APP18トリオ誘拐事変─1

APP18トリオ誘拐事変─1


(玲王の守護神が神無月だから出雲に行かなきゃいけなくて不在の時期)


 王子様やお姫様を夢見る絵の上手な女の子が、いつかこんな王子様が迎えに来てくれますように、いつかこんなお姫様みたいになれますように、と願いを込めて描き上げた1枚から抜け出してきたような顔立ちの2人組。

 御影玲王と千切豹馬の容姿は概ねそのようなものである。

 そんな童話か少女漫画の住人みたいな見栄えのする美少年たちは、現在、ホラー映画の撮影現場として常連になっていそうな廃城の中にいた。

 弁解すると旅行ではない。寝て起きて、気付いたら此処にいたのだ。なので服装は寝巻きのままだ。

「……お嬢。念の為に聞くけど、夢遊病だったりするか? 俺はしない」

「俺もしねぇわ。ってか仮に夢遊病だとしてもこんな近所で見たことない建物までは来られないって」

「だよなぁ」

 2人で顔を見合わせて駄弁る間にも千切の心臓は早鐘を打っていた。マズい。よりにもよって玲王の守護神が離れなければならない旧暦10月の7日間にこんなイベントが起こるなんて。絶対にオカルト案件。経験則でわかる。

 室内は廃城ではあるがシャンデリアに蝋燭が灯っており、大理石のテーブルの上に原材料が不明の豪華なディナーが用意されている。それも3人分だ。……3人分?

 千切が人数との不合致に眉を顰めたところで、いきなり部屋の重そうな扉がバンッと激しい音を立てて開け放たれた。

 咄嗟に2人で身構える。すわ廃城の主のお出ましかと危惧したが、そこにいたのはモデルとしてスカウトされるほどの整った面貌にメガネをかけた優男。即ち雪宮剣優であった。

「良かった、俺1人じゃなかった……!」

 雪宮は扉に手を添えた体勢のまま安心したようにズルズルとその場へしゃがみ込む。玲王が王子様のような美貌で千切がお姫様のような美貌だとしたら、雪宮は貴公子のような美貌の持ち主だ。

 おかげさまで今回の突発的廃城お呼ばれ会の趣旨がうっすらと透けてしまった。集めてどうしたいのかは謎だが、集められた理由は確実に顔の良さだ。

 ヨーロピアンな内装の古ぼけたお城だし、窓の外はドの付く深夜だし、はっきりルックスの良い面子ばかり選ばれているし、もしかして吸血鬼とかが犯人かもしれない。

 幽霊がガン見えするタイプの千切は幽霊以外のオカルトも信じている。


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