67話
太夫黒に乗り工房の奥へと駆けるライダー陣営。
行く手を様々な罠が阻むがさすがライダーと言ったところか、地面から槍が突き出れば跳躍して超える。悪霊がマスター達を狙ってくれば太刀で薙ぎ払う。道が崩れそうになれば崩れかけている足場を跳ねるように超えていく。
キャスターが仕掛けたであろう罠も特に機動力が高いライダーにとっては特段問題はないようだ。
そして、恐らくキャスターとそのマスター、土御門幹久がいると思われる扉の前へとたどり着いた。
「ここにキャスターがいるでしょうね、万が一を考え主殿達は太夫黒から降りてください。」
そう言ってライダーは2人を降ろす。
「ライダー、本当に大丈夫か?」
「心配しないでください、この程度の傷ならば大丈夫です!」
その表情には嘘は無い、痛みも引いているようで顔色は疲れが見えてはいるが悪くは無い。
「気合い入っているのはいいけどライダー、仕留めるのはキャスターよ。幹久には聞かないといけないことがあるからね?」
美作はライダーに釘を刺す、特にライダーの宝具を用いればマスター殺しは容易い。が、聞かなければならない事が多くあるのだ。
「わかりました、最優先はキャスターですね。お任せ下さい。」
そう言って扉の前に立ち開けるか試すが何か防護術式が張ってあるのか開かない。
「…よし、美作頼んだ。」
「ハァ…explosie(爆破)!」
美作が叩きつけた宝石により扉は吹き飛び黒煙が視界を遮る。煙が晴れ視界が開けた先には幹久とキャスター、そして聖杯が置いてあった。
「…嘘だろ、なんで聖杯が」
「ここが私の儀式の要のひとつだからだよ、太極内における陰中の陽を表す杯は教会に。陽中の陰を表す杯はここに。そしてライダーを倒しこの術式と君を照応させれば下準備は完了のはずだったのだが…」
「幹久、お前に聞かないといけないことがある。なぜアーチャーと契約したんだ」
「それにはワシが答えよう、ワシが工房から動けないからじゃよ。まぁワシの黄巾もサーヴァント相手には効きが悪いくてのぅ、義手に直接仕込んでおったんじゃが…分身がやられ制御が甘くなったとこで反乱されるとは」
キャスターの回答に神永は歯を噛み締め美作は舌打ちをする、だがライダーは高笑いをした後キャスターに向かって吐き捨てる。
「ハッ!英雄を縛ろうとするからだ、我らほど利己的で我欲の強い者はいないだろう。あのアーチャーとて例外ではなかったということだ」
「ふむ、成程確かにその通りのようじゃな…次があれば気をつけるとしよう」
そう言ってキャスターは後ろへ下がる、入れ替わるように幹久が前へと出て口を開く
「さて、能書きはこれくらいにして置こうか。まず隼人、再度問うが降参する気はあるか?」
「ある訳ないだろ」
「それは残念だ…」
そう言って幹久は上着を脱ぎ捨てる、そこには魔術刻印と何かの術式が刻まれていた。
「それは…!」
「ほう、さすがに神永でも知っていたか。これは式神を憑依させる一種の術式だ。そして我が家の刻印と合わせることで肉体の変性も行える。つまりは…だ!」
そう言って魔力が高まっていく、明らかに異常な程の量だ。そして徐々にその肉体が変生していく、周囲から砂が集まり幹久の肉体を中心に形をなしていく。
それは、巨大な道士の姿をした砂の怪物であった。
そして怪物は口を開く、その声は幹久の声と別の声が重なった不愉快なものであった。
「「我は天空、土を身とする十二天将が一である」」
十二天将───安倍晴明が残した術書、占事略决にて記された方位の象徴とも言える神将。そして日本の古くから存在する魔術師にとってはもうひとつの意味も指す。
安倍晴明が従える十二の式神、それが十二天将であると。
「なっ!十二天将!嘘でしょまだ術式残ってたの!?」
「それ以上にヤバいだろあれ!式神を自身と合一させるとか無茶苦茶にも程がある!術者の能力が低けりゃ式神側に乗っ取られるぞ!?」
事態に困惑している二人を見た天空はその手を2人に向け振り下ろした。
「っ!?危ない!」
ライダーが2人を掴み間一髪で回避することが出来た。
少し離れたところで二人を降ろし怪物へと向き直るライダー。
「美作殿、この状態で相手マスターを気遣う余裕はありません。良いですね?」
「仕方ないわ、やっちゃって!」
「承知!」
そして戦いが始まった。