APP18トリオ誘拐事変─3
「なんか今の状況TRPGみたいじゃね? 全員ダイスで高APP引いた感じのさ」
ケラケラ笑って口の端を吊り上げる。虚勢だ。表面上だけでも明るく強かでいなければやっていられない。
千切の動じていない素振りに乗っかってくれるつもりなのか、玲王も「確かに俺らAPP16以上は確実だもんな」と軽口を叩いた。
「クトゥルフ神話ってやつだっけ。やったことはないけど俺も知ってるよ。たまにSNSとかで流れてくるよね」
話していた方が気が紛れると判断した雪宮も交えて、暫しそんな雑談を繰り広げては絶え間なく足を動かす。
ステンドグラスから差し込む色のついた月光が3人の姿を照らし、髪や肌は花弁を落としたように彩られ、身振り手振りの些細な動きさえ銀幕のワンシーンの如きを形作る。
玲王はAPP(外見)16以上なんて自慢風の謙遜をしていたが、この3人に関しては予防線を張らなくても誰が見たって18が最低保証だった。22を超えると逆に目撃者のSAN値が削れると聞くので、そこまでの高望みはするまいが。
……延々と似たような光景の続く廊下を進み続けること数分。途中で扉はいくつも見つけたが、どいつもこいつも鍵がかかっていて押しても蹴ってもビクともしない。
いっそ窓をかち割って廃城から庭先に飛び降りることも考えたが、目測にしてマンションの4階くらいの高さはあったから流石に諦めた。この暗さもあって地上の様子はもやがかって朧げだし、うっかり着地先に大きめの石でも落ちていたら躓いて頭打って死にそうだ。
「あっ、この扉開くよ! 鍵がかかってない!」
どうせここも駄目だろうなと毒づくような表情でドアを押した雪宮が、けれどあっさりと蝶番の動いたのを見て嬉々として2人に振り返る。
千切も玲王も「マジで!?」と興奮気味に駆け寄った。10や20じゃ足りないくらい開かずの間にバッティングし続けたのだ、こんなシチュエーションでもテンションが上がろうというもの。
「良いか、そっと開けるんだぞ。そっと」
「うん、わかってる。罠とか仕掛けられてるかもしれないしね」
「全員部屋に入った途端にしまらないように隙間にフォーク噛ませとくか」
先導する雪宮、真ん中で警戒心を働かせる千切、後方で退路を確保する玲王の順でゆっくりと部屋に入室を果たす。