APP18トリオ誘拐事変─7

APP18トリオ誘拐事変─7


「う……わ……っ」

 ──室内の景色は、先陣を切った雪宮が絶句するに余りあるものだった。

 ぼんやり暗がった部屋の中、夜の闇をチロチロ舐めるように、あちこちで炎が上がっている。蝋燭ではない。これは松明だ。

 千切似の少女の部屋と違い血の匂いも痕跡も無いが、代わりに部屋中を異様な造形の器具たちが満たしている。禍々しく、見た者の恐怖を駆り立てるようなそれらは、俗にいう拷問器具だと雪宮にも理解できた。どういう使い方で人間を痛めつけるものなのか、説明されるまでもなく自分たちから訴えかけてくる威圧感がある。

 火だ。熱して肌に焼印を押し付けるためであろう精緻な文様の焼きゴテや、これまた熱して履かせるためであろう妙に凝ったデザインの金属のハイヒールや、直火で炙られたとみえる煤の跡のついた鎖鞭や、燃え残った豪奢なドレスの切れ端。全てに火との繋がりを感じさせた。

「……あれ、外の俺似の子が着てたドレスと同じ模様じゃない?」

 LEDライトほどハッキリとは見えないが、残念ながらこの距離からでも視認はできてしまう。雪宮が指差した先にある布地を後ろから覗き込んだ千切と玲王も確認して、後ろの肖像画と見比べる。

 バリュエーション豊かな雪の結晶が刺繍された純白と水色のローブ・デコルテ。類似性の有無を注視するまでもなく同じ衣装だ。思わず膝が震えた。

「さっきの部屋は血まみれで、壁紙は俺似の子が着てたドレスと一緒の柄で……血で染まってたから確認できなかったけど、もしかしてビリビリでばら撒かれてた布切れもそうだったのか?」

 千切が重い動きでさっきまでいた部屋のある方角を振り返った。表情が曇っている。血の気が引いたのか顔色も悪い。それでも気丈さを失うまいとする瞳の光が眩しかった。

「……雪宮、気分は大丈夫か? キツイならここは俺が探索するから、お嬢と一緒に扉開けて廊下で待っててくれ」

 時間差で『あの部屋にあった血は全て自分似の少女の血だったかもしれない』と思い至った千切、そして現在進行形で『この部屋で自分似の少女が数多の火責めを受けていたかもしれない』事実を見せつけられている雪宮。両名を気遣うように玲王が前へと進み出る。彼の頬にも冷や汗はあった。


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