56話
廃病院の中でランサーとライダーが切り結びあっていた。
ライダーは縦横無尽に、壁を、天井を使った3次元的な動きでランサーを翻弄しながらも致命傷を狙う。
片やランサーはライダーの攻撃を槍で、鎧で弾きながら返しの突きやなぎ払いでダメージを与えんとする。
が、互いに決定的なダメージを与えることが出来ずにいた。
「飛ぶ鳥のごとき速さ、我が命を狙う鋭い剣筋。武人として貴様の才には羨望を覚える!」
槍を突き出しながら吠えるランサー、その槍の一撃は直撃すればたとえサーヴァントであろうとも致命傷は免れないだろう。
だがライダーはその槍を受け流し、いなし、躱す。
まるで風に舞う紙のようにひらりひらりとした動きで槍を躱している。
「ならばその首をよこせ、さすれば私の剣筋をその身をもってより深く味わえるぞ」
「ふはは!なんと容赦の無い言葉か、しかし正鵠をいているのも事実、この身が勝利を必要としなければそれもまた一興であったろう。だが!我がマスターに勝利を捧げるためにその誘いは断らせて頂こう、東国の天才よ」
ランサーは槍を薙ぎ払いライダーは避けるために距離をとる。
廃病院の1階ホールはそこまで広くは無い、それこそサーヴァントならば一息に相手の距離まで詰め寄ることが可能な程度の広さだ。
ライダーは思案する。この距離ならば宝具を発動すれば首を一息に斬ることが出来る。だがそれをあのランサーが織り込んでいないはずがない。外の駐車場のような広い場所ならばこちらの機動力で撹乱しながら戦えただろう。だがこの狭い空間では立体的な動きで惑わせはしても距離をとるような回避は難しい。
───ランサーの狙いは宝具によるカウンターか。
自分が宝具でランサーを攻撃するタイミングに合わせ自身の肉体から槍を放つ。確かにこれならば私が避けることは出来まい。
狙いを推測し、動きを定める。無駄な動きをする余裕などない。必要な動きのみに集中し、必殺を狙う。
「…ゆくぞ、ランサー!」
魔力を高め、ランサーへと突撃する。
が、ライダーの思惑は外れ、ランサーは即宝具を解放した。
「これこそが地獄の具現、不徳の報いを受けるがいい!!『串刺城塞(カズィクル・ベイ)』!!!」
ランサーが宝具を発動した瞬間、彼の周囲から無数の槍が凄まじい速度で生え始めてきた。しかも地面だけではなく天井からもまるで獣が顎を閉じるように槍が隙間なくライダーへと向かっていく。
「っ!?『壇ノ浦・八艘飛』!!!」
「もう遅い!!!」
ランサーの狙いに気づいたのか宝具を発動し退避しようとするライダー、だが初動の差でランサーの宝具による包囲網は完成してしまった。
それは、ライダーの命とも言える機動力。
それを奪う為の結界、十分な広さも動くための場所もない処刑場。
ランサーはライダーの動きを誘導し、より狭い場所へと閉じ込める為にこの場を決戦の場としたのだ。
ライダーは動くことのできぬよう槍で四肢が雁字搦めに固定されていた。指1本動かすことが出来ぬだろう。
「…何か、言い残すことは有るか?」
槍を構え、消耗したランサーはライダーへと問いかける。ライダーを捉えるために神経を削ったのかその顔に余裕は無い。
「そうだな、最後に主殿に逢いたい…というのはどうだ?」
「それは聞けぬ、ならば貴殿の主には勇敢な最後だったと伝えよう、東国のライダーよ」
槍を持ち上げライダーの頭蓋を貫かんとしたその瞬間。
「詰めが甘かったな、ランサー」
小さくそれでいてはっきりとした声でライダーの声が聞こえた瞬間、ライダーの懐から何かが落ちた瞬間
───光が一面を包んだ
「な、にっ!?」
『今です!主殿!!!』
神永side in
病院の中から凄まじい光が発生する。あまりの光量に目が眩むが合図を待つ。
『今です!主殿!!!』
「令呪を持って命ずる!」
ライダーからの念話が来た瞬間、回路を回す。
「おや、今更令呪ですか。流石に遅いと思いますが」
結界の外から神父が余計な声をかけてくるが無視する。
「宝具を解放しろ!ライダー───!!!!!」
その令呪の命令は、ライダーへと届き絶体絶命の状況を逆転させる…!
side out
令呪による命令が届いた瞬間、ライダーの魔力が爆発的に増加する。
そしてその魔力はライダーの宝具解放へと使われる
「『遮那王流離譚第一景、自在天眼・六韜看破』!!!」
ライダーの宝具が開放された瞬間、二騎の位置が移動する。
ライダーにとっては有利な、ランサーにとっては不利な立ち位置へと───
「いっ、たい…何が…!!」
何かが起きたと理解したランサーは閃光で目が潰れてもなお武器を手に隙を見せない、が…
「終わりだ!ランサー!!!」
ライダーの声とともに更なる真名解放が行われる。
「『遮那王流離譚第二景、薄緑・天刃縮歩』!!」
其れは、鞍馬天狗こと大天狗・鞍馬山僧正坊から伝えられし剣術その秘奥。一瞬の間にて敵との距離を詰め一撃にてその急所を切り裂く煌光の斬撃。
そしてその刃は、ランサーの霊格を貫いていた。