55話
ハインリヒ side in
全く、ランサーはどれだけ魔力を持っていくつもりなのだか…
ランサーがライダーを廃病院へと誘い込むまでは上手くいった、だがその後が想定外だった。
宝具を使用して結界としたのだ、本来ならば私が仕込んだ黒鍵での結界で病院に封じ込める手筈だったのだが…
『ランサー、一体どういう事ですか?』
『マスターよ、宝具を黙って使用したことは申し訳ない。だがそれ以上にああでもしなければ策が通じぬと判断した故の事だ。埋め合わせはライダーの首を持ってさせて頂く』
それ程までにライダーは素早かった…ということでしょうね。仕方ありません、少々予定を変更せざるを得ません、ただでさえ結界の維持などに魔力を持っていかれている。常人より魔力量が多いとはいえこれ以上宝具を連発されてはこちらが持たない。
『ランサー、宝具の真名解放はなるべく抑えてください。これ以上宝具を連続で解放となると私が持ちません』
『了承した、我が城の内であれば確実に仕留めて見せよう』
『ええ、お願いしますよ?』
ランサーは廃病院の中へと入っていく、その姿を視界に入れつつ結界に閉じ込めている2人を見ると様子が少々おかしい。
(…念話ですかね?)
少々ちょっかいをかけてみますか
「おや?念話ですか、コソコソ話されるのは寂しいですね、私も混ぜてくれませんか?」
「「…」」
「…つれませんねぇ」
…無視されるのは少々傷つきますね。
ハインリヒ side out
ライダー side out
主殿との念話を切り上げ、廃病院内を駆ける。
ひとまず病院から脱出しなければ不味い…、この狭い廊下や室内でランサーの宝具を食らってしまえば良くて重症、最悪致命傷を貰い敗退してしまう。
病院内の見取り図はご丁寧に破壊されており確認することが出来ない。
「…チッ」
舌打ちをしつつ駆け出す、止まっていては不味い。既にランサーは病院内に居り時間は無い。
(…出入口から脱出するか或いは屋上に向かうか)
少なくとも病院内でランサーと打ち合うことだけは避けたい。となると…
(屋上へ向かいましょう)
廊下の先にあるエレベーターへと向かい走り出す。目の前のエレベーターの扉を斬り中へと潜入し上へと向かおうとした瞬間、エレベーターの下から恐ろしく濃い呪いの気配が迫ってきた。
(っ!?)
即エレベーターから離脱すると下から無数の槍がせり上がり、エレベーター内に入ることができなくなってしまった…。
(…これは、誘われているな)
明らかに下階へと向かうよう仕向けられている。ランサーは随分と戦上手なようだ。まったく、舐められたものだ。
「良いだろう!異国の槍兵、雄々しき鎧武者よ!!正面からねじ伏せて差し上げよう!!」
この九郎判官義経に戦を、戦術で勝負を仕掛けるとはいい度胸だ。
エレベーターの隣にある階段を一息で降りていく、そして1階の受付があったであろうホールにて出入口を背に此方を睨みつけるランサーが仁王立ちしていた。
「…ライダー、我が策を知りながら正面から向かってくるか。それは蛮勇、或いは愚策とも言えよう。よって我が槍にて貴殿の罪過とその蛮勇を粛正せん!」
ランサーは何処からか1本の槍を取り出し此方へと切っ先を向ける。その槍は呪いにまみれているのかとても禍々しくおぞましい杭槍であった。
「はっ!貴様程度の策など我が兵法と刀にて両断してくれる!」
此方も刀を構えランサーへと鋒を向ける。
「いざ尋常に…」
「勝負!」
正面の敵へと互いに向かっていった
ライダー side out