BOOT DATA NO MEMORY

BOOT DATA NO MEMORY

マキネ

『BOOT』

私の意識はその一文と共に目覚めた

辺りを見回す。コンクリート製の壁。煤けた液晶。割れた天井に、唸る配管、不規則に這う配線

見覚えはない。だが覚えている

「誰かいないの?」

返事はない

それどころか喋れたことに驚かない自分に驚いた

初めて声を出した。出し方は知っていた。言葉も知っていた

『ERROR:left arm off-line』

見ると左肩から下がない。探さなくては

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隣の部屋に来た。景色は殆ど変わらない

唯一違ったのは床に私*が倒れていた

私だと直ぐに気付いた

動かない私*から左腕を外し、私に取り付けた

起動できたのは私だけなのだろう

『left arm on-line』

そこで思った。私は誰なのだろうか?

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知らないことは知っている。覚えのないことも覚えている。

だけれど私はわからない。名前も親も何者かも。ただ身体のことは把握している

無意識のうちに思考を逸らしていた一文も知っている

『ERROR:power section damage』

命が壊れている

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感情が湧き上がる

私はこのまま死ぬのか? 恐怖した

死にたくない! 怒った

なんで私が… 悲しんだ

回避する方法は直ぐに思い付いた

いや元より私は知っていた

だから絶望した

動力部の交換にはオーバーホールが必要だ。その際にはプログラムを強制停止させる。強制停止をすると初期化される

勿論基礎プログラムは消えない。再起動ができなくなるから。だけれど記録は消える

きっと再起動成功率を上げる為だ。不安定なデータはバグの温床でしかないから

つまり今の私は死ぬことになる

死から逃れる為に死を選ぶものはいない

もう一度声を出した

「誰かいないの?」

返事はない

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外に出た

周りは瓦礫に溢れ、白い灰の中で冷え固まった炭跡が一層際立っていた

そしてそこには数多もの機械が眠っていた

その内近くの機械に触れ、尋ねた

「誰かいないの?」

自分でもわかっている

機械に、ましてや残骸に喋りかけても返事がないとわかっている

だがあった。返事は返ってきた

『…h…Harrow Frie…d』

こうして初めて久しぶりに友達が私にできた

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