APP18トリオ誘拐事変─4

APP18トリオ誘拐事変─4


室内の様子は、ここが黒魔術師の秘密の工房だと言われても信憑性のあるおどろおどろしいものだった。

まずもって部屋中に血痕がある。床のみならず天井まで飛び散ってこびり付いた生々しいそれらは、ぼんやりとした蝋燭の明かりを浴びて暗闇の中に浮かび上がっている。

元は女性の部屋だったのかレースと小花がプリントされた壁紙が貼られてはいるものの、獣が爪で引き裂いたのかと思うほどズタズタな状態でもはや可憐さの欠片も無く、向こう側には煤けた煉瓦が覗いていた。

家具は壊れたものばかりで度し難い有様。山や森に不法投棄されている物でももう少し原型を保っている。元々がドレスだったのかストールだったのか、それともハンカチだったのかも不明瞭な、ただ高級そうな質感であることは見て取れる布地もあちこちに細切れとなって散らばっており、血液の染み付いているものもあった。

バルコニーに繋がる両開きの大きな窓はガラスが割れていて、外から吹き込む風に押される形で備え付けの破けたカーテンが喧しくはためいている。

「…………どうする? ここ探索する?」

踏み込んだは良いものの、これ以上は足を進めたくなさそうな顔で雪宮が冷や汗をかいた。落ち着かないのかメガネの位置を何回も直している。

「血は一応、乾いてるみたいだけど。臭いはまだするな」

手の届く範囲にあった布切れの一枚を指先で汚いものみたいにつまんで、千切はちょっとだけ臭いを嗅いだ。生臭かった。すぐに投げ捨てる。

「入りたくねぇけど……ここ以外は開かなかったしな……。でも一応、残りの扉も確かめてから戻ってくるって選択肢もあるぞ。どうする?」

最後尾の玲王が寝巻きの袖口で唇と鼻を覆って臭気を遮りながら2人に多数決を迫った。自分はどちらでも合わせるつもりらしい。

雪宮と千切がどうしたものかと顔を見合わせる。……その時だった。

「わっ」

「うおっ」

後ろで急に何かがいきなり光ったかと思うと、1秒とたたず雷の落ちる轟音が響いた。

咄嗟に互いの視線を外して2人で窓のほうを向く。篠突く雨まで降ってきた。流れ込む冷たい風が塵を巻き上げて暴れている。

「マジかよ。最悪バルコニーから別の部屋に移動できるかと思ってたんだけど」

「これじゃ流石に無理そうだね。足が滑って危ないよ」


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