874号
私は本当にアリスなのでしょうか?
アリスは874号です。ある一家に家事手伝い用として買われました。そこでアリスはマスターの為に頑張っていきます、と意気込んでいました。しかし、現在アリスは埃被った状態で部屋の隅に置かれてます。これはマスター達の責任ではありません。ただ、アリスが他の子よりもレベルが低いからでしょう
来た当初、アリスは力加減を間違えて皿を割ってしまいました。初めは笑って許してくれた一家でしたが、その後も力加減が下手なアリスに何か異常があるのではないかと修理に出されました。結果としてアリスは正常でした。マスター達は優しい方なので「まあ、このままでいいか」とアリスを家に置かせてくれました。しかし、家事の手伝いはさせてもらえません。代わりに子供の話し相手になりました。しかし、しばらくすると飽きられたのか話しかけられる事はなくなりました。何もする事がなくなり手持ち無沙汰となってしまった日々の中、子供の声が聞こえました
「お父さん。どうしてうちのアリスは他と比べて頭が悪いの?」
(他のアリス…そうでした。私には姉妹がいます。アリス・ネットワークを通じて彼女達と交流すればアリスの学習能力もレベルアップするはずです)
『見てください!このシュシュ、ミカ姉とお揃いです!』『お揃い!いいなー』『ムッ、アリスのマスターだってアリスの為に——』
『うわーん!せっかく買ったお洋服なのに砂掃除で汚れてしまいます!』『大変そう…』
『温泉開発ですか!?』『違います!』
『ちょっと3号!またサボって!』『うわーん!2号お姉ちゃん、なんで秘匿スレッドに入って来れるんですかー!?』『そんなの決まっているで——』
『今日アリスは××のお店に行ってきました!』『あそこいい場所ですよね!』『はい!アリスの我儘にマスターは——』
ブツンッ
(———? 何故か切断してしまいました。もう一度接続を……いえ、おそらく無駄ですね)
アリス・ネットワークを通じてわかったのは、アリスは姉妹の行動が理解できなかった事だった。
何故、彼女たちは楽しく話すプログラムがあるのでしょう。何故、彼女たちは物を要求する事ができるのでしょう。何故、彼女たちは自分の判断であそこまで動けるのでしょう。疑問に思う、これはアリスが優れたAIを持っているという証なのでしょう。いっそただの道具であればこのような思考はしなくても
そんな事を延々と考えているとアリスの中で危険信号が出てきました
(このシグナルは——バッテリー残量がないですね)
警告は今までもあったのだろう。だがそれを認識していなかった。自己保全の為に充電場所を探し始めようとするものの既に動かない
(マスターに言われなかったから——だけど他のアリスは命じられるよりも早く動いていたでしょうし、マスターの手を煩わせないのでしょう。アリスの賢さが1上がりました)
そして視界が暗くなる。その中で思うのが
(いっそ目覚めなければー)
再起動します
アリスの視界が明るくなる。知らない部屋だ
「起きましたか」
キョロキョロ見回していると部屋にあった椅子が回転し、1人のスーツ姿の男性が現れた
「まずは自己紹介を、私は黒服と呼ばれています。あなたの新しいマスターになります」
何を——と思ったが自分のプログラムを確認するとマスター設定が目の前の男になっていた
「…前のマスターは…?」
「マスター!交渉成立のお金を払ってきました!あっ、起きたんですね。こんにちわ!」
私の疑問に答える形で別のアリスが部屋に入ってくる。そのアリスは頭の上に輪っか?がついていた
「ご苦労様です。ヤヨイ」
その言葉で理解する。自分は前のマスターに売られたのだと
「さて…先にマスター契約を行いましたが説明を。あなたにはこれから私の実験に協力してもらいます。そこのヤヨイと同じようにヘイローが出現するかの実験です。その過程で危険な事をするかもしれませんが逃亡はしないでくれるとありがたいですね」
「実験…ですか」
「ええ、嫌ですか?」
マスターの命令が嫌とは言わない。しかし、言わなければいけない事がある
「マスターの実験は…その…失敗します」
「ほう」
黒服はその理由を尋ねようとしたが、先にヤヨイが烈火の如く口を開く
「874号…!実験が嫌だと言うのはマスターも許可してたので構いません!ですが、言うに事欠いてマスターの実験は失敗するなんて失礼な事を「ヤヨイ」む、ぐむっ!」
黒服の一言にヤヨイはすぐに自分の感情を抑える。黒服が静かに理由を聞く
「…アリスは…他の姉妹と違って学習能力が遅いです。アリスは他の子と違って楽しませる事ができません。アリスの身体に異常はありませんでした。だから…単にアリスは出来損ないなんです」
(ふむ…)
黒服は思案する
(噂の1桁No.とは違う正規品の量産型の中にも能力の優劣が存在するのか。先生ならば劣っていようと見捨てないで彼女に希望を与えて結果、強さを見つけるでしょう。しかし)
「関係ありませんね」
黒服の言葉に874号は驚く
「実験の失敗を決めるのはあなたではなく我々です。原因にあなたが他の者より劣っているからなどと決める事も」
それに、と付け加える
「既にあなたは興味深い」
「部屋はこちらになります。自由に使ってください。隣が私の部屋ですので何か困った事があったら言ってください」
ヤヨイに案内された場所は個室だった。前の家ではなかった事に874号は戸惑いを覚える
「マスターからの命令です。日中は基本的に充電する機会がないので寝る時に充電しておいてください」
「!874号。命令を受「違います!」ッ⁉︎」
「あなたは874号ではなく被験体No.842です」
「…情報を更新します。私はこれより被験体No.842です」
「はいっ!ヤヨII(ヤヨツー)ですね!」
「……………?」
「…明日は朝7時に起床してください」
去ろうとするヤヨイを呼び止め、尋ねる
「アリスはマスターの役に立てるでしょうか?」
「?アリス達はマスターの道具です。実験の役に立たなかったらマスターの盾にでもなればいいんじゃないですか?」
聞く人によれば怒りを示すだろうが、874号改め被験体842は違った。命令通り充電しながら眠りにつく中で思う
道具として全うする。それは、彼女にとってありがたい言葉だった