開発記録:A-JHB/QB
時系列は5029号シリーズのだいぶ前896:名無しのアリスチャン
やっぱり検査かけた方が良いですよね……
897:7119
そうですねぇ
フレームの歪みは早めに対処しないと関節部やその他可動部全体の負担が大きくなりますので、修理費用を抑えるという意味でも早期の検査とオーバーホールをお勧めしますね!
898:名無しのアリスチャン
了解です……助言感謝します
899:7119
はい、来院お待ちしております!
・・・
む、もう朝でしたか
そろそろマスターを迎えに……丁度帰ってきたみたいですね
ということは、今日は何かイベントがありそうな予感がします
・・・
部屋の扉を開けると丁度マスターと鉢合わせました
何やら見慣れないモノが入ったスポーツバッグを肩に掛けているのが気になりますが、まずは挨拶でしょう
「おかえりなさいませ、マスター」
「ただいま、キャロル。
帰ってきて早速だけど、これから新作を試しに行くよ!」
朝食もまだだろうに……徹夜と新作お披露目でテンションが上がっているようですね
「毎度のことながら急ですね……今度は何を作ったので?」
「ふふふ、それは移動中に説明するよ!」
「休まれなくて大丈夫なのですか?」
「全然平気さ! 副部長は力尽きちゃったけどね。」
「また付き合わせたんですか……
あまり貴女の無茶に巻き込まないでくださいよ」
「あっはっは! 今度から気を付けるさぁ!」
「車両の準備終わったよォマスター殿ォ。」
「おっけー、ありがとね主任。」
「主任まで……何か嫌な予感がしてきましたね」
「アハハッ!!↑ まあきゃろりんは大変な目に遭うだろうね!」
「あんまり脅かしちゃダメだよ主任~。」
「ハイハーイ!」
「またろくでもない目に遭わされるんですね」
「そんなに警戒しなくても、私も傍にいるから大丈夫だよ~。」
「それはそれで心配なんですが……」
「ハイ乗った乗ったァ。」
主任に背中を押され三列シートの真ん中に座らされた……気乗りはしないがこうなったら腹を決めるしかないだろう
観念してシートベルトを締め、持ち込んでいた介護セット入りバッグからカロリーバー・エナジーゼリーのパウチ・ペットボトルのコーヒーを取り出してマスターの口に次々と押し込んだ
・・・主任運転中・・・
「ムグ、ング、ンク、ズゥーーー、ゴッゴッ……ぷはーっ、ありがとキャロル!」
「さて、それじゃあ今回の製作物の説明をしようか。
これは主任と共同開発した新型飛行ユニット、ジャンプホバーブースターだよ!」
「ジャンプなのかホバーなのかはっきりしてほしい名称ですね……」
「あっはっは! こいつを表すにはそれしかなかったんだよね!
実はアリス用パワーアップ・プラグイン・カプセルの飛行輸送用ブースターを転用した物なんだけど、アレを長距離飛ばせる出力と耐久性があるなら他にも出来る事あるでしょ?ってコトで色々改造してたら、いつの間にか瞬間移動みたいにぶっ飛ぶ逸品になったんだよね!」
「カプセルの事も初耳なんですけど……というかDIYのノリでそんな恐ろしいもの作らないで下さい、聞いただけでフレームが曲がりそうです
……まさかとは思いますが、すでに誰かで試したりしてませんよね?」
「鋭いなあキャロルは。
実は瞬間移動機能……便宜上クイックブーストと呼んでる機能は主任と、副部長を回収しに来たゴーストちゃんの二人に試してもらったんだよね。
結果はキャロルが察した通りで、ゴーストちゃんは「フレームがちょっと歪んだかもしれません……」って言ってたよ。
主任がなんともなさそうだったからイケると思ったんだけど、いやあ悪いことしちゃったね。」
既に犠牲者が出ていましたか……
今朝の相談と内容が被りますし、あとで確認して菓子折りを持っていかなければなりませんね
「悪いと思うならきちんと調整してから使わせてやってください……製作目的は何ですか?」
「オッケー!
これは現在進行中の非公認計画、“量産型アリス機能拡張プロジェクト”の一環で作ったんだ!」
「アリス専用匿名掲示板アプリ、キャロルがエンジニア部等から集めてきてくれる情報、ファクトリーに記録される各機体の修理ログ、それらを基にまとめた稼働状況ファイル……その中でも特に稼働に支障が出ている子たちの詳細に目を通したわけなんだけどぉ……。」
「既に各学区でそれなりの数が損傷か行方不明、或いは修理不可能なほどに破壊されている実態が把握できたんだよね。
その中でもゲヘナ、特に風紀委員会の子たちは戦闘が激しすぎて特に数を減らしてる。
これは当時私たちが修理対応に当たったから知ってはいたことだけど、改めてデータとして出してみるといやあ酷いもんだね。」
「……はい
現地で倉庫に並べられていたスクラップ同然の姉妹たちを目の当たりにした時は、絶句する他ありませんでした
あの光景は忘れられそうにはありません」
「アレは私もちょっと言葉が出なかったね。
ちなみに給食部のアリス達も損耗率が高かったみたいでね。予算も時間もなかったらしくて修理に呼ばれることはなかったけど、そんな中でも彼女たちが頑張ってニコイチ修理し続けて、今は残った一機を大事にしてくれているらしいよ。」
「そうですか……力になれなかったのは悔やまれる部分ではありますが、どんな形でも大事にしてくれる方の下で元気にしているのならば、それで充分です」
「うん、それには私も同意するよ。
ただまあ非情な言い方になるんだけど、風紀委員会みたいに戦力をあてにして導入したところでは、とても費用に見合った成果が出ているとは言い難いのが現状だ。」
「現に風紀委員会では、前線に出るのはヘイロー発現個体の72号だけ、それ以外の子たちは損失を抑えるために裏方や事務方に回しているって話だしね。」
「同じような悲劇を繰り返さないため、苛烈な戦場におけるアリスならではの役割と保護の両立を考えた結果……行動エリアを空に移すという結論に至ったのさ。」
「戦車並の重装甲を施し前線に出すくらいなら、ドローン的運用をしてしまえという訳ですか」
「そういうこと!
でもアリスをドローンと同じように使ったところで下位互換にしかならないし、何ならいい的になっちゃう。」
「そこで、アリスにはより高みを目指してもらうことにしたんだ!」
「それは運用目的がですか?それとも物理的な意味でですか?」
「もちろん両方さ!」
「ドローンは電波が十分に届く距離までしか飛ばせず、能力もAIや操縦者の腕に依存しているし、天候が荒れればそもそも使えなくなってしまう。
なんなら対空攻撃やジャミングで簡単に無力化されてしまうから、航空戦力としては脆弱も良い所なんだけど……そこでこのブースターの出番さ!
コイツはこのサイズにも拘らず、なんとアリスを高度10㎞まで上げられる!
量産型アリスならちょっとしたアップデートを施せば電波妨害も対策できるし、突風や鳥の襲来で墜落する可能性も低い!
見てから回避余裕な対空攻撃くらいしか脅威がない高高度にホバリングし、前線の状況把握などのオペレートに専念するという訳さ!
なんなら少し高度を下げて狙撃してもいいし、ヘイロー持ちの子ならクイックブーストに耐えられるから前線張るのもいいかもね!」
「ふむ……マスターと主任の合作にしてはマトモそうですね
それで、肝心の飛行時間はどうなんです? この中型ドローン程度のサイズでは燃料タンクも最低限しか搭載できないように見えますが……」
「ふっふっふ……、そこも抜かりはないよキャロル!」
「普通のブースターは燃料と自重の増加がネックで、高出力・噴射時間を両立しようとすると巨大化するのが当たり前、切っても切れない課題だった……。
しかし!そんな分かりきった問題をそのままにしておくわけがないでしょう!
廃墟探索で手に入れた未知のテクノロジーの塊や、アリスモーターズ等の外部社製装備の解析で得られたノウハウを基にアイディアを捏ねに捏ね、課題解決を考え続けた果てでついに降りてきた閃きをトッピングしてやったらあら不思議、燃料不要の推力発生機構の完成という訳だよ!!」
「なんですかそのSF的なご都合技術は……」
「あっはっは! 確かにご都合的だね!
でもよく考えてみて欲しい……誰かが言ったように「十分に発達した科学技術は魔法と見分けがつかない」んだよ!
ゲームとかで何の説明もなしに「エネルギーを消費してブースターを噴かす」なんてことをしているけど、現実じゃそんなことはあり得ない……そんな風に考えていた時期が私にもありました。
しかしそれももはや過去の話!
電波や電気を解明し、大自然の神秘から科学技術に落とし込んだ人類に不可能は無いのだァーッ!」
「コイツはね、 言ってしまえばロケット推進システム並の出力があるブロワーなんだ。電力さえ供給していれば無限に飛び続けられる夢のアイテム!
自重増加の原因が燃料からバッテリーに変わっただけな気もするけど、それでも燃料を燃やして飛ぶよりは遥かに効率的なモノになったと断言できるよ!」
「今回は風紀委員会みたいな組織向けに抱き合わせで売る予定のカタパルトも用意してるから、昇りきったところでエネルギー切れなんてこともない!」
「わざわざトレーラーを引っ張り出してきたと思ったら、そんなものまで作ってたんですね……」
「とうちゃーく」
「運転お疲れ様、主任! それじゃあここを試験場とする!!
目指せいちまんめーとるぅ! あっはっはっはっは!」
「そう上手くいくでしょうか……まあ仕様に怪しい部分はないようですし、なるようになれです」
「そんじゃあ私は荷台のカタパルト展開するから、主任とキャロルはモニター機器の設置とブースターの最終点検よろしくね。
それが終わったら宇宙服着るの手伝ってちょうだいね。」
「ハイハーイ」
「本気で上がるつもりなんですね……了解しました」
・・・
『準備はいいかい、キャロル!』
「少々お待ちください、最後にもう一度点検と確認を……
ブースター接続、良し
関連プログラムの動作正常
非常パラシュート取り付け及び操作方法確認
任務内容復唱、
・目標高度10000m
・高度維持及び、バッテリー消耗速度観測
・高度4000mに降下、観測機器での地上観測
・同高度以下での、模擬弾頭による携帯対空ミサイル回避試験
・戦闘によるブースター故障を想定した、非常パラシュート展開と降下
・同行者機材トラブルによる墜落及び救助……
ちょっと待ってください、なんですかこのタスクは
さっきまでありませんでしたよね?」
『フュー(口笛)』
「鳴ってませんよ」
「アハハッ!↑ バレちゃったねェ!」
「主任、貴女も共犯でしたか……」
『まあまあ、いずれはあらゆる状況のデータを取ることになるんだからさ!』
「最後のはどう見ても願望が駄々洩れなんですよ! どうせ映画みたいに「墜落事故で間一髪間に合いお姫様抱っこで降下する」とか、そういうシチュエーションを楽しみたかっただけでしょう!」
「流石だねえきゃろりん、その通りだよアッハハ!」
「主任は黙っててください!」
『そんな怒んないでよぉ……。』
「これは私でなくとも怒ります! 大体なんでマスターまで飛ぶんですか!? 本当にトラブルがあったら取り返しがつかないんですよ!?」
『だって地上からのオペレートじゃ問題が起きても対処できないし、キャロルにだけリスクを背負わせるのは不公平でしょ?
万一の時の為のパラシュートだってあるんだし大丈夫だよ!』
「絶対自分が楽しみたいだけでしょうそれ!」
「アハハハッ! いーじゃん、ヘイロー付きの俺が飛んでも量産型用のデータは取れないしさァ、地上管制は俺に任せて空を楽しんできなよ、きゃろりん♪」
「主任まで……」
『ゆくゆくは人間向けに商品展開する予定だし、どんな付加があるか体験しておきたいんだよね~。』
「はぁ……わかりましたよ、だったらせめて最後の事故タスクだけは絶対に実行しないでくださいね!」
『おっけぇ! それじゃあいくよ!』ガチャン
「あ、ぽいーっとw」バシュッ
『ヒョオ~~~~www』
「ちょっと! 私が先に上がらないと対応できないでしょう! 早く上げn「わかってるってw」(バシュッ) いきなり上げるのもやめなさい!》
「アーアーキコエナーイw それじゃあ、モニタリング開始するよォ」