7. The Red Cheeked Girl④

7. The Red Cheeked Girl④



森林と断崖に囲まれた土地に大きな爆発音が木霊した。

「…撤退するぞ」

そう呟いたのは襲撃者の中でも最も手練で厄介な能力を持った男だった。憔悴した浮竹達が追撃する間もなく襲撃者達は次々に一人二人と姿を森の奥へと消していく。

「クソッったれ…!! 」

「待ちやがれ!」

部下二人が叫ぶのを聞きながら浮竹は地響きの発生源へと目を向ける。釣られて海燕も背後を振り返り、未だ縛道で護られた小屋を視界に収める。

「よかった無事だ…」

海燕が安堵したのも束の間、浮竹が鋭い口調で指示を飛ばした。

「全員ついて来るんだ!! 隠し通路の入口が爆破された!!」

海燕は何の事かと口を開くも、浮竹が戦いの最中よりも険しい形相をしている事に気づいて言葉を引っ込める。

「みんなが危ない…!!」

「なッ…!?」

全身に悪寒が走り、海燕は縋るように梨子達が居る筈の方角を振り返った。


——そして、少し時は進み、暗い通路を死神の男が駆け抜ける。

童女は男の想定よりも疾い速度で洞窟…否、密かに掘られた炭鉱内を疾走していた。男は暫くそれを追いかけ、広い炭坑へと飛び出す。

男は立ち止まり、壁に備え付けられた電源を押し込んで炭坑の照明を起動する。すると、薄明かりの向こう側に小さな肢体が照らし出される。

炭坑の岩肌に手を添えた童女が、静かに男を振り返った。

「……そこは行き止まりだよ」

「そうみたい」

男は童女に歩み寄りつつ、腰に提げた鞘を押さえると斬魄刀を抜き放つ。

艷めく凶刃を見つめながら、童女が口を開いた。

「人質はとらなくてもよかったの?」

「……なんだ。気付いていたのか? どうやらウチの隊長よりも人を見る目があるらしいな」

「つまりすごいってこと?」

「…ああ、そうだ。褒め言葉のつもりだよ」

男がそう言うと、童女はにぱっと笑顔を浮かべる。

「うれしー!ありがとう!」

「…疑問なんだが。俺が納屋に来る直前に霊圧を練っていたのは鬼道を使うためか?」

「あれ…、霊圧ねってるのって分かっちゃうのー?」

ならあの子にも気づかれてたかな、と丸い眉の間に小さな皺を寄せて呟く。

「実力ある者で気づかない奴はいないだろうよ。何故あのとき逃げなかったんだ?」

「えー、お兄さんが来ちゃったからでしょー? あそこであばれられたら囮になってもイミないよー!」

「………………まさか、隊長達から逃げる為に鬼道を使おうとしたのか? 標的である自分を囮にすれば、彼等から襲撃者を遠ざけられると考えて?」

童女はそうだよ〜?と首を傾げる。まるで気づいてなかったの?とでも言わんばかりの仕草だった。

男は思わず苦笑する。

「まったく君は……失うには実に惜しい人材だな。それで? どうして俺が敵だと分かった? 後学の為にも教えてくれないか」

露悪的な口調の男に対し、童女はんー?と首を傾げると、「教えるぎりがないよー?」と惚けた口調で返す。

「そうか。それは残念だ」

男はそう言って童女の一歩手前で立ち止まり、細い首筋に斬魄刀を宛がった。切れた長い髪がはらりと地面に落ちる。

「なにか言い残す事はあるか?」

「うーんとねぇ〜? …失うにはおしい人材ってことは、お兄さんも仲間がほしいくらい護りたい大事なものがあるってことー?」

その質問に男は顔を顰めた後、小さく「それがどうした」と質問を返す。

「ないのー?」

「………あるさ。だが其れが何だ。最後の言葉がそれで良いのか?」

「だめー!」

「じゃあ何だ。言ってみろ」

男に催促された童女は今にも死にそうだというのにニッコリと笑顔を浮かべ言葉を発した。

「がんばってねー!お兄さん!」

男は言われた意味が分からずに沈黙する。

そして長い長考の末、まさか本当に状況を理解出来ていないのではないかと、男は童女の首筋を試しに薄く斬り裂いた。

真っ赤な血が流れる。

首を伝い、赤い襦袢に染みるのを男が見下ろす。

尚も童女は此方を何も言わずに見上げたままだった。その凪いだ黒い瞳に、男はようやく言葉の意味を理解する。

そして、強く眉を顰め、口を開いた。

「お前は…正気か…!?」

「いやはや、まったくですねぇ」

「…!」

知らぬ声に気を取られた男は童女の一瞬の動きに追いつかず、横へ強く引っ張られる。しかし倒れる前に受身を取り、流れる動きで地面から起き上がって童女から距離をとる。

「だれ? この子の仲間じゃなかったの?」

童女はそんな男に目もくれず、炭坑の明かりの奥、暗闇の中で外套の輪郭だけを浮かばせる第二の客人へ、悠然と問いかけた。


▼謎の人物から暗殺者への好感度18


「まさか!ありえませんよ。斯様な鼠と仲間だなんて、」

そう言いながら、男は暗闇の中から姿を現し言葉を続ける。

「——寒気がします」

外套越しの男の視線から滲む、血の気が引くほどの強烈な殺意に、暗殺者の男が僅かに一歩後ずさる。

「次に!『誰か?』という質問ですが、この場での回答は控えさせて頂きたい。非礼は後程、丁重にお詫び致します。そして最後に!」

男は照明の真下で立ち止まると静かに告げる。

「…これが本題です、フロイライン。我らが幼き"同胞"よ」




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