63話
───厄介極まりない。
ライダーがキャスターとの戦闘に入ってから常に思うのはこの言葉だった。
常にマスター達を狙えるように機巧人形を配置しつつ此方が踏み込もうとした瞬間、何らかの術で雷やら雹やらを降らせてくる。
「ほれほれ、しっかり守らんとマスターが危ういぞ?」
「くっ…」
マスター達へと殺到する機巧人形達、美作殿は持ち込んだ宝石と礼装で機巧人形達を倒しているが主殿は───!?
「まったく、式神がもう少しあれば楽できるのだけど。一々足さないといけないのが面倒ね」
み、美作殿が倒した機巧人形から布を剥ぎ取ってる!?
「ちょっと!何やってるのよ!!」
「手数を増やすだけよ。解錠(セット)」
指先を切り血を使って機巧人形の頭に何かを書いている?
「身は木に、血は血に、汝は我、我は汝。」
回路の光がつよくなったと同時に血で描かれた術式も輝き始める。
「汝の目は我が目、汝の耳は我が耳、繋ぎひとつとす」
詠唱が終わると機巧人形が動き始める。腕の一部が取れていたり頭が欠けている人形だが2体3体と増えていけばそれ相応の脅威となる。
「穂乃果の補佐と私を護りなさい」
只管術式を描きながら命令をくだす。術が上書きされた機巧人形達が張角の操る機巧人形に殺到する───。
「───ほう?やりおるな、ワシの術の切れた木偶を利用するか。じゃが、まだ精度が甘いのう。」
張角が手を振るうと機巧人形が穂乃果の操る機巧人形に殺到し一体ずつ素早く倒していく。
「カカ!その程度でワシの黄巾傀儡兵を倒せると思うたか!」
「ええ、思ってないわ。私がしたのは───時間稼ぎよ?」
「は───?」
「『遮那王流離譚第四景、壇ノ浦・八艘跳』!!」
一瞬、それだけあれば十分だった。ライダーの体が一瞬ぶれたかと思うと凄まじい速度で戦場を駆け巡る。
「くっ!?させるか!」
張角が黄巾傀儡兵へと指示を出しライダーが通る場所へと傀儡兵の壁を作り出す。だが戦場をかけるライダーは
「甘いわ!『遮那王流離譚第五景外伝!喜見城・氷柱削り!!』」
ライダーの持つ薄緑が発光したかと思うと宝具で加速したまま回転しながら傀儡兵の壁へと突進する。
そして凄まじい弟と共に傀儡兵の壁が吹き飛んでいく。
戦場の黄巾傀儡兵がどんどん数を減らしていく。手が足りなくなったのかマスターへと殺到していた筈の傀儡兵さえライダーへと向かわせる。キャスターが術を放つがライダーの一太刀に切り裂かれる。
「……舐めておったわ、ライダーよ。だが、ワシの願いの為負ける訳にはいかん!!!」
キャスターの魔力が一気に上昇する。宝具を発動するためだろう。ライダーも気付き止めようとするが傀儡兵が邪魔をする。
「此れなるは、天下の乱れを糾すべく、南華老仙人より授けられし、救世の秘術。即ち、太平要術なり!『蒼天已死、黄天當立(そうてんすでにしす、こうてんまさにたつべし)』!!」
発動したキャスターの宝具は凄まじいの一言だった。キャスターを中心とした砂塵が渦巻いたと思うと地下のはずなのに雹や雷が降り注ぎ始めた。その規模は発動したのが外であれば町を飲み込みかねない程のものであった。ライダーは即マスターたちの方へと向かう。
二人は美作の宝石での結界で防いではいるがそれも長くは続かない。
「穂乃果殿!令呪を!!」
ライダーが美作へと声を上げる、一瞬美作は躊躇するがここで死んでは意味が無いと令呪を発動させる。
「令呪を持って命ずるわ!私たちを守って!!」
「承知!『遮那王流離譚第三景、弁慶・不動立地』!」
ライダーに注がれた令呪の命令によってより強固な肉体を再現した弁慶が現れ三人の前に立ち放たれたキャスターの宝具の雷などを一身に受け止める。
「弁慶───貴様ならばこの程度受け切れるはずだ!!!」
ライダーが発した声に意思の無いはずの弁慶の肉体が口角を上げる。そして───。
土煙と炎が上がり目の前を覆う。並の英雄ではマスター等護りきれないはずだ……だが
「…くっ、これでも死なんか」
宝具の効果が切れ正面を見据える、そこにはボロボロになったライダーと多少傷を負った神永と美作がいた。
「魔力を回してください!」
ボロボロのライダーが声を上げキャスターへと向かう。ライダーの願いに答え美作と神永は回路を限界ギリギリまで回す。神永の表情が先程までの柔和な様子から何時もの気だるげな表情へと変わる。
「頼む!ライダー!!!」
「ッ!お任せを!『遮那王流離譚第二景、薄緑・天刃縮歩』!!」
ライダーが吼えキャスターへと神速の剣技を持って斬り掛かる。キャスターは防御をしようと傀儡兵を呼び出そうとするが先程の自身の宝具により吹き飛んでしまっている。札を使い防御をしようとした瞬間、腕ごとキャスターを切り裂き少し後ろで止まる。
「ハッ、ハッ、ハァ───」
荒い呼吸のライダーと崩れ落ちるキャスター。
「参ったの…、あの時、倒しておけば良かったわ…」
その言葉を最後にキャスターは消滅した。