BNW勝負服談義
「……不本意だ」
ビワハヤヒデは一言そういって自分の机に倒れ込んだ
彼女の悩みの種である見事な芦毛の髪がもこもこと制服の背中に山を作る光景は大きな綿菓子か何かのようだった
「どうしたの、ハヤヒデ」
スマホの画面から目を離してナリタタイシンが問うとビワハヤヒデは白い山の中から顔を覗かせて
「昨日な、取材を受けたときに撮って貰った勝負服でのグラビア写真をウマッターにアップしたんだ
勿論出版社の人の許可を得てからな」
と語りだした
「うんうん、それで?」
「アップした写真を確認しようとウマッターを見てみたら『センシティブな内容が含まれている可能性が含まれているため表示できません』というメッセージが出てきた
……私の勝負服グラビアはそんなにいかがわしいモノだというのかウマッター社……!」
再び毛髪に埋もれて机に突っ伏すビワハヤヒデ
「……あー、なるほど……」
ビワハヤヒデの言いたいこともわかるがウマッター社の言い分も幾らかは理解できるナリタタイシンの歯切れは悪い
「なんだその返事は、タイシンまで私の勝負服はセンシティブだというのか」
もさり、と白い山を揺らしてメガネの奥からナリタタイシンを拗ねたように睨み付けるビワハヤヒデ
「うん、そのね、ハヤヒデってスタイル良いじゃん」
「体型の維持には気を配っているからな」
「ハヤヒデの勝負服って体のラインも凄くハッキリ見えるじゃん
そうするとね、あの、腰のところの穴がね……」
「アレは走る際に熱が籠もりやすい股関節部の放熱とデザインの両立を意識してデザイナーが開けてくれたんだぞ!
そんないかがわしいモノでは無い!」
己の勝負服へのエロ疑惑に憤慨するビワハヤヒデ
「ハヤヒデがそう思っててもウマッター社はそう思わないんでしょ」
「おのれウマッター社……!」
ビワハヤヒデの憤慨をバッサリと切り捨てるナリタタイシン
しかし言葉と裏腹に表情は同情的だ
「自分の勝負服がそんな見られ方してるってのは良い気持ちじゃないよね」
ナリタタイシンから気遣うような目線を受けて更に憤慨するビワハヤヒデ
「全く、あのスタイリッシュさがわからないとは、男というのはどうしようもないな!」
「アタシの勝負服もなんか気持ち悪いコメントついてるの見たことあるからね」
「……タイシンの勝負服は確かに派手なファッションだとは思うが、そう言われるのか……?」
「アタシの勝負服、右脚が太股までモロに出てるじゃん
そしたらさ、『生足ハアハア』とか気色悪いコメントつけてくる奴がいてさ……」
怒りを思い出したのか耳を絞って不機嫌そうに呟くナリタタイシン
「ああ……」
ビワハヤヒデも嫌そうな顔をしてそれに同調する
「私達はレースのために勝負服を着ているのにな」
「そう言う変態のせいで勝負服着るときにヤな事思い出したりしたくないよね」
嫌そうな顔で意見を述べる二人
「でもさ、勝負服の中にはそう言う変態に見られても仕方ないようなデザインの奴たまにあるじゃん」
ナリタタイシンの見解に
「それは勝負服への非礼ではないのか?
皆がそれぞれの理想を詰めた勝負服なのだぞ?」
今度はこちらが耳を絞って不機嫌そうに応えるビワハヤヒデ
「ねえハヤヒデ」
しかしその不機嫌そうにしかめられた顔は
「アンタ、チケットの勝負服が露出多すぎないかって思った事、ホントに一度も無いの?」
ナリタタイシンの一言で凍り付くこととなった
「………………肌の弱いチケットが、走る上で不都合が生じないように色々と考えた末に出した結論だ
私が外野から余計な事を言うことは出来ないよ」
そう返すビワハヤヒデだが平静を装っても先程まで絞られていた耳はへにゃりと横に垂れており、彼女の苦しい立場が伝わってくる
「でもあの勝負服って脇がでっかく開いてるから水着並に上半身露出してるし、
お尻は超ミニスカートだからスパッツでライン丸見えだし、
下手するとパレオ付きのビキニより露出度は高いよ?」
そこへ容赦なく追い打ちをかけるナリタタイシン
ついでにウイニングチケットへの流れ弾も結構な威力になっている
「う、それは確かに……」
ビワハヤヒデも擁護の言葉が見つからないようで、苦々しい顔をしつつも肯定せざるを得ない
「別にあの勝負服だからってチケットにどうこう思ったりはしないけどさ、やっぱりそう言う目線で見てくる変態のこと考えると心配だよね、チケットだし」
「ああ、チケットだしな……」
友人二人に揃ってこう言われるウイニングチケット
なまじ距離が近い間柄だけに評価にも容赦がない
「ウマッター社が何を考えてセンシティブかどうか決めてるのかはわかんないけどさ、
ある意味そう言う扱いされるってのも心配されてるって事なのかもね」
「確かにそう言う考え方もあるのかも知れないな……」
そう会話を締めくくろうとする二人の前に
「タイシーン!!!ハヤヒデー!!!」
爆音を轟かせてタイミング良く?やって来るウイニングチケット
「「あ、センシティブ」」
「いきなり何のこと!!??」
「チケット、これからは少しだけ周りを気にしようか」
「チケット、アンタも女なんだから油断しちゃダメだからね」
「何のことかは判らないけど凄くヒドい事を言われてる気がする!!??」
ぎゃいぎゃいと騒がしいBNWの三人は今日も仲良しだった