65話

65話


聖杯戦争開始直前、土御門の工房にて───

京都、古より日本の霊脈の集合地とされ権威的にも魔術的にも重要な都市として扱われてきた。

そして四神相応に基づき造られた都市でもある。

「我が祖先、偉大なる大陰陽師、安倍晴明。彼により設計された護りを有するこの都市は四神により護られている。そして、この術式を持って四神と四象を照応させることでこの京の中に両儀を生じさせる。」

工房の中心に浮かび上がった幻像の京都の地図、そこに四象図と太極図が重ねられる。

「ほほう、成程成程。この地に太極を作り出すと。そしてその仕上げのためにワシを召喚した、と」

幻影の街を観察するキャスター、真名を張角。聖杯戦争が始まるよりも前に土御門幹久が過去の文献や一度参加した亜種聖杯戦争の経験を元に召喚したのだ。

「その通りだ、大賢良師張角殿。貴殿が仙人より授けられた太平要術を用いることで太極内の魔力の循環を安定させより効率的に莫大な魔力を霊脈より引き出す。聖杯はその呼び水に過ぎない。」

「ふむ、となると並の魔力量では足りんの。少なくとも安定させるには陰陽に対応した2つの炉心が、しかも英霊の魂を注ぎ込んだ聖杯が必要になる。」

あごひげを触りながら思案する張角。自身の願いのために自らを聖杯に捧げる訳には行かない。故に自分以外の複数。可能であるのならば炉心の性能は可能な限り同一なのが好ましい。

「問題ない。今回の聖杯戦争は聖杯をふたつ用意する。そして片方は既にこちらで調整済み…、この地点に既に設置してある。もうひとつの聖杯はこの地点、即ち教会に安置することとする」

「ふむ、聖杯の強度は?」

「おおよそひとつの聖杯につき英霊を三〜四騎呼び出すことが可能になっている。そしてキャスターを含め呼び出された7騎の英霊の内6騎を捧げることで炉心として完成する。」

「となるとワシは令呪で自害させるのかの?」

その問いに幹久はフッと笑みを零し

「否、その後の運用は貴殿に任せるつもりだ、あくまで私は根源に到達するための魔力を得られれば問題がない。それ以降の魔力は貴殿に譲る」

その答えに満足気な張角は笑顔で頷く。

だが幹久は不安要素を続けて口に出した

「ただし、この儀式を行うにあたりひとつ大きなハンディキャップを私たちは背負うことになる」

「ほう?それは一体?」

「この儀式を行うためには聖杯の魔力を動かす必要が出てくる、操作には張角殿の力を借りるとしても動かすための燃料が必要だ。」

「ほうほう、その燃料は確保済みなのか?」

「いいや、無い。故にこれを利用する。」

そう言って幹久は右手の甲を張角に見せる、そこには三角の令呪が刻まれていた。

「令呪…ふむ、つまり令呪を用いて起動を行う。そうなると令呪を聖杯戦争において使うことが出来ないのう」

霊脈の魔力を得るために聖杯に魔力を貯める必要があり貯めた魔力を計画どうりに流すには呼び水の令呪の魔力を用いる。土御門の計画を簡単にまとめればこういう事になる。

「相当な不利条件じゃな。しかし、これほどの術式を用いてお主は何をするつもりじゃ?根源に至るためだとしても明らかに敵を作るやり方じゃろうて」

その問を聞いた幹久は右手を血が出るほど握り締める

「私の目的は土御門の再興だ。過去の栄光、平安の頃のように優れた魔術師の一門として名を轟かし、我々が受けてきた屈辱を他の魔術師共にも味あわせるのだ…!」

───その為に、霊脈を暴走させ我らの領地を除く全ての霊地を壊滅させる。

「ホホッ!それはまた大きく言ったのう。となると…どうやってもワシは死ぬ訳にはいかんのう」

ふーむと何かを考えるキャスター、そして土御門へとある提案をする。

「マスターよ、ワシ聖杯戦争中、寝ることに決めたわ」

「…何を言っているんだ?キャスター、説明をしろ」

わかっとるわかっとると手を幹久の肩に乗せて落ち着かせる

「ワシの術式に自らの分身を作るものがあるんじゃが…その分身に戦わせようと思ってな。」

「…確かにそれならば他陣営の油断を付いて倒すこともできる」

「じゃが問題があってのぅ…魔力の消費や諸々の制約を考えると作れる分身は一体、しかもそいつが倒されればワシ自身の霊核を削り作っとるから出力がだいぶ落ちてしまう」

幹久は思案し、結論を出す。

「だがメリットは大きい、それで行く。運用はキャスターに任せよう」

「あいわかった、任せておけい」

───

そして現在、アーチャーの矢が神永達を貫かん発射される瞬間。アーチャーの手からボウガンが落ちた。

「何───!?」

「しまっ───!?」

アーチャーも驚いていた、だが呆けるのではなく回し蹴りを隣のキャスターへと叩き込む

「ライダー、儂ごとやれぇ!!!」

バランスを崩したキャスターをつかみライダーへと指示をする。

「くっ…ハァッ!!!」

ライダーの一閃がアーチャーへと叩き込まれる、そしてそのままキャスターを切り裂かんとしたが、懐の札から煙が吹き出し視界を遮る。そして煙が晴れるとキャスターはその姿をどこかへと消して言った。

「…助かった?」

「…みたいだな」

美作と隼人は状況に混乱していた。明らかにこちらが死ぬはずだったのだ。

「…奥に急ぎましょう、おそらく手負いのキャスターはそこにいます」

ライダーの指摘を受け二人は立ち上がり工房の奥へと向かう───

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