APP18トリオ誘拐事変─2
「雪宮! お前も目覚めたらここにいたのか?」
「玲王くん……。うん。寝る前に気になってた本だけ読みきっちゃおうと思って、机でうとうとしてたらここにいたんだ。途中で寝落ちしたんだと思う」
「不幸中の幸いだな。たぶんメガネ外してたらこの城に持ち込めてないぜ。俺らも裸足だし」
千切は剥き出しの己の片足を軽く持ち上げてアピールする。雪宮は机に向かっていた、と言っていたからか素足ではあるがスリッパを履いていた。育ちが良い。こんなことになるなら就寝用の着圧ソックスくらい履いておくんだった。
「それであの、これってやっぱり……誘拐とかではないんだよね?」
「だろうな。ブルーロックが始まってからは不思議と恒例になっちまった怪異のあれやこれやか、その派生系ってトコじゃね?」
「俺も毎年この時期だけは色々経験するんだよなー……。普段は幽霊も見えねぇのに」
腕組みをして首を傾げる玲王に千切は「ハハ……」と乾いた笑いで返す。玲王に過保護なのは凪だけでなく守護霊もだから、霊感がある彼の視界は普段はお憑きの守護神によってフィルタリングされているのだ。が、それを玲王は知らない。そもそも自分に守護霊が四六時中引っ付いていることさえ。
気まずげにスリッパを片方ずつ履くか聞いてくる雪宮にいやバランス悪いしそのまま履いとけよと2人で断りを入れつつ、やたらと食えと香りで主張してくるディナーのことは一旦無視して部屋の中を探索する。
ただっ広いが何も無い、というのが正直な意見だ。食事専用の部屋とお見受けする。この状況からの突破口を探したくば雪宮が居たという廊下に出たほうが早そうだ。
「とりあえずテーブルのカトラリー持って行こうぜ。何も武器が無いよりはマシだろ」
玲王の提案で3人ともお高そうな彫刻の施された金属製のフォークとナイフを気休めに装備して、一度は閉じた扉を恐る恐る開いた。
ゴシックな空間と相性の良い百合と薔薇の匂いは、壁面に一定間隔で設けられた燭台のアロマキャンドルから発されている。
天井には美術館めいた絵画の痕跡があるが、経年劣化で掠れて何のモチーフかも判別がつかない。ただ、注意深く隅々まで観察した玲王曰く、反キリスト教的な題材で溢れているらしい。
ますます悪趣味なホラー作品じみてきた。