APPLAUSE

APPLAUSE


町並みがイルミネーションに彩られ、世間がクリスマスムードに染まり始めたある日のこと。

やや緊張した面持ちで、美浦寮の一室を訪ねるデュオエキュの姿があった。


「お、お邪魔します……。すみません、突然お声がけしてしまって……」

「ううん、いいの。気にしないで。それより、お話って?」

部屋の主――ライスシャワーが促すと、デュオエキュはおずおずと切り出した。


「実は、生徒会の発案で、児童向けに絵本の読み聞かせ会を行うことになったんです。ロブロイさんにご相談したのですが、絵本ならライスさんの方がお詳しいのではと紹介されまして……」

「読み聞かせ会……とっても素敵だね。わかった、ライスでよければ力になるよ」

「あ、ありがとうございます! では、早速おすすめのタイトルを教えていただけますか?」

「うん。ちょっとだけ待ってね」


ライスシャワーは席を立つと、本棚から丁寧に1冊の絵本を取り出してみせた。

表紙のところどころに見られる擦れ跡からは、何度も読み返されたであろうことが伺える。

大事そうに両手で抱えながら席へ戻ったライスシャワーは、デュオエキュにその絵本を紹介した。


「これが私の、お気に入りの絵本だよ」

「……『しあわせの青いバラ』、ですか」

「そう。ライスがここに入学するきっかけを与えてくれた、大切な本なんだ」

「ライスさんのきっかけ……」


ライスシャワーから絵本を受け取ったデュオエキュは、表紙をめくる。

バラの咲き乱れる庭園で、幸せそうな人々。

それなのに、つぼみをつけた青いバラは、気味悪そうに距離を置かれてしまう。

『だめな花だ』としおれてしまった青いバラを、穏やかな笑みを浮かべた男性が買い上げる。

〝お兄さま〟の手で大切に大切に育てられ、やがて見事な青い花をつける。


「ライスね、この絵本の青いバラみたいになりたいなって、ずっと考えてるんだ。レースを通じて、応援してくれる人達を幸せにしたいって」

「……ライスさんはすごいです。私なんて、レースではなかなか活躍できなくて」

「その気持ち、ライスもわかるよ。入学した当初は、同じこと考えてたから」


えっ、と意外そうな顔をするデュオエキュをよそに、照れ笑いを浮かべながら、ライスシャワーが続けた。


「お兄さまと出会うまでの私は、自分に自信が持てなくて。最初の選抜レースもすっぽかしちゃったし、その次も、ほんとは諦めようと思ってた」

「ライスさん、あんなにG1いっぱい勝ってるのに……」

「それはお兄さまのおかげ。逆に言えば、デュオエキュさんだって、トレーナーさんと一緒なら、この先いっぱいレースで勝てるようになるかもしれないよ?」

「そんな……買いかぶり過ぎですよ」


ライスシャワーは、そう自信なさそうに俯くデュオエキュの手を優しく握る。

「デュオエキュさんなら大丈夫。だって、形は違っても人を幸せにしたいと思っているんだから。……読み聞かせをしてあげる子達、きっと喜んでくれると思うよ」

「……そう、ですね。長い道のりになりそうですが、一歩一歩、少しずつ、出来ることから始めていきます」


吹っ切れたように、顔を上げるデュオエキュ。

「よしっ、まずは読み聞かせ会、成功させないと! すみません、ライスさん。この絵本、読み聞かせ会が終わるまでお借りしてもいいですか?」

「うん、大丈夫だよ。読み聞かせ、うまくいくといいね」

「はい、ありがとうございます! 終わったら、またご報告に伺いますね」

「ありがとう、待ってるね。……頑張れ~、デュオエキュさん。頑張れ~……」


――後日。

読み聞かせ会は無事に成功し、小さなファンを獲得したデュオエキュ。

少しだけ手狭になったファンレターボックスを励みに、トゥインクルシリーズへの思いを新たにするのだった。

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