59話
キャスターの奇襲から逃れたライダー達は神永宅で一時休息を取る事となった。
「ふぅ、まさか私まで助けてくれるとは」
「…主殿の令呪によるものだ」
でしょうね、と言いながらハインリヒは軽く肩をすくめる。
「なんでキャスターが神永くんを狙ったの…しかもいつの間にか呪符を貼り付けるなんて…!」
「彼の持っていた鞄から飛び出た呪符ですよ、アレ」
ハインリヒはなんでもないように言う。そして続けた言葉に美作は戦慄することとなる。
「そもそも、彼の持ってた鞄。アレって土御門の関係者のものじゃないんですか?」
「───は?」
「おや?気づいてなかったんですか?」
その言葉にライダーは太刀をハインリヒの首筋に当て冷たい声を上げる。
「吐け、貴様の知っている全てを」
「はぁ、わかりました。とりあえずその太刀下ろしてくれませんか?」
両手を上げ降参の意を伝えつつ、ハインリヒは座る。
ライダーも太刀をしまいハインリヒの正面へと回る。
「さて、まず私がこの聖杯戦争に参加した理由から話しますか」
そう言って彼の口から紡がれたのはこの聖杯戦争の裏に潜む悪意だった。
───そもそも私がこの聖杯戦争に参加したのは聖杯を手に入れるためではありません。この聖杯戦争の開催者である土御門幹久、彼を捕らえるために参加したのです。
「ちょっと待って?聖杯の回収は良いの?」
「話の腰を折らないでください…今回使われている聖杯はあくまで通常の亜種聖杯と変わりません。術式の工夫等で英霊を7騎呼べるようにしていますが」
どこか納得のいかない美作はむぅと唸りながらも話の聞きに戻る。
「話に戻りますね?彼は亜種聖杯を用い霊脈に聖杯に溜まった魔力を流しこもうとしています」
「…は!?そんなことしたら霊脈が暴走して下手したら日本の魔術基盤に甚大な被害が出るじゃない!」
「はい、それ余波により海外の霊脈への影響。そして地震や噴火などの自然災害が起きる可能性が高いと予測しました。それに伴い聖堂教会及び魔術協会の上層部は秘密裏にこの聖杯戦争に自分たちの息のかかった者を送り込む事にしました。」
───聖堂教会からは魔術師狩りに特化した代行者を、魔術協会からは一級講師の凄腕とフリーランスとして名高い魔眼の傭兵をそれぞれ送り込みました。
「まぁ、その悉くが敗退してしまったのですが…」
「待ってちょうだい、他のマスターは?アサシンのマスターは唯の魔術師よね?」
そう言ってアサシン──望月千代女を召喚したマスターのことを尋ねる。
「彼は土御門の一派ですよ、彼自身気づいていなかったようですが」
そもそも聖杯戦争にて東洋の英霊を呼び出すこと自体が不可能なのだ、事前に聖杯に細工を行うなどしなければ…
「その情報を優先的に自分の利となる者へと流した、貴方もですよ美作穂乃果。」
美作の表情は驚愕と憤りが混ざった複雑な表情であった。自身が気付かずに犯罪、否魔術史に残るような大犯罪の片棒を担がされそうになったのだ。怒るなという方が難しい。
「そして最後の仕上げに土御門の協力者である男、神永鷗助がライダーを召喚することで勝ちとなるはずだったのですが…」
そう言ってハインリヒはパッと手を開き
「私が彼を殺したことで御破算となりました」
「…神永鷗助、隼人の叔父ね」
「ええ、彼は神永の刻印を継げないことに不満を持っていましてね。それ故土御門と協力することにしたのでしょう」
そして一つだけ残ったマスターの座を彼が、神永隼人が手にした。土御門の誤算は彼がマスターになったことだけ。
「ですので彼らは計画を変更した、貴方と隼人くんを利用し自分たちの邪魔になる存在を倒すと」
「待って、でも隼人が召喚できるかは不確定よ!」
「そのために彼の家にあらゆる仕掛けを仕掛けた、例えば彼の使っていた鞄型礼装。あれに陣と触媒を仕込んだのは土御門だ」
そう言ってライダーが退却する際に拾った彼の鞄を漁り鞄の骨組みに紛れていた何かを取り出す。それは1本の笛
「それは…!私が弁慶との戦いで使用した笛!?」
「これ以外にも彼の持ち物に召喚用の陣と触媒を仕込んでいたのでしょうね」
そして、あの夜。ランサーにより殺されそうになり回路が活性化したことで、召喚術式が起動した。
「その後は貴方達が経験した通りということです」
「なるほど、私の召喚の触媒はあの橋かと思いましたが…」
ライダーは腑に落ちた様子であった。だが美作は未だに疑問が残る様子だった。
「待って、だとしても違和感があるわ。なんでキャスターは神永クンを連れていったの?」
「そこまでは分かりません、ですがろくな事にはならない。何せ元々この儀式は───」
最初から彼が要であるからです───。