>>71様より

>>71様より



 希代のエンターテイナーであったヘリオスの葬儀には、トレセン学園やURA関係者を始め、大勢の人々が参列した。

 世界的モデルとして知られるゴールドシチーが遺影の前で涙を流す姿が、彼女のファンの心を打った。

 ネイルの世界で学生達を虜にするトーセンジョーダンが大声を上げて泣く姿は、彼女のフォロワー達の涙を誘った。

 他、ヤマニンゼファー、メジロアルダン、ヤエノムテキ、オグリキャップ、ニシノフラワー、イクノディクタス、人々の驚く所では、エアシャカールやゼンノロブロイなど、交流のあった大勢のウマ娘が彼女に花を手向け、その冥福を祈った。


 無論、その中にダイイチルビーとケイエスミラクルの姿は無い。事件が与えた衝撃は大きかったが、その動機が明らかになるにつれ、同情的な意見も出始めるようになったという。

 そしてそれは、メジロパーマーがバンブーメモリーと共に公開した『ダイタクヘリオスの遺書』により、決定的なモノとなった。

 

 華麗なる一族・ダイイチルビーの、最愛の人を奪われたが故の復讐劇。

 例えそれを止めようとして自身の命さえ散らそうとも、ダイタクヘリオスはダイイチルビーを最後まで想い続けた。

 彼女に手を貸した、ケイエスミラクルさえも。

 ダイタクヘリオスは、最後まで二人を照らす太陽であり続けたのだ。


 そんな彼女の献花台には数え切れない程の花が備えられ、中には現役時代の写真を額に入れて送った人も居たという。

 そうしてこの事件に受けた世間のショックが『#笑顔の輪』という誰かの呼びかけにより、少しずつ立ち直りつつあった頃、とある喫茶店の片隅にパーマーとバンブーの姿があった。

「……それで、ルビーは?」

「本人だけでは、何も話が出来ず……本来はこういう事はしないんスけど、ミラクルと一緒ならまだ意思の疎通が出来るようなので、二人で話を聞いてるッス。概ねパーマーに話した通りっスけど」

「……そっか」

 俯いたパーマーに、バンブーが慌てて続ける。

「罪は償って貰う事になるっスけど……きっとしっかり生きていけるっス。ヘリオスが望んだように」

「そうだね……あの二人なら、きっと大丈夫だよ。ヘリオスも、二人が一緒に生きていけるって分かってるし、向こうで喜んでると思う」

 そう言って微笑むパーマーだが、バンブーの表情は険しい。意を決し、口を開く。

「……これから、どうするっスか?」

「あー、それなんだけどね。取り敢えず、メジロの屋敷に戻ることにしたんだ。アルダンさん達に聞いたら、快く受け入れてくれてさ。私一人で住むには、あの家はもう、静かすぎるから……」

「……そう、っスか……」

 必死に励ましの言葉を考えてみるが、それが出て来ない。バンブーは、自分の未熟を呪った。それに気付いたのか、パーマーが笑みを浮かべる。

「そんなに心配しなくても大丈夫だって。私がヘコんでたら、ヘリオスも向こうで安心できないからさ」

 そう言って、パーマーはすっくと立ち上がり、テーブルの上の伝票を取った。

「今日はありがとう……ルビーとミラクルの事、よろしくね」

 その後ろ姿に、バンブーは再び何かを言おうと試みたが、遂にその口から言葉が出てくる事は無かった。



 未だに止まない雨の中を、パーマーは歩く。余りにも静かになりすぎた、我が家へと向かって。

 パーマーが差した傘の中に、ふと雨粒が落ちる。

「……ダメだなぁ、こんな事じゃ、安心させらんないじゃん」

 雨粒が一つ、また一つとこぼれ落ちる度に、パーマーの視界が歪み、前が見えなくなる。自分を見失っていた頃のように、進む先が見えない。

「ごめんね、ヘリオス……私、やっぱり……ズッ友が居ないと、ダメみたいだ……」

 それまでずっと心に仕舞い込んでいた想いを、彼女は一人、吐き出した。それを聞いてくれる人は、もう居ない。

 立ちすくむ彼女に、雨は無情に降りしきる。だが、その時────。

「っ!?」

 その時、不意に彼女の目の前に眩い光が差す。滲んだ視界を拭うと、彼女の目の前で分厚い雲の切れ間から光の柱が差し込んでいた。

 その光は次々と雲を射抜き、パーマーの脚の先を照らし出していく。まるで、自身の往く道を迷わず示してくれた、彼女のように。

「ああ……っ!」

 空は気まぐれだ。今の事だって、偶然に決まってる。

 けれど、パーマーは信じた。いつだって、彼女は見守ってくれる。眩い光になって、迷った私の道を照らし続けてくれている、と。

「……ありがとう、ヘリオス。私の、太陽」

 これが、彼女なりの、別れの言葉。それでも、陽の光は少しずつ広がって、その先にある青空を映し出していく。

 パーマーは静かに傘を閉じ、まだ少しだけ顔に当たる雨粒も気にせず、眩い笑顔を煌めかせてその光の中を走って行くのだった。

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