>>83 北風とともに
子供時代シャンクスたちが出港後入れ違いでガープが来てルフィを風船にくくりつけて飛ばす。エレジアまで飛ばされてシャンクスたちと合流。トットムジカ出現直後にガープが到着。エレジア国民は赤髪海賊団とガープにより守られるが建造物などの被害甚大。赤髪海賊団が罪をか…赤髪海賊団が航海に出てから小時間
ある船がフーシャ村の港に停泊した
「____あの船…げげっ!!!!」
「ルフィ!!!!」
「じいちゃん!?」
土煙を上げて"それ"は少年の前に突き進む
「ルフィ貴様!!わしがいない間に"赤髪"なんぞと関わりおって!!!!」
「シャ…シャンクスを悪く言うな!!」
「じいちゃんに向かって"言うな"とは何事じゃ!!!!どうやら久しぶりに根性を鍛え直す必要があるな!!ちょっと待ってろ」
「……風船を持ってくる」
「……いぃ……」
この爺 滅茶苦茶である
「んぎゃあああぁぁ!!!!」
「よし!!明日までには戻ってこい!!!!」
風船を体に巻かれて空に飛ばされたルフィは叫び声を上げてどこかへと運ばれた
どうせ一人で戻れる距離に落ちるだろうと思っていたガープだったが運命のイタズラで突然強風が吹き荒れた
そしてそれは空に漂うルフィをより遠くへと運んでしまった
「ぎゃああああぁぁぁ!!!!!!」
「ルフィィィ!!…ちとまずいのう」
ガープは船に乗り直しルフィが風に運ばれた方面へと漕ぎ出した
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一方 シャンクスたちがたどり着いた島 エレジアでは____
「随分楽しそうに歌っていたな」
「ん?まあね」
人々の話し声が届かない城の二階 その窓際でシャンクスとウタは二人だけで話し合っていた
「____なぁウタ この世に平和や平等なんて存在しない」
「だけどお前の歌声だけは世界中の人を幸せにすることができる」
先程まではお互い夜空を見て話し合っていたが今度は向かい合って話をした
きっとシャンクスはこの言葉をウタに覚えていて欲しかったのだろう
「急に何言ってるの?」
「____いいんだぞ?ここに残っても…立派な歌手になったら迎えに……」
「バカ!私は赤髪海賊団の音楽家なんだよ!!……シャンクスたちと離れたくない」
少女はポロポロと涙を流して赤髪の父に抱きついた
「そうか 明日にはここを発とう」
「う____」
「あぎゃああああぁぁぁ!!!!」
「え?何この叫び声?それにどこかで聞き覚えが」
「あの浮遊物まさか…ルフィか!?」
運命のイタズラか風船を括り付けられたルフィは赤髪海賊団が停泊している島へと流されたのだ
「は〜叫び疲れた…ん?あれシャンクスとウタか?」
「ルフィお前そこで何してる!?」
「じいちゃんの修行で飛ばされた!!!!」
「はぁ〜!?あんたのじいちゃん何者よ!?」
宙へと舞い上がった赤髪の男はルフィを受け止めて二人で着地した
「全く 滅茶苦茶だな…お前の爺さん」
「そうなのか?おれ普通の家族がよく分からないから」
「私も知らないけどルフィのおじいさんは普通じゃないと思うよ」
「ふ〜んそうなんだ…でシャンクスたちはここで何やってんだ?」
「おれたちはな____」
シャンクスとウタが楽しそうに説明を終えるとルフィはパーティの食事を食べに行き、帰りは海賊船に乗れるとワクワクしていた
もちろんそれは条件付きで絶対に船番をする時は敵船に向かわずにウタから離れずにいることを約束された
場面は変わり城のパーティ会場
【⠀🎶〜____ 】
「ウタのやつ楽しそうに歌ってるな〜」
「__だろ?あいつの歌声は凄いんだ…海賊のおれたちがそれを独占するのは勿体ない」
「シャンクス?何言ってんだよ?…もしかしてウタをここに置いていくつもりか?」
「____心配するなルフィ。その気はもう無い」
「ならいいんだ!!だってウタはシャンクスたちの前で歌ってる方が楽しそうだからな!!」
「……ん?ウタのやつソファに向かってる…疲れたのかな おれジュース持ってきてやるよ!」
「そうか…頼んだぞ」
「古い楽譜……愉快な家族の童謡だ…次はこれを歌ってみよう」
【⠀♪〜……】
「ウタ〜!!ジュース持ってきて」
【 ᚷᚨᚺ ᛉᚨᚾ ᛏᚨᚲ !!!! 】
楽譜を持って一節でも歌ったら最期。
その楽譜に封印された者は歌い手の口を操り楽譜に描かれた偽りの歌詞ではなく本当の…嘘偽りのない歌詞を歌わせる
そしてその歌声が"彼"を歌う時封印された者…魔王は目覚める
術者の体を黒の煙で渦のように巻き
赤の雷を四方八方に撒き散らし
その魔王は顕現する
Totmusica 歌の魔王
最初に魔王の洗礼を受けたのは近くにいたルフィだった
彼の左目の目元に赤の雷が通りかかり…切り裂いた
更に体に雷を受けてジュースを手に持ったルフィの意識は途絶えた
「____ルフィ!!!!」
幸い近くにいたラッキールウによって助け出された
掠ったため傷は深いが損傷箇所は小さい
失明することはまず無いだろう
「_まさかあれは…トットムジカ!?」
国王ゴードンがその名を口を開くが彼の元にも赤の雷が襲いかかる!!
「大丈夫か!?」
間一髪!赤髪のシャンクスが彼を抱えて城外へと避難させた
「おい野郎ども!!一人も死なすんじゃねェぞ!!おれたちの娘の手を汚させるな!!」
副船長 ベックマンがその場にいる全員に聞こえる声で咆哮する
赤髪海賊団は市民の避難を優先させ、避難所となったその周りを幹部の面々が魔王の攻撃から守るように身構えていた
「____これは一大事じゃのう…」
戦火が上がるエレジアは夜だと尚更存在感が増していた
その様子を見て海軍の英雄は船が港に停泊するのを待たずに数キロ離れた岸へと足を落とすために船の上で大きく跳躍した
その反動で彼の乗っていた船は一時総面積の半分が海へと沈んだ
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少女の周りから渦巻く黒い霧は徐々に規模を増していき大きな竜巻のようなものになった
そしてその渦の中心からは仮面を被った道化の姿をした怪物が顕現した
あれこそが歌の魔王 トットムジカなのだろう
シャンクスは娘を助け出すために城よりも大きい魔王へ剣を振るうが…届かない
魔王の手前で見えない障壁に阻まれる…
「____ッ!?」
全身全霊の覇気を纏わせても届かない
魔王の前ではどんな攻撃も等しく無力なのだろうか……
歌の魔王の標的はシャンクスだけで無い
黒い霧から放たれる雷は今も尚逃げ続けている市民へと向かう……まるで最初から標的が彼らだと言わんばかりに
「くそっ!!攻撃範囲が広くて庇いきれねェ!!」
防戦一方 それどころか市民を守ることだけに注力しても魔王の猛攻を防ぎきれるかどうか……
____中には赤髪海賊団に合流せずに港へと逃げる者もいた
そして魔王はそれを見逃さなかった
「___ひっ!?」
黒の竜巻から放たれた雷が魔王から目を背けて逃げる者に襲いかかる
「ふん!!!!」
だがそれは突如軌道を変えて地面に落ちた
ある男が空中で雷を殴り 地面に叩き落としたからだ
「____わしに掴まれ!避難所に向かうぞ!!」
休暇中の服装の上に"正義"と書かれた 海軍の羽織を着込んだ男は市民を抱えて防戦一方の赤髪海賊団がいる市民の避難所へと跳躍した
「落とすぞ!!しっかり受け取れ!!!!」
「うわあぁぁぁぁ!!!!」
「は?上から誰か落ちてくるぞ!?」
ベックマンは彼らを受け取り優しく地面に置いた
「____助かったが…これは面倒なことになりそうだな」
「ぬううぅぅ!!!!」
海軍の英雄は空中で雷を何度も叩き落とし市民を守り続ける
いくつもの建物が崩れたが市民の命は守られた
「キャアアァァァァ!!!!!!」
術者であるウタが力尽きたからか、歌の魔王は耳に残る咆哮を残して霧と共に消えた
空中からゆっくりと落ちてくる眠りについた娘を赤髪の父親は優しく抱えた
「____この子は関係ない…おれたちがやった」
シャンクスはいつの間にか後ろにいた海軍の英雄に背を向けたまま偽りを語った
「__事件と関係ないとして…その娘をどうするつもりじゃ」
「"あんなもの"がある以上ここに置いていく訳にもいかない。ここの島の人たちもそれを許さないだろうしな_____あんたがルフィと一緒にフーシャ村に返して育ててくれねェか?」
「__自分で育てないのか?ロジャーがお前にしたように」
「おれには海賊の道しか無かったがこいつは違う。こいつの歌には世界中の全ての人を幸せにする力があるんだ…その歌声をおれたちが独占するわけにはいかない」
「歌手にすると保証はせんぞ…」
「それでもいいさ…あいつが誰かの前で幸せに歌い続けることができるなら」
「____おれの娘を頼んだ……」
【おれの息子を頼んだぞ ガープ】
「__おまえたちは…勝手な親子だ」
「わしはお前たちの敵なんじゃぞ…」
少女を受け取った男はかつてのライバルの言葉を思い出した
赤髪の男は避難所に一人で向かった
「____ルフィ……」
その名の少年はぐっすりと眠っていた
左目の下に縫い跡が出来ている少年に自身の麦わら帽子を被せ、手元に小さな宝箱を置いてその場から去った
「ウタを…守ってくれ」
「____……ん…ぅ…」
「____行くぞ……」
避難所で市民の応急処置をしている幹部の面々に赤髪の男は静かに告げた
紅白髪の娘が居ないことで彼の選択を知った彼らは何も言わずに船へと戻った
市民たちは礼のひとつでも言おうとしたが彼らの様子を見ると何も言えなかった
「____……うぅ…」
「あぁ…逃げられた…"トットムジカ"が出ていたか?なんじゃそりゃあ?わしはそんなの知らんし現場には赤髪海賊団しかいなかったぞ…」
誰かの報告声を聞いて少女は目覚めた
「!!…とにかく報告は終わりだ!!市民は全員無事!!以上!!」
その男は勢いよく電伝虫の通話を切断した
「船の上…シャンクスの船じゃない!?ここはどこ!!」
隣には傷を負ったルフィが眠っていた
顔の横に置かれた麦わら帽子には見覚えがある……
「シャンクス!!おじさんシャンクスはどこ!?」
「____あいつは海賊…お前を捨てたんじゃ…」
「……じゃあ…ルフィの傷は……」
「____あいつらがやった」
「____嘘だ……シャンクスがそんなことするわけない!!シャンクス!!シャンクス!!」
少女は船の進行する反対方向でまだ微かに見える彼らの船に叫んだ
「シャンクス…うわあぁぁ!!!!シャンクス!!なんでだよ!!!!」
喉が避けるほど泣き叫んで…彼女は再び気を失った
____________
フーシャ村の民家
そのベッドの上で二人は目覚めた
「____ルフィ……」
彼の目には傷がある…そうかあれは夢じゃなかったんだね
「____ウタ…?ここは?」
「二人とも目を覚ました?」
両手に軽食を持ったマキノが部屋に入った
どうやらここはフーシャ村のようだ
「__ごめんなさいマキノさん…今食べる気になれなくて……少し外の風に当たってくる」
「あっ……ウタ!!」
「マキノ!!おれウタを連れ戻してくる!!」
「ちょっとルフィまで!!」
「あいつを一人にさせたくないんだ!!」
崖の上の豊かな草の上にウタは尻を落としていた
「___捨てられた…信じていたのに」
もう……私に残ったものは何も____
「おーいウタ!!ウタ〜!!」
違う あった!!まだ残ってるものが!!!!
「あ!!見つけたぞウ_」
「____」
私の…太陽……
「なんだよ…急に抱きついて……」
私の辛さも孤独も…全部焼き尽くして…
「ルフィ…いつもより体が柔らかいね…どうしたの?」
「さあ?起きたら腕も伸びるようになってたぞ」
びよーんとルフィは腕をのばしてみせた
「……きっとシャンクスのせいだね……あいつは私たちを玩具にして遊んでたんだよ」
「何言って……」
「そして飽きて要らなくなったから私たちを捨てたんだよ…分からないの?」
実のところ彼はあの日の事をよく覚えていない
しかしパーティ会場でのシャンクスの言葉だけはしっかり覚えていた
シャンクスはウタを大切に思っていたはずだ
おかしい……何もかもが食い違う
「……ウタ…きっと誤解だ…シャンクスがそんなことするわけない」
「____ルフィは私の味方なの?」
「当たり前だろ!!」
「だったらシャンクスの味方なんてしないで……私を肯定してよ…私は間違ってないって言ってよ……」
少女は耳元で囁き続ける
【ウタを守ってやってくれ】
誰かからどこかで聞いたその言葉に応えるように……ルフィは決断した
「____ウタは間違ってない…」
「でしょ!ありがとうルフィ!!」
「じゃあその帽子を捨ててよ」
「……それは…駄目だ」
「ルフィ…分かった…そこだけは妥協してあげる」
「それで…これからどうしよう?私たちは何を目指す?」
「何って海ぞ…」
「海賊?…だめだよルフィが海賊になるのは……あいつらと一緒になるのは」
「ウタ…そろそろ離して」
「離さない…私の嫌いな海賊になりたい上に私から離れる気なら……崖から落ちるよ……」
「!?だめだ!!」
「なら海賊は諦められるよね!」
「諦めない…ウタが嫌いな海賊にならなければいいんだろ?だったら市民を傷つけないし肉を奪わない海賊になればいいんだろ?おれはそういう海賊になる!!」
「……私も連れてってくれる?」
「当たり前だろ…」
「…なら…いいよ私はルフィに着いていく…」
「今は帰ってご飯食べようね…お腹空いちゃった」
「おれもだ!!」
「なぁウタ…離してくれよ…歩けねェ」
「だーめ!!ルフィが離れないようにくっ付いてるの!!」
後に二人はガープによって激しい訓練を受けることとなる
簡単に海兵に捕まらないために…
ガープは二人を海兵にすることを諦めていた
ウタウタの実の能力者だと周囲に知れれば上層部の判断ひとつでどうなってしまうか分からなかったから
そしてその時が来たらルフィはウタを見捨てられないと分かっていたから
二人はダダンの元に預けられずにフーシャ村で過ごし続けた
後に成長した二人が海へ出て海賊として名を上げ、赤髪の海賊と再開するのだが それは……いつかの話