66話
工房奥、聖杯安置所にて───
ライダーに斬られた片腕を抑えながらキャスターが何とかマスターの元へと合流する。
マスターである幹久は聖杯の最終調整へと入っていた。
「ハァ、ハァ…な、何とか逃げ延びれたわい」
「キャスター、無事か?」
「問題ない、お主が令呪を切ってくれたおかげで致命傷にはならずに済んだ。ただお主の魔力をもっと回してもらわんと回復が間に合わん」
そう言って水の入ったコップを取り出し札を溶かし一気に飲み干す。
「フゥー、これでだいぶ痛みはマシになったわ」
「分身の戦闘の際に令呪を切らなかったのは申し訳ない、アーチャーへの抑止のため必要でな」
「わかっとるわい、小僧の令呪を使ってライダーを自害させようにも下手に黄巾を使った洗脳や令呪を無理やり剥がすということをして小僧の能力を損なう訳には行かんからな…。それはそれとしてどうやってライダー達を倒す?ここまでに一応幾つかの罠は仕掛けてあるが…」
幹久もキャスター互いに難しい顔をする、そして幹久は覚悟を決めたように懐から一冊の本を取り出す。
「それはなんじゃ、魔導書か何かか?」
「安倍晴明が残した手記だ。」
開いたページにはとある式神について描かれていた。
そのページを見たキャスターは驚愕し、幹久を見る。
「お主、本気か…!?いや、諸々の条件やワシとの相性を考えればこれしかないが…」
「勝つ為にはこれしかない。キャスターの宝具は通じずしかも霊核が削れているなら尚更だ。」
そう言って幹久は術式を自らの肉体へと描き出す。
「…わかった、やるしかあるまい。───保険はかけさせてもらうぞ」
そう言ってキャスターは黄巾を広げマスターに巻き付けはじめた。
「ライダー、行けるか?」
「…少々お待ちください」
そう言って立ち上がろうとするも、厳しい様子。アーチャーの矢から美作を庇った際に受けた場所が悪かったのか力が入り切らないようだ。
「ライダー、馬を呼び出せるか?セイバーから逃げる際に使った。あいつに乗って行こう、幸いこの工房はそれができるぐらい広い」
「わかりました、来い!太夫黒!」
一陣の風と共に芦毛の美しい馬が現れる、ライダーを持ち上げて太夫黒の背の鐙に乗せて美作に手を伸ばす
「美作、乗れるか?」
「舐めないでよね」
手を掴み美作は鐙の後ろ側に座る、先頭にライダー。その後ろに続くように神永、美作といったように乗っている。
「多少重いかもしれんが行くぞ太夫黒!進軍!!」
ライダーが手綱を握り合図を出すと太夫黒は凄まじい速さで駆け出す。これならばすぐに到着出来るだろう。
「…ライダー」
「はい、なんでしょう?」
神永がライダーの腰に手を回し体を固定させながら質問を投げかける。その表情は本当に伝えていいのか悩んでいる表情だった
「二人に伝えておかないといけないことがある、実は──────」
その口から紡がれた言葉は後ろの美作にとっても寝耳に水だったようで両名共に驚愕の声を上げた。
「それ、本当?」
「本当だ、巫山戯るのも大概にしろってところだけどな。」
「……だとしても、私が戦い抜くことは変わりありません。このまま放置していい相手ではありません」
表情は見えないが確固たる決意の籠った声で返すライダー。
「それに、主殿を拐かした痴れ者に仕置をしなければなりませんし」
サラッと言ったがその声はまるで剥き身の刃のように恐ろしく冷たかった。
(ライダー…ちょっと怖いわよ?)
「そうか…思いっきりやってくれ!」
「はい!」
向かう先には恐ろしいほどの魔力が渦巻いていた、おそらくキャスターが迎撃の体勢に入ったのだろう。
「───これが正真正銘最後だ。頼むぞ、ライダー!」
「お任せを!」
土御門の工房を駆け、敵の元へと急ぐ。
残る英霊は、二騎───