6代目×7代目

6代目×7代目


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ワンクッション

※6代目三冠×7代目三冠

※女装あり!(描写は少なめ)











「こんばんはー♡ステゴさん」

 ゲェ…わざわざ受付をのぞき込んできた男の顔に思わず「ディープ…」と零す。大きな紙袋を持って仕立てのいいスーツを着た男は、あまりにもこの寂れたラブホには場違いだった。

「一番可愛い部屋お願いします」

「…………」

 なにも言わずに鍵を渡す。それを無邪気に受け取った華奢な男。

「これがステゴさんの選ぶ一番可愛い部屋なんですね、楽しみです」

「うるせーさっさと行けボケ…………」

 ん?ディープの後ろにいるフードを目深にかぶった男が目に入る。ステゴの視線を感じ取ったのか、フードの男はディープの後ろにさっと隠れる。この寂れたラブホに仕立てのいいスーツを着た優男も場違いだが、その優男に対してラフな格好のフードの男もまた不釣り合いに見える。格好だけは。

「彼恥ずかしがり屋だから、あんまり見ないであげて」

 客をジロジロ見るなんて受付のやることじゃない。じゃないが、どうしても気になる。

 あのフードから覗く金の…。

「あとこれ」

 こそっ。わざわざ声を潜めてなにかをステゴの手に握らせる。

「逃げないでね」

 なんだよこれ、そう尋ねる間もなくディープはフードの男の腰に手を添えて楽しそうにエレベーターに乗り込んだ。




「いやらしい!!」

 部屋に入るなりディープを突き飛ばすフードの男。バサリとパーカーを脱ぎ捨てる。ふるふると首を横に振る振るとパラパラと柔らかい髪が光を反射してキラキラと金色に輝く。変な照明の部屋じゃなくて良かったなあ、なんて思うディープ。

「いやらしいってなにが?」

「手つき!さわり方!あとなんだよこの、こ、ここ、なんで、あの、あそこ、うちの親父がいるんだよ!」

「お父さんがそばにいればオルフェくんも安心でしょ?」

「なんにも安心じゃない!」

 顔を真っ赤にして怒鳴ってみせてもディープはただただ可愛いなあオルフェくん、なんてニコニコしてるだけ。

「まあまあ落ち着いて。ほらこの部屋可愛いね〜お姫様の部屋みたい」

「うう…見たくない…うちの親父が用意したお姫様の部屋みたいな部屋なんて見たくない…どんな趣味してんだよあの親父」

「だめだめしっかり見て。今のうちだよ冷静に楽しめるのは」

 手で顔を覆い隠そうとするオルフェを後ろから抱きしめて両手の自由を奪う。もうこの時点で冷静さなど地平の彼方に飛んでいってしまう。

 全体的にピンク色、花がらの壁紙にレースのカーテンがついたベッドにフリルのクッションが置かれたアンティーク風のソファ。ここで今から。ゴクリとオルフェの喉が鳴る。

「そう、ここで今から君は」

「あーーーっ!うるさいうるさいうるさい!!」

 力任せにディープの拘束を振りほどく。

「じゃあお風呂に入ろっか」

「えっ?い、い、一緒に?」

「一緒に入りたい?でもごめんね、まずは一人で入っておいで」

 優しくオルフェの頬を撫でるディープ。

 まるで自分が一緒に風呂に入ることを期待していたかのようで、オルフェはますます顔を赤くさせる。

「お風呂はあっち。あとこれ、上がったらこれ着てね」

 ディープは持っていた大きな紙袋をオルフェへと差し出す。明らかに怪しい。

「……なんだよこれ」

「君の着替え。僕の渡したものを君が着る。これがラブホの流儀なの。マナーなの」

「絶対嘘だろ」

「でも君は騙されてくれるよね?」

「…………」

 ディープを睨みつけながら乱暴に紙袋を受け取り、風呂場へとバタバタと駆けていく。

「かーわいい」

 バタバタなんて走り方、普段は絶対しない彼の小さな反抗に頬が緩まずにいられない。

「さて、と」




「なんだよこれは!!!」

 風呂から上がりたてほかほか、自分で綺麗にしてきたオルフェが風呂場から出てくるなり叫ぶ。

「やっぱり似合ってる。僕の目に狂いはなかったね!」

 お姫様の部屋みたいな部屋に、白いフリルをあしらったワンピースを纏うオルフェ。ディープは拍手で出迎えた。

「しかもひとが風呂入ってる間に着てきた服全部持ってくし!」

「だってそうしないと君着てくれないでしょそれ」

「もーーーおかしいおかしいおかしいあんたも親父も趣味おかしい!」

「おかしくないって。だってさ」

 オルフェの手を取ってレースのカーテンの中のベッドに導くディープ。なんだかんだで大人しくついてくるあたり、一回は文句を言わないと気がすまない気質が表れている。

 ベッドの縁に腰掛けて「ここにお座り」と自分の膝を指す。オルフェは少し逡巡してから、結局拒否しても結果が同じことを知っているから従った。無駄な体力を使うこともない。歩くたびにスカートの中がスースーするのが落ち着かないけれど。

 ディープの膝の間に座るとふわりと後ろから抱きしめられる。いや。

「服をプレゼントなんて”パパ”らしいでしょ」

「……………は?」

 抱きしめられるなんてそんな甘く優しいものじゃない。明らかにこれは拘束。離さない意志を感じる。

「誰がなんだって?」

「あ、ねえランジェリーは3種類くらい用意してたけど、どれはいたの?」

「あんなの選択肢あってないようなもんだろ!ひあっ?」

 無防備な膝を撫でられて思わず変な声が出る。

「ああ、あれかあ。ふふ、いいね〜、アレ、ね」

 スカートの中に手が入りそうで入らない。ただもどかしく肌に触れてくる。

「ちょっ、と、そのさわりかた、やだぁ」

 むず痒い。落ち着かない。そう訴えても聞き入れてもらえない。

「相変わらず体触られるの苦手だねぇ」

「ん、ん」

 膝、脇腹、首筋、鎖骨、地肌から服の上からもどかしい手つきが続く。

「ディープさ」

「違うでしょ、オルくん」

 食い気味に遮られる。耳元に口を寄せられ囁かれる。

「パパ、でしょ」

「ぱ…………」

 オルフェが振り返る。真っ赤な顔で思い切り眉を八の字に下げている。

「ぱ……ぱなわけないだろ」

「パパって呼んでくれなきゃオルくんのしてほしいことしてあげなーい」

「えっ……」

 膝から内腿へ、人差し指をつつつと滑らせる。けれど絶対、”その先”へは行かない。びくびくと反応する体がそれでは物足りないと嫌でも教えてくる。

「まずどうしてほしいのか、パパに一つずつ教えて?」

「ぱぱ、なんて、呼ば、あっ!ちょっと、どこさわってんだよ!」

「ここに来たらココさわるのは当たり前だよ?待ってたくせに。もっと可愛い声パパに聞かせてね」

「ひゃっ、あんたは、ぱぱじゃ、ない…!」

「ほんと強情だな〜。パパも俄然やる気が湧いてきた♡」

「ぱぱぁ…ぱぱとは、こんなこと、しない、ンッだからぁっ!」

 絶対パパって呼ばせるからね♡




 ハイ、パパはそんなことしませんよ!!!!!なんだあいつ頭イカれてるんじゃねーか!?俺よりイカれてるぞあいつ!!!

 ステゴはディープから渡された小さな機械から聞こえてくる愛息子のあられも無い声に頭をかきむしる。はっきりと聞こえてくる聞きたくもないディープとオルフェの会話。どういうことだか電源ボタンも音量ボタンも見つからない。物理的に破壊しようにも落としても叩いてもびくともしない。外に放り投げたら通りすがりの見知らぬ誰かに息子の声が丸聞こえになるかもしれない。なんだこの機械。

 あいつら俺の知らぬ間にそんな関係になってたのかよ!とか、いやパパってなんだよ!とか、言いたいことは山ほどあるが。

『ステゴさん、絶対彼に僕のことパパって呼ばせてみせるから最後まで聞いててね』

 オルフェが風呂に入ってる間に一方的に宣誓された。

『逃げたら君の息子、絶対返してあげないからね』

「……………」

 頭を抱える。どうやら現場も盛り上がってきた。地獄だ。ただラブホの受付やってるだけなのに。というか。

「パパなんて呼ばれたことねーーーよ!!!」

 ただただ早く二人のそれが終わることを祈るしかできなかった。


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