6. fatalcrack ①

6. fatalcrack ①



講義が終わる。

そして少しの準備時間の後、次の授業を知らせる鐘が鳴った。

教室の扉が開き、教師が入室する。


「皆さん。昨日お話した通り、今日は護廷十三隊から外部講師をお招きしております。どうぞ、お入りください。——浮竹隊長」


教師はそう言って一人の死神を教室へと招く。

入って来たのは白髪の男だった。その男は生徒達のあどけない姿を見るや朗らかに笑う。


「初めまして! 護廷十三隊で隊長をしている浮竹十四郎だ。今日はよろしく!」


生徒達が目を輝かせる。白髪の男は、海燕も名前だけは知っている護廷の隊長だった。

霊術院卒業生の中で初めて隊長職に就いた死神の一人であり、子供に人気の冒険活劇『双魚のお断り!』の執筆者でもある。

海燕は以前、暇そうにしていた梨子にその本を貸した事があったのでよく覚えていた。


「それじゃあ皆! 南流魂街へ行くぞー!」


「はい!」と威勢よく返事を返す生徒達を微笑ましそうに眺めていた浮竹十四郎の穏やかな視線が、ふと、教室の中央で固まったのを海燕は見逃さなかった。

止まった視線の先を、そっと振り返る。

そこには梨子が居た。しかし、男の視線が止まったのは一瞬。本当に視線の先が梨子なのかは分からない。肝心の梨子といえば、男の姿を不思議そうな顔で眺めるばかり。


海燕は僅かな疑心を抱く。


男の視線にではない。男と梨子、二人の『霊圧』にだ。

生徒達も幾人か疑問を抱いたらしく、二人の様子を交互に窺う視線が生じる。


しかし、誰もそれについて触れる事はせず、一同は指示されるがままに霊術院を離れ、『件の事件』が起きた南流魂街へと向かうのであった。





南方郛外区第一区 草原地帯


移動は浮竹十四郎を含め数名の死神が、まるで護衛のように生徒達に付き添う形で行われた。


「では、我々は巡回任務班に合流します」

「ああ! 頼んだ」


梨子は不思議そうに、浮竹十四郎とその部下らしき死神達の会話を聞いていた。

浮竹は立ち去る死神達を見送った後、足元でこちらを見上げる梨子に気付く。そして、脅かさないようにゆっくりとしゃがみ込むと、優しい声で語りかけた。


「実はまだ、虚襲撃の原因が判明していないんだ。だから事件以降、巡回が強化されたままの状態なんだよ」

「へぇ〜」

「あっ、そうだ! お菓子は好きかい?」

「んー……嫌いではない?」

「そうか良かった! じゃあこれをあげよう!」


そう言って浮竹は、死覇装の裾からお菓子を取り出した。

そして「これも」「あとこれも」「それとこれも」「これも美味しいよ!」と言いながら大量のお菓子を取り出す。怒涛の菓子攻撃に梨子は思考が停止し、差し出されるがまま大量のお菓子を抱え込んだ。

困り顔で立ち尽くす梨子に、何を思ったのか満足げに頷く浮竹十四郎。見兼ねた担任教師が手ぬぐいで袋を作りお菓子を詰め込むと、教材入れの中へ収めてくれた。


「せんせーありがとうございます!」

「恐縮です。それと梨子殿、浮竹隊長にも御礼を言ってあげて下さい」


梨子はそう言われると浮竹に向き直り頭を下げる。


「浮竹隊長、ありがとうございます!」

「どういたしまして。次はもっと沢山用意しておくよ!」

「えっ……いいえ! もうけっこうです! 」

「そんな! 遠慮しなくてもいいんだよ?」

「遠慮してません! でも浮竹隊長のお気持ちはとても嬉しいです! ありがとうございます!」


梨子は忖度なしにキッパリと断る。しかし、浮竹はこの歳でこんなにも他者への配慮ができるなんてと感心するだけだった。

そして、真剣な目差しで梨子を見据えて言う。


「大丈夫だ。子どもは甘えるのが仕事だからな。次は期待しくれ!」

「……? 分かってくれた?」

「ああ勿論!」


二人の恐ろしく噛み合ってない会話がひと段落したのを見計らい、教師が浮竹に耳打ちする。

すると浮竹は「ああ、すまない…!」と慌てて、既に整列していた生徒達に向き直った。


「それじゃあ皆! 準備はいいかい」


そう言うと、先程とは明らかに霊圧の変じた浮竹に、生徒達は緊張から居住まいを正す。


「これより、——"斬拳走鬼"の実践訓練を始める」



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