも月島の味方なのか。

石田は弓を構える。味方だと口では言っている。だが自分に弓を向けるのなら答えは一つだ。一護も呼応するように刀を構える。

緊張感に支配された洋館の屋上。それを打ち砕くように、石田は叫んだ。

「解らないのか!!僕を斬ったのは――お前の後ろに居る奴だ!!」

石田の放った矢は銀城に呆気なく吹き飛ばされた。そしてそのまま銀城は呆然とする一護の左半身を斬りつける。

「黒崎!!」

そして石田もまた、背後から迫る月島の兇刃に倒れた。

銀城に完現術を奪われ、一護は絶望に打ちひしがれる。

17ヶ月の間無力感に苛まれていた自分が漸く手に入れた新たな力を失った喪失感、親友が敵に回ってしまった失意の気持ち、そして今まで一護が力を得るために協力してくれたはずの銀城の裏切り。負の感情に脳を揺れ動かされ、一護の目に涙が滲む。

その涙が溢れ、床の染みになるのと同時に――雨が降り始めた。雨音と共に、無力な唯の男子高校生の慟哭が響く。

「いやはや、随分と酷い顔をしているね」

項垂れて地面を見つめるしか出来ず、雨に晒されていた一護の身体に、影が差す。紺色の唐傘を片手に、継家は袴が濡れるのも厭わず膝をつき、一護の顔を手拭いで優しく拭った。

織姫も継家に渡された傘を石田に差しながら、治療を始める。

雨足は随分と和らいでいた。

「継家さん……俺……俺の力が……」

「うん。銀城君に奪われたんでしょう?大丈夫だよ」

「何がっ……何が大丈夫なんだよ!?」

「私の言ったことを覚えているかい? 死神は君の味方だって、言っただろう?」

一護の身体を一振りの刀が貫く。振り返ると、浦原と一心、そして――刀を握った、ルキアが立っていた。

「…………ルキア」

刀から力が溢れ出し、一護の身体は力の波に飲み込まれる。その場を立ち去ろうとしていた銀城と月島はその力の奔流に思わず振り向き、目を見開く。

「黒崎くん、その姿……!」

霧のようなものが晴れた後、一護が身に纏っていたのは織姫も良く見慣れた黒装束。

黒崎一護は、死神の力を取り戻したのだ。

Report Page