APP18トリオ誘拐事変─6
中にはまだ入っていない。ちょっと押して扉が開くことを確かめただけだ。
「下の階に行く階段は崩れて使えなさそうだったし、上の階に行く階段は蝋燭に火が灯ってなくて不安になるくらい暗かった。んで、鍵の開いてるのは俺らにちょっと似た感じの女の子たちの絵が近くにかかってる部屋だけと。……怪しくね?」
「怪しさの詰め放題セールだね」
「怪しさの大容量お買い得パック」
玲王の発言に雪宮も千切も同意する他ない。ここまで怪しいと『怪しげ』なんて表現は失礼に値する。『怪しい』と言い切って然るべきだ。
回れ右して家に帰りたいけれど、そもそも家に帰る方法が分からないから手掛かりを探すために行動している最中。いくら怪しい怪しいと右脳にも左脳にも警鐘を鳴らされようと、道が1つしか無いなら選べるコマンドは進む一択なのだ。
「しかたねぇ……入るか……」
重力さえ感じさせる溜息と共に玲王は腹を括った。ヘアゴムさえあれば気合いを入れるために髪を結びたかったが、生憎ここには持ち込めていない。
「玲王似の子の部屋と雪宮似の子の部屋のどっちから入る? 俺似の子の部屋に戻んのは勘弁な」
「それは俺も嫌かな。玲王くんが見たって言う人影がまだいたら怖いし。……近いのは、俺似の女の子の部屋だよね」
なんとなく扉の近くにはいたくなくて少し離れはしたが、ここから歩いて数十秒の距離に雪宮似の美少女の肖像画が目印の部屋があった。玲王似の美少女の肖像画の部屋は歩いて3分くらいだ。この廃城は無駄に広い。
目配せしあって先に近いほうに入ると決まり、3人は扉の前まで塊になって移動した。
精緻な彫り細工の施された額縁に納まる、眼鏡をかけた黒髪のご令嬢は雪宮の姉か妹だと言われれば納得できる程度には瓜二つだ。優しげな目元に穏やかな口元。肌の色は白く嫋やかな体つきをしていて、先程の千切似の美少女の絵よりは3歳か4歳ほど年上に見える。あちらの絵が中学生くらいの美少女だったとすれば、こちらの絵は高校生くらいの美少女だろう。ウェーブがかったロングヘアを下ろさずまとめていれば大学生くらいにも見えそうだ。
「俺一人っ子だけど、姉妹がいたらこんな感じだったのかな」
これから部屋に入ることへのプレッシャーを減らすために独り言を呟いて、一拍の後に雪宮はドアノブを捻った。