7. The Red Cheeked Girl②
「…来たぞ」
浮竹の言葉と同時に茂みの奥からdice5d4=13人の覆面を被った集団が現れる。
「縛道の八十一
浮竹は遣い手の限られた八十番台の縛道を複雑な印を結んだ後に詠唱を破棄して発動する。すると断崖を背にした小屋の四方を透明な壁が囲い込んだ。
隊長一人、席官二人、院生が二人、斬魄刀を抜き放ち敵へと構える。
「蒼純君、海燕君を頼む。あまり前には出さないでくれ」
「承知しました」
蒼純は指示通りに海燕の前に立つ。その遣り取りを聞いた海燕が不思議そうな顔で浮竹を問い質した。
「…戻れって言わないんですか」
「言ってほしいかい?」
「いいえ。言われても下がりませんよ」
「だろうね。だからだよ」
要領を得ない答えに海燕は引き続き、己の内から湧き上がる正体不明の疑心に葛藤する。
浮竹と蒼純、他二人も、少年の抱える疑心の正体に気付いていたが目の前の敵は彼らに問答する時間を与えなかった。
そして五人は、絶望的な人数差を前に臆すことなく——斬魄刀を振り抜いた。
Ⅲ
五人が小屋を去り生徒達の不安が高まる中、梨子はすうっと息を吸い込み吐き出す。そして口を開いた——その時だった。
突然ガタリと、後ろにある押し入れの襖が開いたのだ。
「——大丈夫かみんな!? 助けに来たぞ!」
押し入れから現れたのは死覇装を着た一人の死神だった。生徒達は皆、ぱちくりと目を瞬き男の現れた押し入れの奥をそわそわと覗き込む。
「何ですかコレ!?」
「どういう事です…?」
「悪いが問答をしている暇はないんだ。今直ぐこの通路から南門まで避難してくれ」
騒ぐ生徒達に男がピシャリと言い放ち押し入れの奥を指差した。生徒が当惑する中、小屋の外で高位の縛道が発動する。息を呑んで固まる生徒達を村長が強い口調で諭した。
「安心して下さい。この通路は、南門近辺の居住区へと繋がる護廷十三隊が所有する"隠し通路"です。浮竹隊長が皆さんをここに残したのは御自身が戦っている隙に皆さんを避難させる為なんです」
「詳細は移動中に話す。解ったらなら直ちに隊列を組め! さあ早く!!」
「「「は、はい!!」」」
生徒達は慌てて隊列を組み、梨子も保護者の生徒に促される形で押し入れの中に足を踏み入れた。
それでも後ろを気にして立ち止まる梨子を死神の男が諌める。
「戻っては駄目だ。君が戻れば、彼等の避難まで遅れてしまう」
「……」
「…問題は無い。これも我々の"計画"の内だ」
梨子はその言葉にようやく足を前に動かした。そして男は、生徒全員が押し入れの中へ入ったのを確認すると襖を閉じ、続く奥の壁に偽装した戸を固く閉めた。