5人目 非常食……じゃなくて船医
おれはヒトヒトの実を食べた人間トナカイのトニートニー・チョッパー、世界で一番偉大な医者がくれた自慢の名前を持っている。どんな病気だって治せる万能薬のような医者を目指す麦わらの一味の船医だ。
船長のルフィがおれを海賊に誘ってくれた。青っ鼻、化け物ってトナカイの群れからも、人間からも迫害されていたおれを海へと連れ出してくれたんだ。
ルフィの仲間になってからの冒険はこわ……くはねーぞっ!ちょっと……いや、かなりびっくりする旅の連続だった。仲間のビビとカル―の故郷のアラバスタ、おれの故郷のドラム王国と違った暑い暑い砂の王国、空島に海軍の要塞基地、色々なものが長ーい島、水の都や政府の島、ショボン玉が沢山でるヤルキマンマングローブの上にある町、海底の魚人島、灼熱と極寒の島、沢山の所を旅してきた、本当に凄い冒険だったけど、それ以上におれの乗った船の仲間はもっとすごいんだ。
いつも楽しそうにスリルと冒険を楽しむ面白くって強い船長のルフィ、迷子になるダメなやつだけどすごく強いゾロ、どんな荒波も航海してみせるナミ、ドキドキする話を聴かせてくれたり色んなものを作ってくれるウソップ、今まで食べたことがないくらい美味しい料理を作ってくれるだけど男には強いけど女にはものすごく弱いサンジ、すっごく頭の良いでもたまに怖いロビン、お腹に入れる飲み物で性格が変わるおもしろロボのフランキー、医者としてどうして食べれて排泄もできるのか不思議でしょうがない骨だけだから体重も軽いブルック。まだ正式になってないけどきっといつか元七武海の強ーい親分のジンベエも仲間になってくれるだろう。
おれ達は皆ルフィのことが大好きだ、心からルフィのことを慕っている。グランドラインのとある島でおれ達の記憶がなくなった時だって、なんだかんだ皆ルフィの言うことは聞いていた。
そんなルフィの一番最初の仲間はウタという人形だ。
初めての出会いはドラム王国でのおれとドクトリーヌが住んでいた城だった。
吹雪の中で『キィ~!!』と壊れたオルゴールの音が聞こえたんだ。「こんな吹雪の日にこんな崖を登ってくるやつなんかいやしないよっ」てドクトリーヌは言ったけど、どうしても気になっておれは音が聞こえた方へ行った。そこでおれはナミとサンジを背負ってやってきて倒れこんだルフィを見つけた、滑り落ちそうになったルフィを掴んで安全なところへ運んだ時にルフィの服にしがみ付いていた人形が『キィ!キィ!』と必死になって音を立てておれを見上げてきた、そしてナミをルフィをサンジを指差してまるで「助けてお願い」と言っているかのように土下座をしてきたんだ。
その動く人形がウタだった。
ルフィとサンジとナミの3人の中でナミが一番重症だった。不安そうに3人の間を行き来するウタを見て思わず「大丈夫、助けるから」と言ったら何度もペコペコと頭を下げていた。その仕草を見たドクトリームも「大丈夫さね、あんた等は運がいいよ。この娘の治療ができる医者は限られている、あたしゃその数少ない医者さねヒーッヒッヒ!」とドクトリーヌが言えばウタはペコペコの速度がさらにあがってよろけていた。
ドクトリーヌの指示のもとナミを部屋へ連れていって、ルフィは大鍋に湯を沸かして入れて、サンジは骨折していたからおれが治療した。途中でおれが人獣型に変形しても怖がらずにいてくれて目線が近くなったおれの蹄に両手で掴んでなんども頭を下げていたまるで「ありがとう、ありがとう」と言われているような気がして、おれの医術が誰かを救えるんだと思って嬉しかった。
ウタはルフィとサンジの治療が終わった後はずっとナミの傍にいた。ウタと一旦別れておれは嬉しい気持ちでルフィ達の様子を見に行ったら、すでに目覚めた2人に調理されそうになって必死に逃げた。今思い出してもあれは完全におれを食料として見ていて怖かった。
必死に2人から逃げて逃げて、ナミが休んでいた部屋に突っ込んだ。そしたらウタが『ギィ!!』って音を立てながらルフィとサンジに殴りかかって止めてくれた、スタッ!っと仁王立ちしておれをその小さな背中で隠すように守ってくれて、2人をキィキィと説教する姿にものすごく頼もしく感じた。怒られても諦めきれないのか「ウタ~トナカイ料理きょーみねー、ブヘッ!?」「ウタちゃん、どいてくれないかっ、ホゲッー!?」『ギィッ!!』とルフィとサンジがおれを食べたいという発言をするたびに、おれに触れた時のあのふわふわな感触からは想像できないほど鈍い音を立てて2人を殴るウタを見て、絶対ウタを怒らせないようにしようと思ったのは内緒だ。
おれがしゃべれることが恐くないのかと質問したら「「「まあ、動く人形もいるしトナカイがしゃべれたって別に」」」「キィ」って言っておれを怖がらないでいてくれたのが嬉しかった……でも、非常食って言われたことは恐怖を感じたからなルフィにサンジ。
ワポル達を倒して、ルフィの仲間になった最初の宴でルフィに教えてもらった踊りをしたり、ウタも楽しそうに音を鳴らしたり、みんなでワイワイ騒ぐのなんて初めての経験で、おれも群れの仲間になれた気がして凄く楽しかったのを覚えている。
メリー号での海の旅は見るもの聞くもの嗅ぐ匂いもなにもかもが新しく、嵐に見舞われたり陸にいた時は海に近づくことなんて殆どなかったから、海に落ちたルフィを助けようとしておれ自身が海に落ちることも沢山あった、その度に甲板にいることが多かったゾロ達に助けてもらった。ウタがよくタオルを持ってきてくれて優しく拭いてくれることも多かった。
ウタと一緒にお医者さんごっこをすることもあった。おれが医者ウタが看護師の役だ。
「ウタいいか?これが強心剤、こっちが抗不整脈剤だ、これは麻薬鎮痛剤だぞ」
「キィ」
「手術の時は医者がこう『メス』っていったら、こんな風に持ちやすいように渡してくれ、それとほどけにくい包帯の巻き方は……こう」
「キ!」
「ゾロはすーぐとるからなぁ」
「キィ~」
「……おい、おれを実験台にしながら文句言うなよ」
「なら包帯とるなよ!!」
「キィ!!」
なんて遊びのつもりが、いつの間にか実践的なことを教えていた。でもおかげで空島から落ちた海軍の要塞で軍医に変装して患者の治療の時は凄く動きやすかった。幸い、看護師たちはウタのことを本部の科学班の作った看護用ロボットみたいに勘違いしてくれて大きな騒ぎにもならなかったし、血が見るのが恐いと言っていたコバト先生を、ウタがオルゴールの音を奏でて緊張を解してあげていた。
おれは大きさ的にはウタよりも大きいからウタを守らなきゃって思うけど、ウタは結構強くて、体は小さいけど姉のような感じなんだ、幽霊を怖がるおれを撫でてくれたり「いしゃ~!!」って騒ぐおれを必死に指さして「おれだ~~~!!」って思い出させてくれたり、小さな体だから大抵の敵はウタよりも大きいのに立ち向かっていくんだ。だからなのかウタはよくケガをする、そのケガはおれには上手く治せないのが申し訳なかった。
人間の手術とは勝手が違って、くすみや汚れを落としたり、綿を詰めたり、小さく縫うのがおれには難しかった、だから今までウタを直すのはおれじゃなくナミやウソップにロビン手先が器用な、メンバーの役目だった。
いつかウタを治してあげたいなって思ってた、もっと手先が器用になったらできるかな?って呑気に考えてた。パンクハザードでルフィがトラ男のハートの海賊団と同盟を組んで、ドレスローザに行って七武海のドフラミンゴに襲われそうになるなんて怖い目にもあった、怖くて仕方なかった、今回の目的はいつもみたいに絶対に負けられない戦いなんてものじゃなくて工場だけの破壊って聞いてたから、早く壊して逃げようなんて思ってた。だけど、ウソップの言葉を聞いたときにそんな考えは吹き飛んだ。
ウタは血の通わない人形なんかじゃない、魂の宿った人形だの付喪神的な存在とかじゃない、悪魔の実の能力者によってオモチャに変えられた人間だったんだ。
今まではウタを直すのはおれの役目にはなれなかった、だけど、人間なら今度からは怪我をしたらおれが治してあげれる。ウタはどんな姿なんだろう?おれより背が高かったりするのかな?
悔しいが、おれ達はドレスローザには戻らず、先に進むことになった、トラ男が守ったカードをドフラミンゴに奪われないために、そして襲ってきた四皇ビッグマム海賊団を近づけさせないために、おれ達は別行動をとることとなった。
なあ、ウタ?ゾウで先に行ってまってるから早くきてくれよな。
ウタの本当の声ってどんな感じなんだろう?人間に戻っても、おれはいつものように一緒に踊ったり歌ったりしたいな!
ウタ、今度はごっこじゃなくてちゃんとした健康診断をしような、いざってときにウタをすぐに治療できるようにするのは今度からはおれの役目だからな!エッエッエ!