5ノレらしきもの
自販機からガタンと缶の落ちる音がする。
「は?」
「だからー、僕と付き合ってよ。ノレア・デュノク」
そう言った男は、いつものへらへらとした笑顔でこちらを見ている。
うっとうしい――
この暑さで、頭でも沸いたのだろうか。
「で、返事は?へーんーじー」
わざとらしいねっとりとした甘ったるい声で、返事をうながす。
一体、何を考えているんだ。こいつは。
今は隣にいない相方に助けを求めて、ため息を吐く。
彼女ならきっとすぐに、「気持ち悪い!」と、一刀両断してくれるだろう。
「何が目的なんですか?」
きっと、何かあるに違いない。でなければ、こんなことを軽々しく言うはずがない。
「えー。疑ってるの?ひどいなー。君のことが好きだからって言ってるじゃん」
(略)
※なんやかんやで付き合うことになったよ
「それじゃあ、明日からよろしくね。ノレア」
言いたいだけ言うと彼は、出来たばかりの恋人を置いて去っていく。
「なんだったの……」
その背を見送り、ようやく缶に口をつける。
「……ぬるい」
キンキンに冷たかったはずのそれは、外の暑さと一連の出来事により、冷たさは当の昔に失われている。
ずっと持ってるわけにもいかないので、残りの液体をいっきに流し込む。
「あまい――」
夏の日差しに、汗が一筋流れた。