6. fatalcrack④
「この方が一区の村長さんだ。すまない村長さん、急に押し掛けて…」
「良いんですよ。一応"今朝には"連絡がありましたし。それに、浮竹さんには子供達がお世話になってますから」
「そう言って貰えると助かるよ…」
「ただ…ご覧の通り、私ひとりでは片付けが終わらず…。生徒全員は入れそうにありませんね」
どうやら虚襲撃事件で家を失った一区の住民達が物資の保管場所として、この家屋を利用していたらしかった。
浮竹、教師、村長の三人は何やら話し込んだあとに生徒達の元へ戻ってくる。そして、教師が一班の生徒を連れて先に霊術院へ戻ると宣言した。
「一班の皆には歩法を修得してもらう必要がありますので、今日は残念ですが…早目に切り上げましょう」
一班の生徒達はせっかく護廷の隊長が講師としてやって来たのに、その技術を拝む前に帰るのかと落胆しながら帰路につく。
「二班と三班には鬼道の実践をしてもらう」
そう言って浮竹は生徒達を小屋の中へと案内し、縁側の戸を全開にする。雨に濡れた生徒達に村長が手ぬぐいを配った。
「さて、先ずは『破道の一』から始めようか。挑戦したい子はいるかい?」
蒼純と海燕、そして都と他数名が立候補し縁側に立つ。梨子は教師から受け取った教科書を抱き締めながらそれを観戦した。
生徒達が次々と破道を放つ中、村長が梨子へ声を掛ける。
「こんにちは。梨子様」
「…? こんにちわー!」
「私のこと覚えていらっしゃいますか? 南門で命を助けて頂きました」
梨子は女性の髪色で思い出す。逃げ遅れる町民を背負って逃げる紫色。それに追い縋る虚に霊圧をぶつけて気を引いた事を。
「南門のお姉さん!」
「やだ、お姉さんだなんて嬉しいこと言ってくれますね。ですが少々気恥ずかしいので、『村長』とお呼びください」
「村長さん…?」
見れば若々しく美しい女の目頭の下には皺ができていた。梨子は目を丸くして首を傾げる。
「この場をお借りて、一区の住民をお救い下さったこと心より感謝申し上げます。ありがとうございました」
「ううん……ぜんぜん…できてなかったよ」
「何を仰られます。とても勇敢でしたよ」
「そう…?」
「ええ、とても。普段からああして虚を退治しておられたのですか?」
「…村長殿。少し良いだろうか」
二人の会話を困った顔で聞いていた取り巻きの一人が眉根を寄せ、ようやく話を遮った。
「梨子様は五大貴族・綱彌代家の御息女であらせられる。不躾に質問を投げ掛けるのはお止め頂きたい」
「これは…申し訳ありません。私とした事がつい…子供が好きなもので……」
「構いません。今回は目を瞑ります。流魂街の住民に礼節を求めるのは酷な話だと、理解していますから」
村長は頭を下げてその場を辞し、部屋のすみへと下がる。梨子が困惑した様子で発言した生徒の顔を見上げた。
「……綱彌代家より、梨子様が南流魂街一区の住民と接触しないように配慮せよとの伝達がございました」
「どうして…?」
「彼らは受け入れ難い事に、先の虚襲撃の原因を梨子様だと誤認しているのです」
もう一人の生徒が補足をする。
「決して梨子様のせいではありません。これは残念ながら…良くあることなのです。流魂街から死神になった者は総じて、流魂街の住民から冷酷な扱いを受けていたと聞き及んでおります」
「……そうなの」
梨子は暫しの間、縁側から破道を放つ生徒達の後ろ姿を眺めると、勢いよく立ち上がった。
「——わたしもやる!」
「詠唱は覚えたのですかっ?」
「おうちで教えてもらったよー!」
そう言って縁側へと立つ。
穏やかな表情をしていた浮竹が、少し緊張した表情でその様子を見守った。
生徒達の視線が集まる。
皆が固唾を呑む中、拙い詠唱が雨音と響く。
「——破道の一