9月12日

9月12日


アキを見送ったマキマは、停車中の装甲車に乗り込んだ。中では蜘蛛の悪魔と3つの納体袋が、マキマの場所を空けて控えていた。

「ごめんね、みんな。こうするしかなかったの」

「日本は世界で一番諜報員で溢れてるから、銃の悪魔討伐作戦は既に知られてしまっていたの」

マキマは独言した。かなり良い形でこの時を迎えられたと彼女は思う。ブラフもそれなりに効き目はあったし、チェンソーマンは沢山の命を拾ってくれた。


一方、アメリカ合衆国のホワイトハウス。

「時が来てしまったようだ。今…マキマを殺さなければ人類に最悪の平和が訪れてしまう」

大統領は何処かに連絡をとっている。

「他の国は諦めてしまったようだ。いや…受け入れたという方が正しいだろう」

マキマは人類の歴史そのものと言ってもいい。人間の営みが彼女を大きく恐ろしくさせた。

「抗う事すら全て予定調和に過ぎないのかも知れない」

それでも、一時の事だとしても彼は自由の国を背負う者。マキマを跳ね除ける夢想を諦め切る事ができない。

「国民よ。愚かな決断をどうか許してくれ」

大統領は銃の悪魔に呼びかけた。アメリカ国民の寿命を一年与える代わりにマキマ…支配の悪魔を殺してくれと依頼した。

「アキ君、何話してたの?デンジ君達が見当たらない…」

目を離した隙にアキが姿を消してしまった時、気づいた姫野は焦った。行く先を聞いて回った彼女が見つけた時、アキはマキマと別れてこちらへ向かってくる所だった。

「アイツ等は来ない」

「…来ない?」

「愛知県の方に出る、銃の悪魔の複製の対処に向かったんだ」

姫野は言葉を失う。車内のマキマは腕時計を眺めている。

「さぁ、やろうか」

1997年9月12日午後3時18分21秒。

秋田県にかほ市沖合より、銃の悪魔出現。巨大な弾帯が海上に観測される。これは脚部だ。

悪魔は無数の銃火器を一度溶かしてから固めたような腕、銃身が突き出た頭部を持ち、開いた肋骨には無数の人頭が卵のように詰め込まれている。

装甲車内のマキマの腹部から鎖が伸び、蜘蛛の悪魔と3つの袋を縛めている。

黒瀬ユウタロウ、天童ミチコの生前契約悪魔「罰の悪魔」

沢渡アカネの生前契約悪魔「蛇の悪魔」

蜘蛛の悪魔の能力をマキマは出現直後の銃の悪魔に叩き込んだ。指揮をとっていた職員が、選ばれたハンター達に開戦を告げる。


同じ頃、愛知県豊橋市伊古部町沖合にも同個体出現。現地に集合していたデンジ、闇の悪魔パワー、レゼ、サメの魔人ビームがこれと交戦。

マキマへの反抗を決めたのはアメリカだけではない。ソ連は"複製の悪魔"に国民の寿命を捧げて複製体を呼び出し、中国は重罪の累犯数百名をソ連に提供する事で、今回の攻撃を支援した。

未来の悪魔の力で銃の悪魔2体の出現を把握していたマキマは、自らの周囲に公安のハンターを集結させた。作戦の詳細は、マキマの頭にさえあればそれでいい。


デンジは銃の悪魔討伐後、急いで東京に引き返した。海岸付近は道路や建物が崩壊、周囲1000メートル内には心臓に銃弾が撃ち込まれた死体が散乱している。4名の中に、犠牲者はいない。

デビルハンター本部に戻るがアキ達の姿は無く、内勤の職員達もマキマ達は見ていないそうだ。銃の悪魔討伐作戦について知らない為、彼等の行き先がわかるはずもない。

ーーピンポーン

早川家。チャイムが鳴り、在宅していたデンジに訪問者を告げる。眠っているパワーを起こさないように、デンジは玄関へ向かった。

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