61話
深夜、月が照らす京都の街にて聖杯戦争最後の決戦が行われようとしていた。
「…しかし、まさか工房がこんな場所にあるとは思わなかったぞ。霊脈の集合地や霊脈の上に敷設するのではなく」
───霊脈の無い空白地帯に作るとは。
フィリアが紫煙を吐き出しながら言い捨てる。
「おそらくは儀式の準備のため、と言った所でしょうか。霊脈からの干渉は最後の仕上げにのみ使用するのでしょう。それまではなるべく気取られない目立たぬ場所を選んだ…と言ったところですかね」
ハインリヒは冷静に状況を分析する。その視線の先の建物からは無数の機巧人形が湧き出していた。
ライダーはその様子を観察しながら呆れたように
「しかし…雑兵とはいえあの数は厄介ですね」
「だとしても行くしかないわ、作戦通り行くわよ!」
美作が回路を励起させたと同時に全員が臨戦態勢に入る、開戦の狼煙はフィリアの手榴弾型魔術礼装だった。
機巧人形の群れの中心に投げ込まれた礼装が起爆し相当数が吹き飛んだ。
「…なにあの威力」
「いやぁ恐ろしいですね、フィリアさんの切り札のひとつ。ルーンを刻み込んだ鉄片を複数内部に仕込むことでより爆発力と殺傷能力を向上させている。」
何その非人道的な兵器!?
「あと2回しか使えないがな、切り込むぞ!」
ハインリヒが黒鍵に紙片を走らせ投擲し土葬式典を発動させる。合わせてライダーも太刀を抜き凄まじい速さで道を切り開いていく。
亀裂が入り敵を飲み込まんと大地が口を開く。機巧人形達は逃げもせずまっすぐこちらへ向かってくる為亀裂へと飲み込まれていく。
落ちていく自らの同胞を踏みながらも向かってくる機巧人形にはライダーの斬撃とフィリアのサブマシンガンが炸裂しその機能を停止させていく。
「行け!嬢ちゃん!!!」
道が開いた瞬間、身体強化をし制御出来る限界ギリギリの速度で戦場を駆け抜ける。
正面の敵はライダーが、側面と後方から向かってくる機巧人形はハインリヒの黒鍵とフィリアの弾丸が蹴散らし道を創る。
「待ってなさい、隼人───!」
「───ふむ、まさか敗退した二人を引っ張って来るとは」
「厄介じゃのう…下手をすれば契約でお主の命が危ういぞ?」
遠見の魔術を使い工房の深部にて戦場を観察するキャスター陣営
「全く、聖杯戦争の契約が此処で響いてきますか…」
ため息を吐きながらもその顔には焦りは無い。
「少々計画をはやめましょう、隼人には既に投薬済みですので人格の発現まではそれ程掛からない」
「ワシはあの邪魔者の敗退者ふたりが侵入出来んようにするとするかのう」
キャスターが呪符に魔力を通し傀儡兵の行動パターンを変更する。侵入者を撃退するのではなくライダーとそのマスターのみを素通りさせるように。
残る二人には直接的な攻撃はさせず工房の入口に近付けないように自らの体で壁を作らせる。
ライダー達は正面突破のみに集中していたのか傀儡兵の行動パターンの変化に気づかなかった、気づいたのは多少距離の離れた場所にいた二人のみ。
「───不味い!誘い込まれている!!」
「これは…私たちがいることに気づいて方針を変えたか。水際作戦から縦深防御にしたようだ。」
変化に気づいた二人が忠告を飛ばそうとするも既にライダーと美作は傀儡兵の向こう側へと行ってしまっている。補佐を仕様にも目の前には傀儡兵で出来た壁がたちはだかっていた。
「さて…どうしましょうかねぇ」
「私の手榴弾で吹き飛ばせるが…流石に被害が甚大になりすぎるか」
互いに目の前の壁を乗り越える手段を有してはいる、がそれ以上にリスクが大きいのだ。
「ん〜、仕方ありません。ここで彼女が隼人君を連れて帰るまで待ちますか。」
そう言ってハインリヒ近くの木に背を預けた。
「…仕方ない、私の仕事は既に終了したってことで良いか?」
「ええ、彼女たちを無事に工房に届けるという依頼は完遂してます。後ほど報酬を振り込んでおきますね」
「頼んだぞ、嬢ちゃん達にも宜しく言っておいてくれ」
そう言ってフィリアは煙草に火をつけどこかへ消えていった。煙草を吸いながらまっずと愚痴を零しつつ。
「はてさて、彼女たちは無事にたどり着けますかね…」