『Alive Live』

『Alive Live』



Happy Birthday UTA



「なんじゃ?お前さんたちそわそわと。」

ある町に停泊していたサニー号。

見張りとして船にいたジンベエが声をかけた先には、若干挙動の不審な二人がいた。

「ん?そういやジンベエは初めてだったな。」

「もうすぐウタの誕生日なんだぞ!」

「なんと、そうじゃったか!」


麦わらの一味に、誕生パーティーの概念はない。

基本騒ぐのが好きな一味は理由もなく宴で騒ぐことが多いため、わざわざそのためだけの宴というのは少ない。

ただそれでもせっかくの記念日、なにもしないわけではない。

例えばお小遣いが少し増える。好きな音楽が自然と流れる。夕飯に好きなものが多めに並ぶなど。

一味それぞれの形でのお祝いがそこにはある。


「…ライブ?」

「おう!二年前の時は、ウタがバースデーライブ開いてくれたんだよ!」

「おれも参加したぞ!すげーその日の宴は盛り上がったんだ!」

海賊歌姫とも称されるウタの記念すべきバースデーライブ。

さぞかし気合いの入ったものがあるのだろう。

「ふむ…わしも何か用意するかの。」

「いいと思うぜ!きっとあいつも喜ぶよ!」

「そうじゃな。…では、少し外すぞ。」

善は急げ。

その言葉に従って、ジンベエもまた船を降りて街へ駆り出していった。

〜〜

その日、ウタは鼻歌まじりに己のための防音室にいた。

今日は誕生日である。

もちろん生きて節目を迎えられているのも十分感謝したいところだが、

本人の嬉しさは別のところから来ていた。


「…えへへ…」

今朝、まず起きての二人からの祝福に加えて新しいアクセサリーが貰えた。

ナミが髪飾りを、ロビンがネックレスを。

さっそく着けてみたが、最高に可愛くておしゃれだ。


次は朝食のサンジだった。

朝からパンケーキ…とは流石にいかなかったが、

それでもフルーツサンドがおまけしてもらえた。

当然ホイップはマシマシだった。

おやつには大本命だとパンケーキだった。

フワフワで今でも頬がどこかに飛んでいきそうだった。


その次にはウソップとチョッパーがバッジをくれた。

なんでも私モチーフの海賊マークとのことで、

流石ウソップのセンスが光っていた。

今は左胸にしっかり止めてある。


お昼はブルックが盛り上げてくれていた。

なんでも今日のために一曲また仕上げたとのこと。

誰かの誕生日のたびに曲を作るブルックはパンツさえ除けば本当に尊敬できる。


そしてフランキーが、お昼に即興でライブステージを芝の上に作ってくれたのだ。

いよいよ夕食の時間も迫り、もうすぐ本番である。


驚いたのはゾロとジンベエだった。

なんと二人で怪獣を取ってきたのだ。

今夜の宴で使う食材が一気に増えた。

…まあ、どうせ船長が大体を食い尽くすのだろうが。


「………………」

「ナンダ?麦ワラニナニモ貰エナカッタノガソンナニ残ネイデデデデデ!!!」

「うっさい。」


そう、今のところルフィだけ特に何もない。

朝食も昼もおやつもしっかり姿は見てるので寝てた訳では無いだろう。

「…ま、分かってるんだけどね。」

そう、昔からルフィのプレゼントは一つ、肉である。

フーシャ村のときも、ダダンのところでも、メリー号の時も、

ルフィは決まって夕食の肉を分けてくれていた。

『ほら、おれの肉分けてやるよ!』

あのルフィが、人に肉を分けてくれるのである。

ルフィを知る人なら必ず驚くその対応を知っているので、特に思うことはない。

今年は果たしてどんな肉がこちらに届くのか、そっちが楽しみまであるくらいだ。


「さて…そろそろ行きますか。」

練習は済んだ。あとは実践あるのみ。

パーカーを羽織り、フードを被り、防音室を出て一気に甲板へと登っていった。

〜〜

一面の海に浮かぶサニー号、ソルジャードッグシステムズのハッチの真上。

そこに今回のステージが準備されていた。

地下からの梯子を登っていき、あと少しのところで一気に跳ぶ。

船上の簡素…と呼ぶには、匠フランキーの趣向の模された洒落の聞いた円形のステージに着地した。


「みんな!ウタだよ…ってえぇ!?」

思わず変な声が出てしまった。そりゃそうだろう。

みんな昼間とは全く別の衣装になっている。

特にウソップはなんだそれは、なんかピエロみたいだが。

「へへーんどうよこの化粧、かっけーだろ!」

「ほら、これもウソップ達と作ってたんだぞ!」

そう言ってチョッパーが見せてきたのは、これまた私の海賊マークの描かれたうちわだ。

「な、なんかちょっと恥ずかしいな…へへ…」

まさかこんなグッズみたいなものまで作られているとは。 

流石に照れてしまう。

「今回のグッズ製作はブルックがかなり頑張ってたのよ?」

「ヨホホ、ソウルキング時代には私もかなりグッズが出ましたから!」

なるほど、このチョイスはブルックからか。

確かに当時のブルックの人気ならこういうグッズも沢山あっただろう。

生憎2年間の私の歌は匿名のため、そういうものとは縁がない。

「衣装はナミ達が用意してくれての。せっかくならライブらしい衣装にしたいということじゃ。」

どうやら本当に一味全員で裏で頑張ってくれてたらしい。

感動で涙が出てきそうだ…肉の焼ける音とトングの音で中和されてるが。

「お前いつまで焼いてんだクソゴム!」

「痛っでェ!」

とうとうサンジからの灸が飛んでいった。

「アハハ…まぁルフィだし…それよりそろそろ始めよっか!」

気を持ち直して、マイクの準備をする。

「みんな!今日のバースデーライブ、楽しんでね!」

『オオ!』

気合の入った返事の後に、夜の海に『新時代』が響いた。

〜〜

その後は大盛りあがりだった。

『私は最強』も『逆光』も『ウタカタララバイ』も『世界のつづき』も歌った。

ついでに中のそれがうるさいので『Tot musica』も歌ってやった。

今は休憩含め宴に参加中だ。

「…プハッ!あー歌った!」

まさかこんなおしゃれなライブができるとは思ってなかった。

本当にみんなには感謝しないとだろう。

そう思っていたときだった。

「おいウタ!」

とうとうルフィが肉を両手に抱えてきた。

「ほらこれ、やるよ!」

片手にあった大きいそれを手渡される。

「うん、ありがとう。」

いつも通りのプレゼントを貰えた。

しかも今回は随分なビッグサイズではないか。

「そうだ、せっかくだし早食い勝負しようよ!」

「いいぞ!肉なら負けねェ!」

『よーい、321!』

掛け声とともに目の前の肉に齧り付く。

シンプルな味付けだが美味しい。

これなら一つ完食できそうだが…ルフィはやっぱり肉となると速い。

なんとかしなくては。とりあえず脇にあったそれを取ろうとして…。

「…あ、さっき飲んじゃってた。」

まだジュースのおかわりをもらってなかったことに気づいた。

「ご馳走さま!おれの勝ち!」

「あっ!もージュースあったら勝てたのに!」

「やーい、負け惜しみー!」

いつものをルフィに返されてしまった。

普通に悔しい。

「はー…まさかルフィに負けるとは…」

「シシシ!…あ、そうだウタ!」

「何?………なにこれ?」

ルフィの手の中には、小さめの箱があった。

あまり可愛くはない付け方のリボンがある。

「これプレゼントだ、やるよ!」

「……………。」

あのルフィが?

肉以外にプレゼント??

あのルフィが???


「…誰の入れ知恵?」

「お前失礼だな。ナミだぞ。流石に肉だけはあれだろって。」

なるほど、確かにナミなら納得だ。

「あ、でも中身はおれが考えて作ったんだぞ!開けてみろ!」

「あ、うん。」

結ばれたリボンを解いて箱を開けてみる。

中にあったのは…。

「……これ。」

「おう、おれ達のマーク!」

あの新時代の誓いのマーク。

今も私の左腕にあるそれが、かわいい大きさのぬいぐるみみたいになっている。

「あんた、刺繍なんてできたんだ。」

「おう、すげェだろ!」

「と、言いつつ本当は?」

「ロビンとかウソップに色々聞いた!あいつら滅茶苦茶上手いんだよ!」

そう言って笑う。どうやら本当に手作りらしい。

…まぁ、指先にある絆創膏を見れば普通にわかるが。

恐らく指に刺しては「イデー!」なんてやってたんだろう。

それを思い浮かべると少し笑ってしまう。

「…フフ…ありがとうね。さて!」

横に畳んでおいたパーカーの上にそっとそれを乗せ、再びステージに立つ。

「そろそろライブの締めに行くよ!最後まで楽しんじゃおう!」

『オウ!』


〜〜

『風のゆくえ』、そしてアンコールの『ビンクスの酒』も歌い尽くし、その日のライブはお開きとなった。

そこから先は宴だ。

みんな酒のんでサンジの用意した特大パンケーキ食べてと盛り上がっている。

私もゆっくりパンケーキを食べて休んでたときだった。



「いてっ……うん?」

「クー」

何か落ちてきたかと思えば、ニュース・クーが手紙を落とした…いや、届けた。

差出人は不明だが、宛先は私であっているらしい。

中身を開けてみると、そこには文もなくただ一言。

「ふふっ……」

一年前を思い出す。

二年前と一年前の今日は、この手紙をくれたであろう彼らが祝ってくれた。

…思えば随分、遠くまで来た。


「…ありがとう。」


あと少しで、きっとまた会える。

その時にはもう一度お礼を言おう。

手紙に添えられた文字をなぞりながら、そう笑った。



おめでとう


fin


〜後日、どこから話を聞いたのかある海賊団がウソップ特性グッズを欲しいと連絡が来たが、それは別の話〜

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