APP18トリオ誘拐事変─5

APP18トリオ誘拐事変─5


この距離でも雨粒が千切の頬に飛んでくる。雪宮もメガネを外して寝巻きの裾で拭いていた。

「──なぁ、お前ら」

かかった水滴の鬱陶しさに気が逸れていた2人に、玲王の引き攣った声がかけられる。喉の震えを感じさせる、戦慄のへばりついた息遣い。

視界に雪宮の顔しか入っていなかった千切、千切の顔しか入っていなかった雪宮の両名と違って、最後尾で扉近くに陣取っていた玲王はずっと正面を向いていた。

だから見えてしまったのだ。

「今光った時さ、そこのバルコニーに──誰か立ってなかったか?」

ほんの一瞬だけ。驚きに目を見張った次の刹那には雷光の途切れに乗じて掻き消えた、自分達よりも大きな人型のシルエットが。

「…………マジ?」

「…………ガチ?」

「…………マジのガチ」

3人とも生唾を飲み込んで室内には沈黙が下りる。冷房を15度で起動させたのに近い寒気が皆の背筋をぞくぞくと走り抜けていった。粟立つ肌が明らかな緊張を物語っている。

「……とりあえず千切、雪宮、一旦ここ出ようぜ。他にもまだ部屋はあるだろ」

隙間に挟んでいたフォークを回収し、片手で扉を抑えながら玲王はやや焦り気味に手招いた。次雷が落ちればまたあの人影がバルコニーに現れる気がしてならないのだ。

千切も雪宮もそれに頷いて、3人はそそくさと部屋を出た。廊下では壁にかかった少女の肖像画が額縁の中で微笑んでいる。さっきまでいた部屋の壁紙と同じ生地のドレスを着ており、少し千切に似ていて美人だった。

ここはありし日、この少女の部屋だったのだろうか?

「玲王が見たって人影の正体が、ここに俺たちを呼んだ犯人だと思うか?」

「確信は持てないけど、今のところその可能性は高いよな」

「複数人いられても困るから、1人で済むなら1人で済んでくれたほうがありがたいよね」

閉めたばかりの扉が開いて内側から先ほどの人影が出て来やしないかチラチラ確認しつつ、3人は足早に部屋を離れて残りの扉が開くか開かないからチェックする工程に戻った。

そして十数分をかけた作業の結果、あの千切似の肖像画が扉の前にあった部屋以外に、この階では『少し玲王似の少女の肖像画が扉の前にかかった部屋』と『少し雪宮似の少女の肖像画が扉の前にかかった部屋』には鍵がかけられていないことが把握できた。


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