68話
十二天将がひとつ天空と合一した幹久は恐ろしい存在に成り果てていた。下手をすれば並のサーヴァントすら圧殺しかねないほどの質量と呪を持っておそいかかってくる。
「明らかに人に扱える呪じゃねぇだろ…！」
ライダーとの戦いの余波で飛んでくる砂塵から目を護りつつ戦場を観察する。
自身の体から砂を圧縮しまるでウォーターカッターのごとく撃ち出しながらライダーを狙う天空、それを太夫黒に乗り華麗に避けがら太刀で斬りつけるライダー。
だがライダーの斬撃は効果が薄いのか斬られてもその部位の砂が散るだけでダメージを受けた様子がない。
「神永クンは私の後ろにいなさい。式神がない貴方は足でまといよ」
そう言って神永を後ろに下げて美作は宝石を使い即席の結界を貼る。
「あの身体、幾ら斬りつけても効果がない…ゴーレムみたいに核を潰さないとダメっぽいわ」
「つってもあのデカさだと核になってるであろう幹久を貫くのは厳しいぞ」
そう言いながら見上げる神永、今も尚、砂を身体に集め巨大化している天空の核を正確に探すのはほぼ不可能に近い
「しかも肉体になってる砂を繋げてる呪いのせいで見ずらいったらありゃしない…」
「そうなると核じゃなくて制御している奴を倒すのが先決かしら」
そう言って美作は天空の背後で呪符を展開しているキャスターを見る、その表情に余裕はなく脂汗を流しながら制御に苦心しているようだ
『ライダー、後ろで制御してるキャスターをねらうんだ、そうすれば細かい動きもできなくなる！』
『成程！因みに宝具はあとどれほど使えますか！』
『あと2回！令呪を使えば残り４回は行ける！』
『承知しました！』
手短に要件を済ませ念話をきり戦いへと集中する。
ライダーは太夫黒を自在に操りながら天空の繰り出す攻撃を避け続ける
「厄介じゃの…なれば…！」
キャスターは呪符を使い天空へと指示を出す。天空はその体から細い砂の触手を作り出し網のように広げライダーを捕らえんと振り上げる。
ライダーもその狙いに気づいたのか避けようとするが…
「甘いわ！！」
網となっていた砂が弾けライダー周囲を完全に多いそのまま圧殺せんと収縮しようとする、だが──────
「『喜見城・氷柱削り』！！！」
馬を霊体化させたライダーが凄まじい勢いで回転し砂を全てはじき飛ばした。そして連続で宝具を使用する──────！
「『壇ノ浦・八艘跳』！！！」
砂の壁がなくなり張角と直線上に重なった瞬間、ライダーの姿が掻き消え、瞬きの間にキャスターの正面へと跳躍する…！
「取った！！！」
「なっ…！？」
そして次の瞬間、ライダーの太刀はキャスターの霊核を穿いていた。
「ガッッッハ…！？」
キャスターは吐血しその血がライダーへとかかる。
「これで終いだ、キャスター…」
「ふ、フフ。そうかの…？」
既に限界を迎えエーテル体が解け始めたキャスターがライダーの背を指さす。
そこには未だ尚肥大化を続けている天空が居た。
「な…！？」
「ワシはあれを制御できるよう抑えてた、その枷をはずしてしまうとはの…ははは」
そしてキャスターの霊基は消失する、残ったのは正気を失った天空のみ。
「「お、おお…せい、めい…晴明いいいいいいい！！！！」」
吼えた天空はライダーへ向けその巨腕を振り下ろす。
ライダーは何とか回避するもキャスターのすぐ真後ろにあった聖杯が呑み込まれる
「何っ！？」
「嘘…！？」
マスターの二人は驚愕の声を上げる。そして天空は聖杯を呑み込み身体を1度大きく震わせその動きを止める。
ライダーはその隙にマスター二人の元へと駆ける。
「「お、おお、おおお！！」」
天空は声を上げると徐々にその肉体を収縮させていく、砂と呪いが圧縮され更には呑み込んだ聖杯から漏れ出たナニカがその肉体をよりおぞましい物へと変貌させていく。
そして、最終的に人よりふた周りほどの大きさに肉体は圧縮された。その姿は過去、大陸に居たような道士の姿となる。纏う衣は黄色を主体にし、蛇のような帯と道士とは思えないほどの筋骨隆々の肉体となった。
頭から生える日本の雷のような形をした二本の角と蛇のような縦長の瞳、その色は赤に染まっていた。
『なる、ほど…』
そして天空は声を上げる、その声には幹久の声はなく神気すら感じるほどの低く、それでいて荘厳な声であった。
「聖杯を呑んで姿が変わった…！？」
「あの姿…まさかあの聖杯に注がれた英雄の要素か！？」
「…あの肉体は金時殿、蛇の帯はアサシン、そして服はキャスターと考えれば可能性はあります」
『退け』
天空の声が響く、意志を持って声を放っただけの筈なのに突風でも吹いたかのような衝撃が部屋中を駆け巡る。
「なっ──────！？」
三人は何とかその場に踏みとどまるがそれだけであの怪物の恐ろしさが伝わった
「ッ…！」
ライダーは太刀を構え天空を見やる、対する天空はその手を幾度となく開きながら何かを確認している。
『まだ、馴染まぬか』
そして天空はライダーを見る、その目は捕食者のソレであった。
『貴様の霊基を寄越せ』
そして天空は手をライダーへと向ける。
「っ！？」
ライダーはその卓越した身体能力と戦場をかけてきた感から何が起きるか即座に理解し離脱する。
ライダーが離脱した瞬間、美作と神永の間に凄まじい深さの亀裂が入る。
「…は？」
「え、嘘…何が…」
「その場から離れて！早く！！！」
ライダーの叫びが響く、二人は何とか反応しその場から離れた。離れた瞬間、その亀裂から凄まじい数の岩の槍が突き出る。その場に留まっていたら貫かれていただろう
『邪魔者は退けた、来い』
「言われずとも…！！」
不敵な笑みを浮かべ天空を見やるライダーの顔には冷や汗が出ていた。